年下御曹司は白衣の花嫁と極夜の息子を今度こそ! 手放さない
Chapter,1_08. 花明り、決意のキス
ソメイヨシノの花びらが、ひとひら、ふたひらと雪片のように口づけあうふたりに降り注ぐ。
大学一年の夜に交わした濃厚な口づけのように、朔は淑乃の身体をきつく抱きしめながら、舌先で官能の炎を呼び起こしていく。
「あっ……んは……っ、ここ、外っ」
「どうせ誰も見ていないよ。それとも場所を変える?」
唇を重ねただけで、強気な彼女は朔の腕のなかで弱々しい生き物に変わる。
濃厚なキスを教えてくれたのは淑乃だったのに、いつしか自分の方が彼女を酔わせるようになっていた。
いまだって。朔が繰り返し、淑乃に腰が砕けるような口づけをすれば、彼女は救いを求めるように彼の腕にすがりつく。もう恋などしないとこの身を律することしかできなかった朔もまた、再会した彼女に囚われていた。
「――サク、くん……ッ」
「子どものことは暁に言っておけばいい。それよりもいまは……よしのを抱きたい」
キスだけじゃ足りないと囁やけば、顔を真っ赤にする淑乃が恥ずかしそうにこくりと頷く。
「ん……今夜は帰らないって、連絡しとく。たぶん、ぜったい、怒られるけど」
「そのときは俺も一緒に怒られてやるさ」
「いやだなぁ、初めて息子と顔合わせるのに朝帰りで怒られる父親なんて」
「それ以前に俺が父親って認めてもらえるか、わからないけどな」
「トーヤはアカツキくんに慣れてるから、大丈夫じゃない?」
「それが問題だよ」
淑乃の息子の灯夜が暁と親しいからといって、実は暁の兄が自分の父親だったと知らされたら、何を思うだろう。
あのくらいの年頃なら、淑乃と暁が結婚すればいいのに、などと無邪気に口にしかねない。
ここにきて自分が父親の名乗りをあげて、淑乃と結婚すると言い出したところで、自分が灯夜だったら素直に納得できないだろう。
「父親の認知はしてほしいけど、いまさら結婚するつもりもないわよ?」
「は?」
「もしかして、責任取れって迫ってくるとでも思った? あたし、サクくんとの間に子どもが持てて充分幸せだよ? ちょっと報告するのが遅くなっちゃったけど」
「いやそれ暁がわざと隠していたせいだから! よしののせいじゃないだろ?」
「それでも……サクくんが後悔して苦しむ必要はないんだよ。あたしがひとりでこっそり生み育てることを選んだんだから」
「嫌だ。俺はよしのじゃなきゃ結婚したくない」
「……莫迦」
「だから今夜朝までしっかり抱いて、俺なしじゃいられなくしてやる」
学生時代、恋人同士としてお互いに本能に忠実になって身体を求めていたときのことを思い出しながら、朔はびしっと告げる。
社会人になって、しがらみが増えて、思い通りにいかないことにも慣れてしまった。父親のいいなりになって結婚していたら、きっとこの感情にも蓋をしたまま、朽ちていくだけだっただろう。
だけど相手の婚約者がそんな朔に気づいて逃げ出した。そうなってようやく朔は自分の気持ちを改めて見直すことが叶ったのだ。
今度こそ、逃さない、手放さない。
「サクくんったら……」
こうして自分の腕のなかに彼女がいることを自覚してようやく。
朔は淑乃と添い遂げたいと、蟠っていることすべてを解決させて、一緒に幸せになりたいと痛感したのである――……
* * *
大学の最寄り駅の近くには研究者や教授たちが使用するシティホテルが点在している。
受験や学会がある日は盛況で部屋を取ることが難しいというが、いまはシーズンオフでどこも閑古鳥が鳴いているため、最上階に位置するツインルームも比較的安価で泊まることが可能だ。一階の和食レストランで夕食を終えチェックインした頃にはすでに二十二時を過ぎていた。
「ほんとうに……息子のことは大丈夫なのか? 帰す気はないけど」
「最後のヒトコトが余計よ。電話したら篠塚先生のおうちにいるって言ってたから一晩くらいなら問題ないわ。暁くんは先に帰るって」
「ふうん。っていうか誰、篠塚先生って」
「職場の同僚って言えばいいのかな。トーヤはパパって呼ぶときあるけど」
「ぐふっ」
恋敵は弟の暁だけではないのか!? と思わず淑乃を睨む朔だったが、彼女はからから笑っている。
「職場って、沓庭大学付属病院? てっきり大学院出てから研究職に就いたのかと思った」
「そんなこと言ったこともあったかもね。だけど研究職って基本的に非常勤で薄給じゃない。兼任する形で企業の産業医的なところに潜り込めればどうにかなったかもしれないけど、トーヤを育てるとなると二足の草鞋はキツイでしょ。だからその道はきっぱり捨てたの」
「諦めたって言わないところがよしのらしいな」
自分と別れたあと、淑乃がどうしていたのか気になるが、それはおいおい訊いていけばいいと朔は心のなかで頷き、彼女の声に耳を傾ける。
「いまはね、大学病院付属のガーデンクリニックで、専属カウンセラーしてる」
「ガーデンクリニックって、精神科と心療内科の?」
「そ。外来だけのね」
それだけ口にして、淑乃はデザートの白玉クリームあんみつを幸せそうに頬張っていく。
「……そうか、相変わらず白衣着てるのか」
「うん。ちゃんと血の通った人間相手に仕事してる。守秘義務があるから詳しいことは言えないけど」
「すごいな」
「すごいのはサクくんもだよ。次期社長としての実務経験を積んでるってアカツキくんが……」
「そんなの俺じゃなくてもできる仕事だよ」
「あたしにはできないよ」
レストランの会計を済ませ、最上階行きのエレベーターに乗込んで、朔は淑乃を抱きしめる。
先ほど食べた白玉クリームあんみつのクリームがちょこんと淑乃の口許についているのが愛らしくて、朔はここでも朔は啄むようなキスをした。
大学一年の夜に交わした濃厚な口づけのように、朔は淑乃の身体をきつく抱きしめながら、舌先で官能の炎を呼び起こしていく。
「あっ……んは……っ、ここ、外っ」
「どうせ誰も見ていないよ。それとも場所を変える?」
唇を重ねただけで、強気な彼女は朔の腕のなかで弱々しい生き物に変わる。
濃厚なキスを教えてくれたのは淑乃だったのに、いつしか自分の方が彼女を酔わせるようになっていた。
いまだって。朔が繰り返し、淑乃に腰が砕けるような口づけをすれば、彼女は救いを求めるように彼の腕にすがりつく。もう恋などしないとこの身を律することしかできなかった朔もまた、再会した彼女に囚われていた。
「――サク、くん……ッ」
「子どものことは暁に言っておけばいい。それよりもいまは……よしのを抱きたい」
キスだけじゃ足りないと囁やけば、顔を真っ赤にする淑乃が恥ずかしそうにこくりと頷く。
「ん……今夜は帰らないって、連絡しとく。たぶん、ぜったい、怒られるけど」
「そのときは俺も一緒に怒られてやるさ」
「いやだなぁ、初めて息子と顔合わせるのに朝帰りで怒られる父親なんて」
「それ以前に俺が父親って認めてもらえるか、わからないけどな」
「トーヤはアカツキくんに慣れてるから、大丈夫じゃない?」
「それが問題だよ」
淑乃の息子の灯夜が暁と親しいからといって、実は暁の兄が自分の父親だったと知らされたら、何を思うだろう。
あのくらいの年頃なら、淑乃と暁が結婚すればいいのに、などと無邪気に口にしかねない。
ここにきて自分が父親の名乗りをあげて、淑乃と結婚すると言い出したところで、自分が灯夜だったら素直に納得できないだろう。
「父親の認知はしてほしいけど、いまさら結婚するつもりもないわよ?」
「は?」
「もしかして、責任取れって迫ってくるとでも思った? あたし、サクくんとの間に子どもが持てて充分幸せだよ? ちょっと報告するのが遅くなっちゃったけど」
「いやそれ暁がわざと隠していたせいだから! よしののせいじゃないだろ?」
「それでも……サクくんが後悔して苦しむ必要はないんだよ。あたしがひとりでこっそり生み育てることを選んだんだから」
「嫌だ。俺はよしのじゃなきゃ結婚したくない」
「……莫迦」
「だから今夜朝までしっかり抱いて、俺なしじゃいられなくしてやる」
学生時代、恋人同士としてお互いに本能に忠実になって身体を求めていたときのことを思い出しながら、朔はびしっと告げる。
社会人になって、しがらみが増えて、思い通りにいかないことにも慣れてしまった。父親のいいなりになって結婚していたら、きっとこの感情にも蓋をしたまま、朽ちていくだけだっただろう。
だけど相手の婚約者がそんな朔に気づいて逃げ出した。そうなってようやく朔は自分の気持ちを改めて見直すことが叶ったのだ。
今度こそ、逃さない、手放さない。
「サクくんったら……」
こうして自分の腕のなかに彼女がいることを自覚してようやく。
朔は淑乃と添い遂げたいと、蟠っていることすべてを解決させて、一緒に幸せになりたいと痛感したのである――……
* * *
大学の最寄り駅の近くには研究者や教授たちが使用するシティホテルが点在している。
受験や学会がある日は盛況で部屋を取ることが難しいというが、いまはシーズンオフでどこも閑古鳥が鳴いているため、最上階に位置するツインルームも比較的安価で泊まることが可能だ。一階の和食レストランで夕食を終えチェックインした頃にはすでに二十二時を過ぎていた。
「ほんとうに……息子のことは大丈夫なのか? 帰す気はないけど」
「最後のヒトコトが余計よ。電話したら篠塚先生のおうちにいるって言ってたから一晩くらいなら問題ないわ。暁くんは先に帰るって」
「ふうん。っていうか誰、篠塚先生って」
「職場の同僚って言えばいいのかな。トーヤはパパって呼ぶときあるけど」
「ぐふっ」
恋敵は弟の暁だけではないのか!? と思わず淑乃を睨む朔だったが、彼女はからから笑っている。
「職場って、沓庭大学付属病院? てっきり大学院出てから研究職に就いたのかと思った」
「そんなこと言ったこともあったかもね。だけど研究職って基本的に非常勤で薄給じゃない。兼任する形で企業の産業医的なところに潜り込めればどうにかなったかもしれないけど、トーヤを育てるとなると二足の草鞋はキツイでしょ。だからその道はきっぱり捨てたの」
「諦めたって言わないところがよしのらしいな」
自分と別れたあと、淑乃がどうしていたのか気になるが、それはおいおい訊いていけばいいと朔は心のなかで頷き、彼女の声に耳を傾ける。
「いまはね、大学病院付属のガーデンクリニックで、専属カウンセラーしてる」
「ガーデンクリニックって、精神科と心療内科の?」
「そ。外来だけのね」
それだけ口にして、淑乃はデザートの白玉クリームあんみつを幸せそうに頬張っていく。
「……そうか、相変わらず白衣着てるのか」
「うん。ちゃんと血の通った人間相手に仕事してる。守秘義務があるから詳しいことは言えないけど」
「すごいな」
「すごいのはサクくんもだよ。次期社長としての実務経験を積んでるってアカツキくんが……」
「そんなの俺じゃなくてもできる仕事だよ」
「あたしにはできないよ」
レストランの会計を済ませ、最上階行きのエレベーターに乗込んで、朔は淑乃を抱きしめる。
先ほど食べた白玉クリームあんみつのクリームがちょこんと淑乃の口許についているのが愛らしくて、朔はここでも朔は啄むようなキスをした。
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