現実世界にダンジョン現る! ~アラサーフリーターは元聖女のスケルトンと一緒に成り上がります!~

私は航空券A

乗り合い馬車は行く

 こんにちは、ヤマダです。私は今、乗り合い馬車に揺られ迷宮都市から一日の距離にある、とあるダンジョンへと向かっています。


 トコトコと揺れる馬車の乗り心地は、現代日本の乗り物と比べるもないもので。
半日も乗っていれば、お尻がとても痛くなってしまうこと受け合いです。


 しかし、その欠点を補って余りあるのは、この価格。
一日乗っても、銅貨たったの10枚、なんという低価格でしょうか。


 日本円にして、1000円にも満たないこの価格で一日中、乗っていられるのです。
タクシーでこの距離を移動したら、一体どんな金額になるのか、考えるのも怖くなってしまいますね。


 ちなみに、個人的に馬車を借りれば、銀貨10枚は越えるそうなので、いかに乗合馬車が安いのか、おわかりいただけるでしょうか。




 と、まぁ、冗談はさておいて。


 昨日、アリナリーゼからの提案を了承した俺は、ローズ達がとっていた宿で一泊し。
太陽が昇り始めた早朝と共に、乗合馬車に乗って迷宮都市を出発してきた。


 今回は、クリスティーナをローズの護衛に置いてきたので。


 俺一人でダンジョンに向かうはず、だったのだが……。




「ところで、ローズさん。迷宮都市にいるはずでは?」




 隣に座る、フードを被ったローズに声をかける。




「……っ」




 ビクリと肩を震わすところを見るに、もしかして変装したつもりなのだろうか。




「わ、わたしはローズなんかじゃないわっ。ろ、ロースよ!」




 なんだか、美味しそうな名前になっちゃったな、おい。


 おもむろに、ローズが被っているフードを引っ手繰る。




「あっ……!」






 すると、ふわっと綺麗な金髪が顔を覗かせた。


 これでもう、言い逃れはできまい。




「なぜ、ついて来たのですか? ローズ・・・さん」




 俺の言葉を受けて、ローズは。


 あっちへキョロキョロ、こっちへキョロキョロと、忙しなく目線を動かしたかと思えば。
ついに、観念したらしく、その目線をやや下にさげて俺へと向けると。




「だ、だって、これからダンジョンに行くのでしょ? 
ダンジョンといえば、冒険よっ! 私だって行きたいじゃない」




 このローズさん。自分が狙われていることを、完全に、忘れてしまっているのではないだろうか。




「こうしているうちにも、狙われる可能性もあるのですよ?」




「だ、だって、貴方がいるじゃないっ。宿に籠もっているよりも、ずっと安全だわっ」




 ああ、これはアレだ。


 冒険と、身の安全を天秤にかけて、冒険のほうへ振り切ってしまったのだろう。


 そんな、目をしているわ。


 だけど、その気持ちは、わからなくもない。
現に俺も、目の前にあらわれたダンジョンに飛び込んで、今に至るわけだから。


 しかし、だからといって。ローズを助けると決めたい以上、危険とわかったまま、連れて行って良いのだろうかと。


 ……やめだ、やめ。


 考えるのは終わり、来てしまったものは仕方がない。
なるように、なるだろう。敵が来たら、俺が頑張ればいいのだ。


 よし、その方向でいこう。




「わかりました。ただし、俺の指示には従ってもらいますからね?」




 俺の言葉に、あからさまに笑顔を浮かべたローズは、




「もちろんよっ!」




 と、言い放った。
















 乗合馬車は、トコトコ走る。


 最初は俺とローズだけだった乗客も、一つ目の馬車停を過ぎたあたりで、一組のパーティーが乗り込んできた。


 そのパーティーは四人組で、戦士風の男三人と、魔術師のようなローブを羽織った女性が一人。着込んだ装備を見ても、いかにも冒険者といった雰囲気だ。


 彼らも、ダンジョンへと赴くのであろう。




「よぅ、ニイチャン達も、ダンジョンへ行くのかい?」




 向かい側に座った彼らの中でも、一際いかつい男が声をかけてきた。
見た目は、盗賊団のお頭と言っても、違和感のない感じだけど。


 どこか人の良さそうに見える。




「ええ、そうなんですよ」




「にしても、パーティーは二人だけかい?」




「……まぁ、ワケがあって」




 ワケなんてないよ。ローズが勝手についてきただけ、なんだけどな。


 ただ、話しかけてきた男は、それを重く受け取ったのか。




「詮索はしねぇが、おたくも色々とあったようだな……」




 見てみれば、残りのパーティーメンバーも男の言葉に、ウンウンと頷く。


 こちらの世界も、パーティーに歴史ありといったところか。
ネトゲでそういうの沢山見てきたから、わかるよ。


 一人のヒメチャンのせいで、チームが解散とかよくあったもん。




「わるいことがあった後には、良い事があるって言うしなぁ。元気だせよなっ!」




 と、よくわからない内に、励まされてしまった。
まぁ、訂正するのも面倒くさいので、このままいこう。


 ちなみに彼等は、『黒鉄の剣』という名のパーティらしい。
目的地は、俺達と同じダンジョンとのことだ。




 ゴトっ。




 今まで、トコトコと揺れていた馬車が止まった。


 あれ、もう着いちゃったか。


 小さな窓から外を覗いてみるが、今まで、通ってきた街道と変わらない。
変わったところがあるとすれば、行く道を塞ぐように立つ男達。


 数は、だいたい20人くらいだろうか。


 どれもこれも、柄が悪そうなヤツラだ。




「盗賊団か……」




 俺に話しかけていた男が、そうつぶやくと。


 武器を準備し始める。


 目を移せば、他のメンバー達も、各々の武器を持ち始めていた。




「ここは、俺達に任せてくれ」




 そう言うと、勇み足で馬車を飛び出して行く、『黒鉄の剣』のメンバー。


 自信たっぷりな彼等に任せておけば、きっと大丈夫だろう。




 と、思っていたのは数分前。




「ね、ねぇ……大丈夫かしら?」




 ローズが不安そうな声をあげる。


 それもそのハズ、自信満々で出て行った『黒鉄の剣』のメンバーだったが。


 あっと言う間に盗賊団にやられ、地面に倒れているからだ。




「……大丈夫じゃないでしょうね」









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