夢逃人(ドリーマー)

夕暮G太郎

第17章 メラトニン と セロトニン

会議室は施設の24階にあった。
会議室と呼ぶにはあまりに大きな室内で、結婚式が出来そうな広さだった。
50人ほどの関係者が集まっていた。
宗教研究者、科学者、医療従事者、政府関係者に加え、警察関係者も来ていた。

皆顔にマスクをつけて、一定間隔に並べられた椅子に腰掛けていた。

前には壇が設けられていて、そこには中町会長、藤木、他数名が並んで座っていた。
その後ろには大きなスクリーンも用意されていた。


入り口近くの席に座るマコトとスミレ。
マコトの背後には相変わらずウサギ大臣が立っていた。

スミレは遠くに座っている大原を見つけ目が合うと軽くお辞儀した。



中町会長「え〜〜皆様。急な召集にも関わらずお集まり頂きありがとうございます。各方面の関係者の方々に感謝致します。この度の調査の結果、遂にレムウィルスと記憶体ゴーストと呼ばれる存在の因果関係が判明致しました。この機会をもって報告させて頂きたく思います。」

ざわつく室内。

中町会長「専門用語も多いですが、なるべく理解出来る様に説明させて頂きます。」

スクリーンにレムウィルスの画像が映し出された。


中町会長「先ずレムウィルスについてですが、元々中国で発生した未知の感染症でした。ウィルスの発生源はコウモリの群体から発見されましたが、どうやって人間に感染したかはまだはっきりと判っておりません。ただワクチンの製造は目処がつきました。問題は夢遊病(睡眠時遊行症)に似た症状です。レムウィルスに感染するとウィルスは脳の自律神経に障害を及ぼし、体温を急上昇させます。これは感染者がレム睡眠状態時にウィルスが活発化する為と見られます。橋被蓋野の興奮性ニューロンへと分化する際にウィルスが脳に影響を及ぼします。感染者の睡眠時遊行症の発病状態時には水分による体温の低下により脳内の覚醒物質を鎮静化出来ます。」

スクリーンが切り替わり夢遊病についての図が映し出された。

中町会長「レム睡眠の仕組み自体、生理学的に未だ謎が多いのですが、睡眠にはセロトニンとメラトニンが深く関わっています。通常の場合日中に太陽光を浴びたり規則正しい生活をする事により脳内でセロトニンが分泌され、夜間に分泌されるメラトニンの原料となります。強いストレスや体調不良はセロトニンを著しく低下させ、メラトニンの分泌量にも比例します。しかしながら夢遊病の症例をあげた感染者の体内を調べた結果、セロトニンの低下が見受けられましたが、メラトニンは逆に通常よりも高い数値となりました。」

スクリーンがまた切り替わる。

中町会長「この結果、『何らかの原因』でセロトニンの分泌量が下がり、『何らかの原因』でメラトニンの分泌量が上がったと思われます。、、、考えられうる要因の一つとして、、ここからの説明は記憶体ゴースト研究の第一人者、藤木先生に変わります。」

中町会長はマイクを藤木に渡す。

藤木「え〜〜〜、、ここからは私が説明させて頂きます、、。メラトニンの分泌量が増える要因として、、記憶体ゴーストによる『憑依』が原因だと思われます。」

スクリーンが再び変わり、難しい化学記号が映し出された。

藤木「記憶体ゴーストとは科学的に説明するとプラズマに近い状態です。荷電粒子群と電磁場が集まっている状態。人間の脳内は数多くの電気信号が飛び交っていて、心肺停止の際にその電気信号は外部へと放出されます。『記憶』や『感情』とも呼べます。記憶体ゴーストたらしめるそのプラズマは通常人間には影響の無い存在でしたが、レムウィルスに感染している人間の脳内の電気信号に関与します。そしてその感染者のセロトニンが低下している場合、、記憶体ゴーストは感染者のメラトニンの分泌を増やして意識を睡眠状態にして、代わりに身体機能と同化します。この状態が『憑依』になります。まるで夢世界ドリームから逃げる様にやって来て人に『憑依』する記憶体ゴースト、、、、、。以後この状態の感染者の事を夢逃人ドリーマーと呼称致します。」

スクリーンが消える。

藤木「レムウィルスの世界的流行は人々の不安や恐怖といったマイナス感情を増やしました。また室内での生活が多くなり不規則な生活や運動不足による身体的マイナス要因も重なりセロトニンの分泌量の低下に繋がると思われます。そして記憶体ゴーストのここ数ヶ月の大量発生により夢逃人ドリーマーが増えたのだと結論付けました。」

藤木は用意されたペットボトルを開けると一口水を飲んだ。

藤木「今後の対策としては、2点あります。先ずはレムウィルス自体の押さえ込み。こちらは中町会長の指示のもとワクチンを製造と量産をして世界中の人々への配布と摂取を急ぎます。もう1点の記憶体ゴーストの事案に関しては私の指揮の元に原因究明と解決を急ぎます。今会議解散の後に記憶体ゴースト大量発生の対策チームを召集しますので、関係者はこの場に残ってください。」



スミレ「、、、やっぱりレムウィルスと記憶体ゴーストには因果関係があったのね、、、。」

スミレは席につきながらメモを取っていた。

マコト「スミレさん、、、、どうしよう?」

スミレ「どうかしたんですか?マコトさん?」

マコト「、、、、何を言ってるかさっぱりわかんんない、、、、。」

スミレ「、、、、、あぁ、、。」





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