年下御曹司は白衣の花嫁と極夜の息子を今度こそ! 手放さない
Chapter,4_08. 新月は極光を魅せつける
あれから一か月が経過した六月中旬の土曜日。
沓庭にも梅雨入りの便りが届いたが、今日は引っ越し日和の曇り空をしていた。
「荷物、これで全部だよな」
「ん」
一週間ほどで退院した朔は、淑乃と灯夜と一緒に暮らすための家を探し、大学敷地内からほど近い場所にある建売住宅を購入していた。
学園都市の後期土地開発によって建てられたというその家は、もともと農地だった立地の関係上、ほかの家よりもひろくて縦に細長い形になっている。カースペースが一台しか取れなかったというが、淑乃は免許を持っていないので特に不満もない。むしろ三人で暮らすには充分なひろさがある。
三角屋根と淡いオレンジ色の外壁が可愛らしくて、なんだかお城のようだった。
玄関前の表札には『KAIDO』の文字。これからここで暮らしていくのだと心を新たに、淑乃は荷物を運び入れていく。
「あれ? トーヤは?」
「篠塚先生のところにお菓子食べに行ったわ。物心ついたころからなんだかんだでお世話になっていたからね」
「パパって呼ばせていたくらいだものな」
「仕方ないじゃない。あたしひとりじゃアカツキくんを牽制しきれなかったんだから」
「暁に……結婚のこと、伝えてもいいか?」
「むしろとっとと連絡しなさいよ。結婚式には呼ばないといけないだろうし。なんだかんだでサクくんのたったひとりの弟なんだから」
「……だな」
段ボールを家のなかへ入れた朔と淑乃は、彼が一足早く購入したリビングのソファに腰かけて休憩をはじめる。灯夜が篠塚のところにいると知った朔は、ここぞとばかりに淑乃の肩に自分の頭をのせて、甘えるように言葉を紡ぐ。
「ようやくここまで来れたな……」
「サクくん」
「よしのとトーヤと、三人の生活がはじまるんだ」
月末に婚姻届けを提出して入籍手続きを済ませたら、淑乃と灯夜の苗字は海堂にかわる。
七月に親族間でシンプルな結婚式を行い、年末に全体向けの披露宴を行うことではなしは落ち着いていた。披露宴の招待客の多くは朔の会社関係者になるだろうが、淑乃の職場の同僚や学生時代のサークル仲間なども招待するつもりだ。
お披露目が済んだら、灯夜の休みに合わせて海外旅行にも行きたい。淑乃はそこまでしなくてもと呆れていたが、朔はいままで傍にいられなかった妻と息子のためにたくさんの思い出をつくっていこうと決意していた。
感慨深そうに呟く朔の黒髪を撫でながら、淑乃も微笑む。
「ん……三人じゃなくなるかもし」
「それって!? ――おい、身体は大丈夫なのか? いつ気づいたんだ? 俺が入院しているあいだか? 結婚式できるのか? 仕事はどうするんだ? それよりさっき重たい荷物運んでただろ? なんで先に言わないんだよ!」
「――あのねえ、サクくん。はなしはちゃんと最後までききなさい!」
まったくもう、と苦笑しながら淑乃は恥ずかしそうに言葉を選ぶ。
この先、三人じゃなくなるかもしれないよね、と言いたかったのだ、と。
「あたしはこの先、この新しいおうちで、家族が増えたらいいな、って思ったの」
灯夜に弟か妹をつくってあげたい。
三人家族でいるのもいいけど、叶うことなら賑やかな家庭をつくりたいと、淑乃は朔の漆黒の瞳を射るように訴える。
朔が入院しているあいだ、淑乃は彼の父親とその妹弟とたくさんお喋りをした。明夫と光子と陽二郎、個性の強い三人のそれぞれの生き方や、幼い頃の朔と暁の兄弟のエピソードをきいているうちに、憧れが強まっていったのだ、と。
ぽつり、ぽつりと慈雨のように願い事を口にする淑乃に、朔は目をまるくする。
「……トーヤに、弟か妹を?」
「出産のときに二人目は難しいかもって言われたんだけど……」
「よしの」
「サクくんとの子ども、もっとほし――……」
淑乃が希ったその言葉は、最後まで口にできなかった。
朔の唇のなかに、吸い込まれてしまったから。
沓庭にも梅雨入りの便りが届いたが、今日は引っ越し日和の曇り空をしていた。
「荷物、これで全部だよな」
「ん」
一週間ほどで退院した朔は、淑乃と灯夜と一緒に暮らすための家を探し、大学敷地内からほど近い場所にある建売住宅を購入していた。
学園都市の後期土地開発によって建てられたというその家は、もともと農地だった立地の関係上、ほかの家よりもひろくて縦に細長い形になっている。カースペースが一台しか取れなかったというが、淑乃は免許を持っていないので特に不満もない。むしろ三人で暮らすには充分なひろさがある。
三角屋根と淡いオレンジ色の外壁が可愛らしくて、なんだかお城のようだった。
玄関前の表札には『KAIDO』の文字。これからここで暮らしていくのだと心を新たに、淑乃は荷物を運び入れていく。
「あれ? トーヤは?」
「篠塚先生のところにお菓子食べに行ったわ。物心ついたころからなんだかんだでお世話になっていたからね」
「パパって呼ばせていたくらいだものな」
「仕方ないじゃない。あたしひとりじゃアカツキくんを牽制しきれなかったんだから」
「暁に……結婚のこと、伝えてもいいか?」
「むしろとっとと連絡しなさいよ。結婚式には呼ばないといけないだろうし。なんだかんだでサクくんのたったひとりの弟なんだから」
「……だな」
段ボールを家のなかへ入れた朔と淑乃は、彼が一足早く購入したリビングのソファに腰かけて休憩をはじめる。灯夜が篠塚のところにいると知った朔は、ここぞとばかりに淑乃の肩に自分の頭をのせて、甘えるように言葉を紡ぐ。
「ようやくここまで来れたな……」
「サクくん」
「よしのとトーヤと、三人の生活がはじまるんだ」
月末に婚姻届けを提出して入籍手続きを済ませたら、淑乃と灯夜の苗字は海堂にかわる。
七月に親族間でシンプルな結婚式を行い、年末に全体向けの披露宴を行うことではなしは落ち着いていた。披露宴の招待客の多くは朔の会社関係者になるだろうが、淑乃の職場の同僚や学生時代のサークル仲間なども招待するつもりだ。
お披露目が済んだら、灯夜の休みに合わせて海外旅行にも行きたい。淑乃はそこまでしなくてもと呆れていたが、朔はいままで傍にいられなかった妻と息子のためにたくさんの思い出をつくっていこうと決意していた。
感慨深そうに呟く朔の黒髪を撫でながら、淑乃も微笑む。
「ん……三人じゃなくなるかもし」
「それって!? ――おい、身体は大丈夫なのか? いつ気づいたんだ? 俺が入院しているあいだか? 結婚式できるのか? 仕事はどうするんだ? それよりさっき重たい荷物運んでただろ? なんで先に言わないんだよ!」
「――あのねえ、サクくん。はなしはちゃんと最後までききなさい!」
まったくもう、と苦笑しながら淑乃は恥ずかしそうに言葉を選ぶ。
この先、三人じゃなくなるかもしれないよね、と言いたかったのだ、と。
「あたしはこの先、この新しいおうちで、家族が増えたらいいな、って思ったの」
灯夜に弟か妹をつくってあげたい。
三人家族でいるのもいいけど、叶うことなら賑やかな家庭をつくりたいと、淑乃は朔の漆黒の瞳を射るように訴える。
朔が入院しているあいだ、淑乃は彼の父親とその妹弟とたくさんお喋りをした。明夫と光子と陽二郎、個性の強い三人のそれぞれの生き方や、幼い頃の朔と暁の兄弟のエピソードをきいているうちに、憧れが強まっていったのだ、と。
ぽつり、ぽつりと慈雨のように願い事を口にする淑乃に、朔は目をまるくする。
「……トーヤに、弟か妹を?」
「出産のときに二人目は難しいかもって言われたんだけど……」
「よしの」
「サクくんとの子ども、もっとほし――……」
淑乃が希ったその言葉は、最後まで口にできなかった。
朔の唇のなかに、吸い込まれてしまったから。
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