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年下御曹司は白衣の花嫁と極夜の息子を今度こそ! 手放さない

ささゆき細雪

Chapter,1_01. 花嫁に逃げられた男

 雨降って地固まる、という言葉があるが、結婚式で土砂降りの雨に見舞われるのはいかがなものか、と海堂朔かいどうさくは苦笑する。
 本日の主役は控室で真っ白なタキシードを着せられ、困惑の表情を浮かべていた。

「それにしても……遅いな」

 花嫁は準備がかかるものですから、と式場スタッフも口を揃えて説明してくれたが、それにしたって二時間近くひとり控室で待たされるのはどうかと思う。鏡の向こうの自分はすでに疲れ切った表情を見せていて、とてもじゃないが愛しい花嫁を手に入れる花婿のそれではない。
 それもそのはず。
 この結婚に朔の意志は関係ないのだ。

 ――しょせんあなたなんて、金づるでしかないのよ。

 国内シェアトップを誇る鋼材企業、K&Dの次期社長と目されている朔は今年、三十歳になる。父の明夫はまだ現役だが、すこしずつ業務を息子である朔とふたつ年下の弟の暁に引き継がせている。今回の結婚も会社の成長戦略の一環として政略的に仕組まれたものだ。
 一度しか顔を合わせたことのない令嬢と結婚式を挙げる……会社のためとはいえ、やりすぎではないかとの声も上がっているが、それでも仕方がないと朔は諦めていた。朔が結婚して会社の地盤を強固なものにすれば、不毛な派閥争いは終わりを告げる。すきでもない女性と結婚して子を生ませることに罪悪感はあるが……

 だが、打算で娶られる婚約者からすれば、朔の投げやりな態度は目に余るものでしかなかったのだろう。
 ましてや大学を卒業したばかりのうら若きご令嬢からすれば、愛のない結婚など絶望しかない。
 朔を避けるように結婚式の準備をすすめてきた彼女の気持ちも、わからないでもない。

 ――お互い様だな。俺は君を愛せない。

 愛せない、というよりも愛さない、というほうが適切なのかもしれない。
 白いタキシードを着た道化は哀しそうに鏡の向こうに佇んでいる。
 これからはじまるのは結婚式ではない、自分にとっての初恋を弔うための葬式だ。だって自分はいまも、こんなときでも未練がましく――……

「朔兄、いるか? 朔にい!?」
「……あかつき?」

 扉を激しく叩く音が、思考に耽っていた朔を我に却させる。
 意識を浮上させ、弟の声に応えれば、勢いよく扉がひらく。
 そして。


「結婚式は中止だ! 花嫁が逃げた!」


 朔が願っていたことが、現実になる。

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