夢逃人(ドリーマー)

夕暮G太郎

第13章 長谷部タクト と 般若

高層マンションの下に隣接する森林公園。
時間は深夜だった。
その森の中にある立派な木に紐を括り付けて輪っかを作った。

少年はスマホの『Mytube』のLIVE配信ボタンを押す。

スマホが撮る動画はネットを駆け巡り世界中に配信されている。


少年は画面に向かって話始めた。

少年「皆様、、僕は今から首をつって死のうと思います。最後のメッセージを撮影します。」

少年の目の下にはクマが出来ていて、頬には殴られたようなアザが確認出来る。

少年「、、、僕は学校で酷いイジメにあっています。先生も誰も助けてくれません。
父親からも暴力を受けています。僕は毎日考えていました。何故生まれてきたのだろう?何の意味があって生きているんだろう。誰も助けてくれません。」

少年の目には涙が溢れた。

少年「もし僕がこのまま大人になってもきっと何もないと思います。だってこの世界はとても不公平で、弱い者は徹底的に追いやられる。大人になっても将来の事をずっと不安でいなければならない、、、そんなのあんまりだ、、僕は先にその輪廻から降りようと思います。」

少年はスマホを固定した。
小さな台に足をかけて紐を手に取り首に括り付けた。

額からは大量の汗。

足台を蹴ると首に紐が結ばれた

少年は声にならない声で苦しんだ。

足をバタバタさせていた。

苦しい、、、少年は思った。意識が遠のいていきそうになった瞬間、勢い良く紐が音を立てて切れた。

少年は思い切り地面に落下した。

少年「、、、、ゲホっ、、おえっ、、、、はあはあ、、、何だよ、、、ちくしょう、、、ちくしょう、、、、。」

少年は泣き続けた。


そこで動画は終わっていた。







高層ビルの部屋に朝日が差し込む。

少年の名前は 長谷部タクト(15) ひょろりとした体型でメガネをかけていた。髪は艶やかでおかっぱ頭だった。


首には紐のあとが残っていてアザになっていた。

トーストには何も付けずにかじりつく。

部屋には誰もおらずテーブルには千円札と付箋で「朝ごはんは適当に、今夜も遅いから冷蔵庫のもの勝手に食べて 母」

と書いてあった。

綺麗に整頓されている自分の部屋に入るとノートパソコンの電源を入れる。

動画投稿サイト『Mytube』 からメールが来ていた。

『コミュニティガイドライン違反により動画を削除致しました。』


タクト「、、、何だよちくしょう、、、、ちくしょう、、、。」

タクトは机の上のコップを壁に投げた。
音を立てて割れる。

タクト「どいつもこいつも僕の邪魔ばかりして、、、何だよ、、、。」


タクトはネットサーフィンを始めた。『TakTok』 という短い動画投稿サイトから『さいれんず』の動画を見つける。

タクトは少しも笑わずに見つめていた。

そんな中オススメ動画の文字に目を奪われた。

『閲覧注意 少年の自殺失敗ワロタ』

クリックすると目を疑った。


昨晩撮影して今朝削除された自分の動画がそこに投稿されていた。

タクト「あれ?嘘、、、。」

タクトはネットにて『閲覧注意 少年の自殺失敗ワロタ』と検索すると、各SNSに自分の動画が拡散されていた。

タクト「ははは、、、なんだこれ、、、もう拡散されてる、、、。」



その日からタクトは毎晩動画を上げた。

ずっと前にどこかの出張土産で父親が買って来た般若の仮面を自ら被り、

『高学歴中学生、般若チャンネル』を作り活動し始めた。

タクト「こんばんは、、、今夜は皆さんの将来がいかに終わってるかを中学生目線からお話したいと思います。皆さんは将来どうしますか?大学に行き、就職して、恋人と結婚して、子供が出来て、十分な貯金があって、健康で幸せに歳を取っていく、、、そんな事本当に出来ますか?出来ると思いますか?ここにあるデータがあります。」

データを印刷したものを画面に見せる。

タクト「このデータによると受験失敗、会社をクビ、結婚できない、子供に恵まれない、病気を患う、、貯金はほぼ無い、今自分が幸福とは思えない、、こちらの方が多いデータなんです。この世界で生きていくのなんて本当に辛いとは思いませんか?」

タクトは画面に向かって語り続ける。

タクト「もう生きる事に希望を持つのは辞めましょう。楽になりましょう。もう無理ゲーです。この世界は。僕はまたこの世界から旅立つ方法を考えます。皆さんも一緒に考えてください。それとも一緒に行きますか?コメントお待ちしてます。」







翌朝、タクトの元にまた

『コミュニティガイドライン違反により動画を削除致しました。』

と連絡がきていた。

しかしタクトは気にせずネットを開く。



やはり各SNSで拡散されていた。

コメントも沢山書き込まれていた。


「マジ見てて腹立ってくる!氏ぬなら一人で氏ね!」

「なんなのコイツ?草」

「キチガイか?」

「高学歴のやつに限って達観してんだよね」

「キモっ」

「将来が不安になっている者です。私もこの先どうなるか、、」


色々な意見が飛び交っていた。

タクト「、、、、こんなに反応あるんだ、、すごっ、、、あははは、、。」

タクトは笑いが込み上げて来た。何とも言えない満足感、達成感であった。


タクト「あははははははは、、、」

天井を見上げ笑っていたその時。

天井に般若のお面を被っている何者かが張り付いていた。

タクト「、、、、、うわあ!!!!何だ??泥棒か??変質者??」

驚くタクト。



般若「、、、、やっちゃいなよ、、、やっちゃいなよ、、、見せてよ、、、、。」


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