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年下御曹司は白衣の花嫁と極夜の息子を今度こそ! 手放さない

ささゆき細雪

Chapter,4_02. 燻る秘密と滴る秘蜜

 木瀬省三の皮をかぶった海堂陽二郎とのカウンセリングを終えてからの淑乃は、ふとした拍子に彼の言葉に囚われることが増えた。
 仕事中は意識を切り替えているから悩まされることもないが、診療後に朔が淑乃を迎えに来たときや、三人で夕飯を食べているとき、朔とひとつのベッドで一緒に眠るときに……つい考え込んでしまうのだ。

「の……よしの?」
「あ、ごめんねサクくん。今度の日曜日のはなし、だよね」
「ああ。昨日も思ったけど、連休明けの仕事で疲れてるのか? だったら午後からにしておこうか」

 暁に代わって陽二郎が日本へ戻ってきたことを朔が教えてくれたのは、淑乃が彼と対話した翌日のことだった。叔父と再会した朔は、食えないオヤジだよと毒づきながらも、ふたりの結婚に賛成していることを教えてくれた。

「叔父上、向こうのことは暁に任せたって言っていたけど、実際のところはどうなんだろうな……じゃ、シャワー借りるね」

 夜十時。灯夜はすでに眠りに就いている。明日も学校だからと子ども部屋に戻った彼を見送ってすでに一時間が経つ。リビングでは食洗器と洗濯機がくるくるまわっている。家事はまだ終わってないのに、部屋着姿の淑乃は朔が買ってきてくれた真新しいソファに腰かけて動けずにいた。
 シャワーを浴びていた朔が半裸の姿で淑乃の前へあらわれても、彼女は身じろぎひとつしないで虚空を見つめている。

「先に寝ていてもよかったのに」
「まだ洗濯終わってないもの。それにサクくん、今日泊まったら日曜日まで来れないんでしょ」
「干すくらいなら俺でもできるよ……でも、待っててくれてありがとう」

 腰をかがめて淑乃の額にキスをして、朔はピーと音が鳴って動かなくなった洗濯機の前へ立つ。

「ふたりで干せばすぐ終わるだろ。そしたら……ベッドに行こう。一緒に、寝よう」

 彼からの誘いに、淑乃は頬を染めこくりと頷く。

 ――サクくん、もしかしてあたしがひとりじゃ眠れないことに気づいてる?

 なぜだろう、陽二郎の言葉が棘のように淑乃の心にささくれを作っていく。辛ければ言えばいい、そうすれば楽になれる……けれどもそれは仕事に誇りをもつ自分を裏切ることになる。
 朔を恨む男の存在を、本人は知っているのだろうか。ましてや淑乃の一族を断罪した残党であることを知ったら……陽二郎ともども潰しにかかってもおかしくない。

 ――きっと彼はサクくんにこのことをはなしていない。

 日曜日には朔と灯夜を連れて海堂本家へ挨拶に行くことになっている。父親の許しが出れば、すぐにでも入籍したい朔のことを思うと、淑乃は何も言えなくなる。木瀬が朔個人を恨んでいる、と言い切るのは自分が選んだ婚約者を足蹴にされたからだろうか。けれどもそれは向こうからの婚約破棄だったときく。朔に落ち度はないはずだ。
 それに木瀬は認知症を患っているという。もしかしたら過去と現代が交錯して、被害妄想を起こしているのかもしれない。朔のことを別の誰かと認識しているとか。だとしたらこれは精神科領域のはなしだ。だから陽二郎は朔には何も言わず淑乃にだけ伝えたのだろう。辛ければ朔に伝えてもいい、と言いながら暗にオフレコで頼むなどと天邪鬼な言葉を残して。

「よしの?」
「……サクくんは、お仕事で疲れてないの?」
「傍によしのがいるのに、疲れた顔なんか見せられないよ」

 さらりと言ってのける朔の姿に、淑乃はきゅうと胸が苦しくなる。
 彼の方が年下なのに、いつの間にか淑乃を甘やかしてくれる存在になっていた。当たり前のように感じていたけれど、やっぱり自分は知らないうちに彼の重荷になっていたのだ。
 だからといって、もう、彼からはなれるという選択肢は選べない……けれど。
 秘密を燻らせたまま、淑乃は朔に抱き上げられて、ベッドまで運ばれていく。


   * * *


 淑乃のようすが昨日の夜からおかしいことに、朔も気づいていた。
 それでも問い詰められないのは、彼女が悩んでいるものの正体が仕事と関連していると感じたからだ。
 さまざまな患者と日々対話をする診療所の専属カウンセラー。病院勤務していた頃よりは労働環境が良くなっていると言っていたが、それでも朔からすれば彼女の仕事内容はミステリアスで、足を踏み入れることのできない領域だ。
 割り切った性格の淑乃はふだんから仕事とプライベートを当然のように分けているが、割り切ることはそう容易ではない。ときには私的な時間に仕事のことが侵食する場合もあるだろう。けれど。

「俺が傍にいるときくらいは、仕事のことを忘れてほしいな」
「ごめん、な……ン」

 ベッドのうえに横たえて、柔らかい唇を堪能してから、朔は淑乃が何も考えられないように愛撫を加えていく。

「謝る必要はないよ。気持ちいいことたくさんすれば、よしのは俺のことだけ見てくれるよね」
「ん、ぁぁ……」
「明日は休診日だもんね? 眠たいのに眠れないんでしょ? それなら眠れるまでたっぷりしてあげるから……ほら」
「はぅうっ」

 今夜は傍で一緒に眠るだけのはずだったのに、弱っている彼女にかこつけてけっきょく手を出してしまった。淑乃も何も言ってこないから、イヤではないのだろう。

「疲れてるのにごめんね。でも、よしのがいけないんだよ。こんな姿見せられたら、嫉妬で気が狂いそうになる……俺のことだけ考えてくれればいいのに」
「ちが、うの……サク、くん!」

 仕事に嫉妬しているなんていまさらおかしな言い訳だと淑乃は思ったのだろう。そんなことないと言いたそうに口をひらいた彼女の唇を己のそれで塞いで、朔は行為をつづける。
 朔の手で軽く達した淑乃は喘ぎながら、彼の背中を両腕で抱え込んでいる。
 はぁはぁと息を荒げながら朔にされるがまま快楽を受け入れた淑乃は、焦点の合わない瞳を彼に向けて懇願する。

「……サクくん、もう、大丈夫だから」
「その状態で大丈夫って言われても根拠ないよ」
「で、でも」
「それに、俺のほうが大丈夫じゃないんだ」

 ほら、と下半身を腰に当てられて、淑乃がびくっ、と身体を震わせる。

「だから……このまま抱かせて?」

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