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年下御曹司は白衣の花嫁と極夜の息子を今度こそ! 手放さない

ささゆき細雪

Chapter,3_08. 葉桜の下、決意の求婚

 手渡されたシンプルな水色のワンピースに着替えて乗った帰りの車のなかで、淑乃は朔にもたれかかった状態で熟睡していたらしく、覚醒したときにはすでに馴染み深い沓庭研究学園都市の夜景が窓の向こうに見えていた。

「……なんだか夢を見ていたみたい」
「夢だと思う?」
「う、ん」

 朔とホワイトチョークでご飯を食べてから今に至るまでの出来事が、あまりにも現実味がなくて、淑乃は一瞬これは夢なのではないかと訝しんでしまう。
 暁にマンションで襲われ、すんでのところで朔に救われ、朦朧とした状態で病院に運ばれて、記憶を混濁させてそこから逃げ出した淑乃は、ちゃんと朔とはなしをしようと白炭に背中を押されて彼のもとへ戻ることを選んだ。白衣に花嫁衣裳という場違いな格好で。
 そこから先、朔に海が見えるコテージに攫われてたっぷり甘やかされて、身体を清められて、アトリエに連れて行かれて……
 何を見ても聞いても薄っぺらな感動しかできなかった当時の自分を立ち直させてくれた「極夜」の絵の作者が隣に座っている朔だと知らされて。彼の手で芸術作品になってと乞われて……はだかのまま両手首を縛られて吊るされてあの絵に見られながら求められるがまま、彼と改めて身体を繋いだ。いままで立ちっぱなしで抱き合ったことなど数えるほどしかなかったし、ましてや吊るされた状態で彼に愛を囁かれたことなどなかった。それだけ彼も淑乃のことを強く求めていたのだなと痛感させられる交歓だった。彼ならば縛られた状態で抱き合っても、怖くないと……むしろふだんよりも強い劣情を与えられ、束縛されることで得られる快感を植え付けられてしまった気がする。

 ――とろとろに甘やかされるのもすきだけど、獣になったサクくんの姿も、もっと、これから見てみたいな。

「夢じゃない……よね」
「夢みたいな時間だったけどな。きれいな花嫁姿のよしのを独り占めできたんだから」
「もう……」

 大学敷地内に入る直前の駐車場で西岡と別れたふたりは、すでにゴールデンウィーク間近の五月の装いへと転じている桜並木の下を通りながら、淑乃が暮らすマンションまでゆっくりとした足取りで歩いていく。はじめ西岡はマンションの前まで送ると言ってくれたが、ふたりきりで歩きながら今後のことをはなしたいという淑乃の言葉に耳を傾けてくれた。朔に攫われてさんざん甘やかされただけで、今日を終わらせる淑乃ではない。白炭に言われたように自分が今後どうしたいのか、しっかり彼に伝える必要がある。

「……先月。桜が咲いていたときに、ここでサクくん、あたしにキスしたよね」
「覚えてるよ。今度こそ手放さないって決意して、よしのを求めたんだから」

 満開だったソメイヨシノの木は、すっかり緑が生い茂っている。
 葉桜へと姿を変えた木の下で、淑乃は朔へ言い放つ。

「――じゃあ、今度はあたしがサクくんを求める番だね」
「よしの?」
「トーヤがサクくんを認めて、あたしとサクくんが一緒になることを許してくれるなら……結婚、してもいいよ」

 父親の認知だけで充分だと思った。
 自分には支えてくれるひとたちが周りにいるのだから、いまさら本物の父親と一緒になったところで息子を戸惑わせるだけだと考えていた。けれど、灯夜は淑乃が考えているよりもずっと聡明で、母親が何を望んでいるのかを識っていた。息子は過干渉な暁に屈することなく篠塚を盾に、母親が望んでいるものを見極めた。
 だから淑乃はここにきて朔の前ではじめて「結婚してもいい」と口にした。
 朔は黙り込んで、彼女の言葉のつづきを促す。

「サクくんの家の事情を考えると、そう簡単にできるとは思わないけれど……サクくんの気持ちは痛いほどわかったから。あたし……」
「――何も言わないで。ここから先は、俺が」

 口に手を当てられて困惑する淑乃に、朔が低い声で告げる。

「よしの」

 結婚してもいい、なんて言葉にはごまかされないよと笑って、朔は淑乃を抱きしめる。
 今日、劇団の衣装とはいえ淑乃の花嫁姿を見た朔は、これが自分と淑乃の結婚式ならいいのにと感慨深くなっていた。プロポーズするなら今日しかないと、そう思いながら……それなのに口火を切ったのは淑乃の方で。彼女に最後まで言わせるわけにはいかない。

「結婚しよう!」

 淑乃は目をまるくして夜色の双眸を潤ませる。こくりと頷けば、朔が彼女の髪を撫でて、唇を奪う。
 そのまま。
 葉桜が柔らかな風に揺られてそよそよと音を立てるなか、ふたりは小鳥が戯れに啄むようなキスを繰り返す。


 ……もう、言葉はいらなかった。

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