現実世界にダンジョン現る! ~アラサーフリーターは元聖女のスケルトンと一緒に成り上がります!~

私は航空券A

刺客2

「ご主人様、お怪我はありませんか?」




 クリスティーナ達が駆け寄ってきた。


 岩を粉々にした際に、破片でも飛んでいないか心配だったが、元気なその姿を見て安心する。


 どうやら、その心配は杞憂に終わったらしい。




「ああ、大丈夫だよ。ありがとう、クリスティーナ達も無事でよかった」




 そして、ローズの方に目をやれば、なにやらキラキラとした目線を向けられた。


 なんかこう、キラッキラと効果音がつきそうな感じ。




「……どうしました? ローズさん」




「……っ!」




 俺の問いかけに、少し顔を赤くしたローズは、大袈裟に手を振ってみせる。


 まるで、何かを誤魔化すような仕草だ。


 もしかして、オシッコでも漏らしてしまったのだろうか。
それなら、気がつかないフリをしてあげるのが、大人の男というやつだろう。




「な、な、なんでもないわっ。き、気にすることなんて何もなにのよっ」




 と、よくわからない返答が返ってきた。


 なので、ここはスルーをして話を進める。
空気を読める男って、こんな感じじゃんね。




「しかし、先ほどの少女もローズさんを狙った刺客でしょうか?」




 俺達を襲ってきたのは、紛れもない事実だ。
だけど、ローズを直接的に狙ってきた傭兵団とは少し毛色が違う気がする。


 強さもそうだけど、ケロノアを真っ先に狙った点を考えても。
我慢できずに、つい出てきてしまった、という感じだ。




「……そ、そ、そうねっ! きっと、私を狙っていた刺客に違いないわ。
また貴方に助けられてしまったわね、そ、その……感謝するわっ」




 と、ローズから感謝の言葉をもらった。
それを見ていたクリスティーナが、どこか誇らしそうにしている。


 もし、クリスティーナに尻尾があれば、きっと左右に揺れているはずだ。




「それにしても、証言者を失ってしまったのは痛いですね」




 ケロノアの遺体に目をやる。


 こちらの世界に来て、初めての人間の死だ。
それを見て、感じることは多々あるが、感傷に浸るのは後回しだ。


 今は目の前のことに集中しなくては、ローズや、もしすれば、クリスティーナ達にも危害が及ぶかもしれないからな。


 気持ちを引き締めていこう。




「……ええ、確かに儀礼通貨だけでは、証拠として弱いと思うわ。
きっとお姉様のことだから、あれやこれやと、言い逃れてしまうわ」




 傭兵団を逃がしてしまったのは、ミスだったかもしれない。
とはいえ、乱戦を防ぐにはアレが有効だったのは間違いないだろう。


 俺のモットーは、『安全第一、命大事に』だ。


 と、ここで思い出した。


 なにもこの事に関わっていたのは、傭兵団だけじゃない。


 ポロロ村の村長もそうだ。


 傭兵団リーダーの証言よりも弱いが、無いよりはマシだろう。
一つ、一つが弱くても、それが集まれば説得力が増すはずだ。




「とりあえず、ポロロ村に戻りましょう。俺達をハメた村長を尋問すれば、何かわるかもしれません」




「ええ、そうねっ」




 ケロノアの遺体に手だけ合わせて、俺達は来た道を引き返した。
















 行きは20分くらいかかった道のりだったが。
急いで戻ってきたおかげで、その半分くらいの時間でポロロ村に着いた。


 鼻につく焦げ臭い匂い。


 目の前には、村を焼く炎が広がっていた。


 おう、マジか。


 ここまで、やっちゃうのか……。
ファンタジーな部分が、ファンタジーしてないぜ。


 とにかくアレだ。助けれる人は助けないとな。




「まだ、生きている人はいるかもしれません! 救助しましょう!」




「そうねっ」




「はい、ご主人様っ」




「わかりました!」




 俺の言葉に、ローズ、クリスティーナ、クレアさんが続く。












 結果から言えば、誰も助けることが出来なかった。


 と、言うよりも、最初から村人は死んで・・・いた。


 もっと正確に言えば、何者かに殺されていたのだ。
それはまだ、焼け焦げていない遺体から判明した。


 どれも、目を背けたくなるような刃物傷が残っていたからだ。


 きっと、村長の口封じに、村ごと始末したのだろ。
映画とかではよく見る光景だが、現実に目の当たりにすると気持ちの良い物じゃない。


 悪意をそのまま、突きつけられているような、そんな気分になる。


 しかし、証言者がいなくなった以上、このまま、ここにいても危険なだけだ。
襲撃は一度だけだったが、二度目が無いとは限らない。


 ここは一度、迷宮都市にでも、戻ったほうがいいだろう。


 そこで態勢を整えて、次の対策を考えよう。
乗りかかった船だ。ローズの安全が確保されるまでは協力しようと思う。




「こうなった以上、ここに留まる理由もありません。一度、迷宮都市まで戻りましょう」




「ええ、そうねっ」




 どうやら、俺のだした意見に賛成らしく。
ローズ、クリスティーナ、クレアさんも共に頷く。


 それから、歩いて乗り合い馬車停まで戻ると。
タイミングよく来ていた、迷宮都市行きの馬車に乗ることが出来た。


 クレアさん曰く、乗り合い馬車は時間にアバウトらしく、待つ時間がなく、乗れるのは運が良いらしい。


 こうして、乗合馬車に揺られること半日。


 迷宮都市に着いた頃には、すっかり陽も沈みかけていた。
時刻にして、午後六時を過ぎた頃合だろうか。


 街灯は街を照らし、家路に着く人々、酒場や屋台で舌鼓を打つ者と様々な人々が行き交う。


 今宵の宿は、ローズ達が泊まる『狼の尾っぽ亭』で、部屋をとる事にした。
猫のマタタビ亭でもよかったのだが、近いほうが何かと便利だからな。


 街を歩き、へ向かう。


 場所は大通りを抜けて、少し行った所にあるらしい。


 そこで、一つの屋台に目がいく。


 野菜と肉が入ったスープに、小麦粉か何かを練って作られた、蕎麦掻のような食べ物を売っているようだ。


 俺の目を惹いたのは、そのスープではなく。


 それを、はふっはふっと、一心不乱にかきこむ幼女の姿だ。




「……あ」




「……あ」




 そこにいたのは、つい午前中、俺達に襲いかかってきたアリナリーゼだった。





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