現実世界にダンジョン現る! ~アラサーフリーターは元聖女のスケルトンと一緒に成り上がります!~

私は航空券A

境界の回廊3

「大きいなぁ……」




「大きいですね……」




 遠目から、中央に鎮座する巨大な亀を、眺める俺とクリスティーナ。


 クリスティーナもエンシャント・タートルを前に呆けている姿を見るに、
やはり、この世界でも、この亀はデカイらしい。


 その巨大な甲羅から伸びた首は、悠々と地面に寝かせ、目を閉じたその姿は。
あたかも、自身より強者がこの場にいないと、主張しているかのように思える。


 前のゴーレムと同様に、この巨大な亀もまた、こちらが近づかなければ攻撃してこないようだ。




「とりあえず、休憩するか」




「そ、そうですねっ」




 近くにあった崩れた石材に腰掛、アイテムパックからスポーツドリンクを取り出して。


 ゴクゴクと、喉に流し込む。


 ふう。


 しかし、この亀、本当にデカイよな。


 いや、デカイのは好きだよ、巨大生物とかロマンが詰まっているし。
だけど、デカイっても限度があると思うんだ。


 亀の後ろに薄っすらと見える出口と、此処に降りてきた階段。
それと比較しても、何倍も大きい。


 あの亀は一体、どうやって此処に来たのだろうか。
いや、ダンジョンに常識を求めるのはやめておこう。


 あの亀が、フロアマスターである都合上、倒さなくては前に進めないわけだから。


 とりあえずは、一発殴ってから考えるとするか。








「クリスティーナ、まずは一人で攻撃してみるから待っていてくれ。何かあったら、回復魔法よろしくな」




「わかりましたっ、任せてください」




 バット手にゆっくりと、エンシャント・タートルに近づく。


 狙うは、甲羅から伸びているあの頭だ。
岩のような甲羅や、大木のような足を狙うよりか、大分効率的だろ。


 5メートル程度、近づいてもまだ反応はない。
3メートル、2メートルと、その距離を縮めていく。


 1メートルをきったであろう時だった。


 今まで閉じられていた、エンシャント・タートルの目が、カッと大きく開いた。
そのタイミングでバットを振り下ろすが、一瞬、早く首が甲羅の中へと入っていった。


 空振りに終わったバットが、地面に叩きつけられる。


 おう、マジか。


 図体に似合わず、素早いじゃないの。


 ズズ……と、地鳴りのような音が響き渡る。
それにともなってエンシャント・タートルの体が、左へと傾いていく。


 そして、上げられた左足。


 パラパラと、砂が落ちてきたかと思うと。


 巨木を思わせる左足が、俺のいる場所へ落とされる。


 ズドンッと、重低音が体に響いた。


 間一髪、転げながらも左足の攻撃を避けた俺は。
エンシャント・タートルから、少し距離をとる。


 さすがにアレで踏まれたら、タダでは済まなそうだ。


 やはり、狙うとすれば頭か。


 などと、脳内作戦会議をしていたのも束の間、甲羅から勢い良く出てきた頭が、口を大きく開いて液体が吐き出す。


 咄嗟に、後ろ側に飛んでソレを避ける。
そして、着弾した液体は、その場にあった石材を溶かした。


 石材から、あがった蒸気が鼻腔を刺激する。
生ゴミから発せられるような悪臭だ。


 避けたことで距離が警戒範囲から外れたのか、エンシャント・タートルは、
その首を、地面に下ろして元いたように目を瞑った。


 ははん、わかったぞ。


 これはアレだ、腕力パワーを試されているのだ。
きっと、この強固な甲羅を越えて来い、的なサムシングだろ。


 狙いやすそうな、頭をあえて見せているのも。
ミスリードを狙った、ものなんじゃないだろうか。


 俄然、そんな気がしてきたわ。
ちょっと、やまだ的にヤル気が沸いてきたぞ。




 今度は、前回のように、ゆっくりと近づくことはしない。


 最初から、全力疾走だ。


 エンシャント・タートルの警戒範囲に入ると、その頭は素早く、甲羅の中に入っていく。
十分な助走がついたところで、甲羅へと飛び乗る。


 目指すは、甲羅の頂上。


 甲羅はザラザラとして、その上、凹凸がある為に思っていたよりは登りやすい。
そのおかげで、すんなりと甲羅の頂上に着いた。


 先ほどと、同じように左足があがるが、これを出っ張った部分を掴んで、落とされないように耐える。
エンシャント・タートルの動きが収まったところで、バットを甲羅に打ちつける。


 まるで、石に打ちつけたような感触が、バットを通して伝わってきた。


 打ちつけた部分の甲羅が、欠け飛び散る。


 よし、数打てばいけそうな気配。


 次は、スキル『フルスイング』を使ってバットを打ち込む。
このスキルは、MP消費して、STR値を10%アップさせるものだ。


 『フルスイング』で強化された一撃が、甲羅に小さなヒビを入れた。


 打撃音も、幾分か重くなった気がする。


 エンシャント・タートルも、俺を振り落とそうと体を振るが、これに耐えながら何度もバットを甲羅へと打ち込み続けた。


 打ち込んだ回数が、20を越えたところで、ヒビが甲羅全体にに走りだす。




 ピシッ……ピシピシィッ。




 パリンッ。




 甲羅が、粉々になった瞬間だ。




『ピギュウウウウウウウウッ』




 エンシャント・タートルが叫ぶ。


 背を走り、露になった頭に向かって『フルスイング』の一撃を。


 エンシャント・タートルの頭部が、肉片となって吹き飛ぶ。


 そして、硬くなっていた筋肉から力が抜けてエンシャント・タートルは地面に沈んだ。




 ピッ。




『フロアボスの撃破を確認しました。』




 どうやら、ボス戦終了のお知らせだ。

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