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年下御曹司は白衣の花嫁と極夜の息子を今度こそ! 手放さない

ささゆき細雪

Chapter,1_03. 春宵の、皮肉な出逢い

 株式会社K&Dは朔と暁の祖父である海堂一が創業した鉄鋼資材を扱う会社である。もともとは北関東の沿岸部で営まれていたちいさな工場だったが、戦後の高度成長期に売上を伸ばし全国へ進出、海堂グループとして子会社化、業界での国内シェアをトップへと導いた。
 メインは工務店向けの建設鉄骨製作だが、工業用資材のリサイクルを中心とした新たな試みにより、近年脅威となっている海外企業との差別化を図っており、限りある資源とエネルギーをリサイクルする技術の追求にもちからを入れている。
 企業が成長したことによって、海堂一族もまた繁栄し、二代目を引き継いだ一の長男である明夫をはじめ、長女の光子、ふたりの兄姉と一回り以上年齢の離れた陽二郎の三人の子どもたちも自然とその歯車に組み込まれていった。
 そして、明夫の息子の朔もまた、彼らと同じ運命を辿るべく、十八の歳に、国内きっての研究学園都市、沓庭くつば大学の理工学部へ入学したのである。

 かつては陸の孤島とも呼ばれていた関東平野の一角に、大学はある。
 学生の半数以上が学生寮、もしくは近隣の学生アパートを借り、一人暮らしをしている。
 季節は春。朔もまた、はじめての一人暮らしに心を躍らせていた。
 まさかここで、運命を揺るがす皮肉な出逢いをすることになるとは、思いもよらず――……


   * * *


「新入生歓迎コンパ?」
「海堂も学業とバイトだけじゃ出逢いの場もないだろ? ましてや理工は男ばっかり……どっかサークルにでも入らないと彼女なんか作れないって」

 男子寮で隣室になった奥村がお先に! と階段を駆け下りていく。

「……彼女、か」

 女性への免疫がほとんどない朔は、奥村のように可愛い彼女が欲しいと口に出すこともできずにいた。
 たしかに自分を支えてくれる女性がいたらいいとは思うが、どうやって作るものなのか朔は知らない。弟の暁に言わせてみれば、考えるだけ無駄らしい。先日も、「朔兄が本気になれば簡単にヤれるよ」という失礼な捨て台詞を送ってきたが……なぜ高校生の弟からそんな風に言われなくてはならないのだ。
 サークルとやらに入れば、異性との出逢いも期待できるのだろうか。
 思わず不埒なことを想像して、朔は苦笑する――ヤる以前に、相手がいないさ。

 ――運動系よりは、美術系のサークルがいいかな。

 幼い頃から鉄鋼加工の工程を見学することが多かった朔にとって、ものづくりは馴染み深いものだ。彼自身、中学の絵画コンクールで入選したこともある。
 絵や工芸に興味があることの根底には、小学生のときに亡くなった母が幼い朔と暁を美術館や博物館へ連れていった記憶があるからかもしれない。仕事熱心な父に代わり、母は朔と暁をいろいろな場所へ連れていき、遊ばせていたのだ。

 雑木林に囲まれた学生寮を出れば、まるいおおきな月が漆黒の空を照らしていた。
 ソメイヨシノの花はすでに散り、遅咲きの八重桜の蕾があちこちでいまにもこぼれそうなほどに膨らんでいる。
 夜桜の美しさに思わず足を止めたそのとき、足元から呂律のまわらない声が届く。

「あンた、新入生?」
「は、い?」
「ちょーど良かった! ちょっとつきあって!」
「は!?」

 むくりと起き上がったのは、白衣を着た女性。
 頭突きを食らいそうになった朔は慌てて身体を反らし、事なきを得たが、彼女はその反応を不服そうに見つめている。

「ちょ、ちょっと何をするんですか!」
「きいてよぉ! このよしのさまが頑張って現役ごーかくした彼氏に会いに行ったのに、当の本人は本命の女性とヨロシクしてたのぉ。せっかくふたりでお花見楽しもうとお酒をたんまり用意してやったのにさぁ……」
「……酔っぱらってますね?」
「はぁあ? どこがどう酔っぱらっているですってぇ? なんだかふわふわするなぁーと思うけどぉ」

 朔を見つめる黒真珠のような瞳はほのかに潤んでおり、月明かりの下でも煌めいている。場違いな格好で男子寮の近くの雑木林にしゃがみ込んでいた彼女は、ここでひとり失恋の痛みをごまかすかのようにひとり花見に興じていたのだろう。朔はいたたまれない気持ちになって、彼女の隣に腰をおろす。

「駄目だよ、これ以上飲んじゃ……現役合格したってことは、俺と同じ新入生ってことでいいんだよね? 未成年でしょ?」
「あははは。何言ってるの。現役合格したのは彼氏の方だよぉ、振られちゃったけどさぁ!」

 泣き笑いの表情で訴える女性を前に、朔は硬直する。

「……え」
「まぁいいわ。あンたイイ男じゃない! サークルコンパなんてどこも似たようなモノだし、無理して参加するよりあたしとイイことしよーよー?」

 白衣を着た酒臭い先輩に腕をとられ、朔は困惑する。自分が暮らしはじめた寮にこの女性の彼氏というのも住んでいるようだし、ここに放置したら大変なことになりそうな気がする。だが、自分の部屋に招き入れるとなると、その例の彼氏と鉢合わせする可能性が高い。
 そんな朔の戸惑いに気づいているのか、彼女がくすくす笑いながら誘いかける。


「新入生クン、あたしの部屋に来て。一緒に部屋の窓からお花見しょ?」

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