夢逃人(ドリーマー)

夕暮G太郎

第14章 川 と 祠

全身が黒い煙で人の形をしていて、顔には般若の面をしているその者は
天井から ぬるっ と落ちる様に降りて来た。

タクトは最初は驚いていたが、その動きを目にすると明らかに人間ではない事をすぐに悟った。

タクト「くくく、、、遂に僕にもお迎えが来たのか?」

タクトにはまるでソレが死神の様に思えた。

般若の面はタクトが動画撮影の際に使用している物とそっくりだった。

だがタクトの般若の面は机の上にしっかりと置いてある。

タクト「、、、お前は何だ?」

般若「、、、、君を導くよ、、、。」

タクト「導く?」

般若「、、、この世界が嫌なんでしょ?、、僕も君達の世界が嫌なんだよ。君達の世界を『僕の世界』で飲み込みたいよ、、。」

タクト「お前の世界って何だ?」

般若「、、、、、そうだな、、、夢の世界かな、、。」

タクト「夢の世界?」

般若「そう、、、君も毎晩来ている世界、、、あの世とこの世の真ん中の世界、、、僕はそこから来た、、。」

タクト「夢の世界から来たってこと?死神じゃないのか?」

般若「、、、僕をそう呼ぶ人もいるけど、、、、ちょっと違うかな。」

般若は窓まで ススーー っと歩いていくと外を指差した。
高層マンションからの眺めはとても良くて遠くまで見渡せた。

夜景が街を彩っている。

指差すその先には東京都と神奈川県の間に流れている多摩川が見えた。


般若「、、、水が鏡になって世界を繋ぐんだ、、、あそこに行こうよ、、。」





タクトはマスクもせずにマンションから出て来た。

タクトが住んでいる高層マンションは神奈川県武蔵小杉にあり、歩いてしばらくすると多摩川に着いた。
タクトのすぐ後ろに般若が付いて来ていたが、道中にすれ違ったマスク姿の数人には般若の姿は見えていない様子だった。

夜の河川敷は明かりが少なく向こう岸には二子玉川の駅が見えた。

般若「、、、あっち、、、。」

般若はまた川の方を指差した。

タクトは川岸まで歩いていき般若の指差す方角に向かう。


河川敷には犬の散歩やジョギングをしている人たちが数人居たが、タクトと般若が向かっている方角は誰もおらず、暗闇だけが広がっていた。


般若「、、、ここ。」

般若が草むらの前で立ち止まる。草は腰の位置くらいの高さまで伸びていた。

タクトはその草むらをかき分けて行くと小さな木造の『祠』(ほこら)があった。


タクト「こんな所に祠が?」

般若「、、、これが邪魔してるんだよ、、、。これ壊してよ、、。」

タクト「え?僕が?お前が壊せば良いだろ?」

般若「僕達は近寄れないんだ、、、、これを『血界』って言うんだ、、これのせいで、、こっちの世界とあっちの世界が別れてるんだ、、。」

タクト「、、、お前の世界とこの世界を繋げると何が起きるんだよ?」

般若「僕の同類がこっちの世界に沢山来てくれるよ、、。それでどんどん増えていって世界中に溢れるよ。、、、きっと楽しいよ、、。」

タクト「、、、楽しい、、?」

般若「、、うん。ワクワクするねぇ。」

タクト「、、、楽しいことなんてこの先ずっと無いと思ってた。」

般若「うん。それも知ってた、、、君の気持ち、、すごいわかったんだ。その不安、、その恐怖、、、絶望、、、。そして君はしっかりとその気持ちを多くの人に届けている、、、。気持ちの渦の中心に君を見つけたんだ、、。」

タクト「僕の気持ち、、?」

般若「そう、、、こんな世界嫌だものね。一緒にやっちゃおうよ。、、、壊しちゃおうよ。、、、その絶望を見せてよ。」

タクトは般若の面をじっと眺めて少し考えた。

すると間もなく両手で持てるくらいの大きさの石を拾った。

タクト「、、、良いよ!やってやるよ!」


タクトは思い切り石を祠めがけて振り下ろした。

大きな音が辺りに響く。
だがタクトは気にもせず何回も、何回も石を祠に叩きつけた。
汗が全身から吹き出した。

祠は粉々に砕け散った。

その破片の中に薄暗がりでも判るくらい赤く輝く石があった。
タクトはその石の破片を手に取るとポケットの中にしまった。



般若「、、、やったね、、ありがとう。」


その瞬間、河川敷に冷たい風が吹いた様な、温度が下がる様な感覚に陥った。
辺りを見渡すタクト。

般若「、、、皆、、、お待たせ、、。」

般若は川に向かってささやく。

すると川の中から別の般若が ぬっ と立ち上がり歩いて来た。

タクト「、、、何だ?」


川の中から次々と般若が出現した。

少しずつゆっくりと陸に向かって歩いて行く。

タクト「、、、なんだよこの光景は、、夢でも見ているみたいだ、、、。」

般若「、、、、夢を見るのはこれからだよ、、、。」




この出来事はマコトが特異体質になる3ヶ月前の事だった。




コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品