年下御曹司は白衣の花嫁と極夜の息子を今度こそ! 手放さない
Chapter,2_06. 悲劇のヒロインはふたりもいらない
「暁が、よしのを監視している?」
「あたしがトーヤをこっそり産み育てていたことを知って、サクくんに黙っている代わりに……」
「それで、暁の言うことをきいていたのか?」
思わず声を震わせる朔の前で淑乃はあっけらかんとした表情で「そうだよ」と笑う。
「位置情報と連絡先のデータ、通話履歴、メールによるやりとりが抜き取られて向こうに随時送られているみたい。盗聴の機能がないだけ良心的じゃない?」
「いやそれ犯罪だろ……なんで」
「アカツキくんを犯罪者にしたくなかったの。サクくんが婚約者と結婚するまでの期間限定だって言っていたから」
「アイツ……」
「それに彼は、あたしが香宮のさいごのひとりであることを危惧して、ほかの海堂一族から守ってくれた」
その言葉に、朔が言葉を飲み込む。次期社長と目されている朔に、海堂一族の因縁の相手である香宮の娘との間に子どもを作っていたという事実が一族のほかの人間に知れ渡ったら、灯夜は淑乃と引き離されて海堂の後継として連れ去られてしまう可能性がある。
高貴な家柄だった香宮の娘は成り上がりの海堂一族の目の上のたんこぶのような扱いだが、朔の血を引いた男児の存在が明らかになったら、子どもだけを手に入れようと時代錯誤な重鎮たちが何をするかわからない。
「……だけど、サクくんの結婚式が失敗したから、もう、彼の言うことをきくことはやめる。悲劇のヒロインぶるのはあたしの性に合わないもの」
亡き母は最期まで悲劇のヒロインを体現したようなひとだった。壊れていく母を身近で見ていた淑乃は、自分まで壊れることに恐怖を感じていた。一度は壊れそうになったけれど、カウンセラーとして生きていくと決めて、愛する朔が授けてくれた灯夜の母として子を守ると決めて、強くなったのだ。
息子を守るために暁の言うことに七年間従っていた淑乃だが、彼のいう「朔と婚約者の結婚式」は失敗した。そして朔がいまも淑乃を愛していると、結婚したいと言ってくれた。厄介者の香宮の娘である淑乃をいまも変わらず求めてくれている。
これ以上、自分の気持ちに嘘はつけない。たとえ暁を傷つけることになっても……
「――悲劇のヒロインはふたりもいらない」
「よしの……?」
「ううん。なんでもない。一時間のカウンセリングじゃ、ぜんぶはなせないな、って……」
淑乃は壁に掛かっている時計の針を睨みつけて、苦笑する。
彼をカウンセリング室に迎え入れて、もう五十分。暁からの残業を心配するメッセージはいつも七時前に届く。職場にいることは認知できているだろうから、診療所を閉めてから息子を預けている学童に向かい、マンションに戻ればこれ以上彼からの連絡は来ないだろう。
けれども淑乃は、そのいつもの動きをすることに戸惑いを覚えていた。
せっかく朔が時間を割いてカウンセリングという蓑をかぶって逢いに来てくれたのに、すこししかはなせていない。もっと彼と、これからのことをはなしたいのに……
「今夜はこのあと、どうするんだ?」
そんな淑乃の考えを見抜いたのか、朔がぽつりと零す。また来週、カウンセリングで、と口にしようとした淑乃だったが、彼は忙しいひとだ。そう毎週同じ時間に来てもらうのも大変なはず。
「……学童にトーヤがいるから、彼を迎えに行って、マンションに戻るだけ……だけど」
――息子と逢ってほしい、と口にしようとしていたにもかかわらず、淑乃は本音を零していた。
「延長は最長九時までだから……サクくん、もうすこしだけあたしに時間をちょうだい?」
「あたしがトーヤをこっそり産み育てていたことを知って、サクくんに黙っている代わりに……」
「それで、暁の言うことをきいていたのか?」
思わず声を震わせる朔の前で淑乃はあっけらかんとした表情で「そうだよ」と笑う。
「位置情報と連絡先のデータ、通話履歴、メールによるやりとりが抜き取られて向こうに随時送られているみたい。盗聴の機能がないだけ良心的じゃない?」
「いやそれ犯罪だろ……なんで」
「アカツキくんを犯罪者にしたくなかったの。サクくんが婚約者と結婚するまでの期間限定だって言っていたから」
「アイツ……」
「それに彼は、あたしが香宮のさいごのひとりであることを危惧して、ほかの海堂一族から守ってくれた」
その言葉に、朔が言葉を飲み込む。次期社長と目されている朔に、海堂一族の因縁の相手である香宮の娘との間に子どもを作っていたという事実が一族のほかの人間に知れ渡ったら、灯夜は淑乃と引き離されて海堂の後継として連れ去られてしまう可能性がある。
高貴な家柄だった香宮の娘は成り上がりの海堂一族の目の上のたんこぶのような扱いだが、朔の血を引いた男児の存在が明らかになったら、子どもだけを手に入れようと時代錯誤な重鎮たちが何をするかわからない。
「……だけど、サクくんの結婚式が失敗したから、もう、彼の言うことをきくことはやめる。悲劇のヒロインぶるのはあたしの性に合わないもの」
亡き母は最期まで悲劇のヒロインを体現したようなひとだった。壊れていく母を身近で見ていた淑乃は、自分まで壊れることに恐怖を感じていた。一度は壊れそうになったけれど、カウンセラーとして生きていくと決めて、愛する朔が授けてくれた灯夜の母として子を守ると決めて、強くなったのだ。
息子を守るために暁の言うことに七年間従っていた淑乃だが、彼のいう「朔と婚約者の結婚式」は失敗した。そして朔がいまも淑乃を愛していると、結婚したいと言ってくれた。厄介者の香宮の娘である淑乃をいまも変わらず求めてくれている。
これ以上、自分の気持ちに嘘はつけない。たとえ暁を傷つけることになっても……
「――悲劇のヒロインはふたりもいらない」
「よしの……?」
「ううん。なんでもない。一時間のカウンセリングじゃ、ぜんぶはなせないな、って……」
淑乃は壁に掛かっている時計の針を睨みつけて、苦笑する。
彼をカウンセリング室に迎え入れて、もう五十分。暁からの残業を心配するメッセージはいつも七時前に届く。職場にいることは認知できているだろうから、診療所を閉めてから息子を預けている学童に向かい、マンションに戻ればこれ以上彼からの連絡は来ないだろう。
けれども淑乃は、そのいつもの動きをすることに戸惑いを覚えていた。
せっかく朔が時間を割いてカウンセリングという蓑をかぶって逢いに来てくれたのに、すこししかはなせていない。もっと彼と、これからのことをはなしたいのに……
「今夜はこのあと、どうするんだ?」
そんな淑乃の考えを見抜いたのか、朔がぽつりと零す。また来週、カウンセリングで、と口にしようとした淑乃だったが、彼は忙しいひとだ。そう毎週同じ時間に来てもらうのも大変なはず。
「……学童にトーヤがいるから、彼を迎えに行って、マンションに戻るだけ……だけど」
――息子と逢ってほしい、と口にしようとしていたにもかかわらず、淑乃は本音を零していた。
「延長は最長九時までだから……サクくん、もうすこしだけあたしに時間をちょうだい?」
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