婚約破棄され国から追放された聖女は隣国で幸せを掴みます。
家出中なのです。
スパークさんに肩を掴まれ、ガクガクと体を揺らされるサイさん。
「スパークさん、落ち着いてください」
「エミか。君は、たしか魔術師見習いのはずだったよな?」
「はい」
私はコクリと頷く。
「本当に、君が……アレを倒したのか?」
「はい」
「……王宮筆頭魔術師ですら、並のドラゴンを傷つける魔法を扱うのは大変だというのに……、それを見習いの魔術師が……」
――あ、そうなのね……。
ようやく、自分がやらかしてしまったという事実に気がつく。
私が王妃として教育を受けていたセルトラ王国。
セルトラ王国の軍事には、大きく分けて3つの派閥が存在している。
一つが、魔法などを使えないけど、もっとも人数が多い一般兵、王都警備兵を含む兵士の方々。
次に、王宮の守護を主とする魔法が多少使えて、さらに階級の高い貴族で構成された近衛騎士団。
私のお姉様であるカサンドラ姉さまが所属するのは、近衛騎士団であり団長を務めている。
そして最後の3つ目の派閥にあたるのが魔法部隊。
人数は、一番少ないけれど、国中の優秀な魔術師を集めていると聞いた事がある。
ただし、王妃教育を受けていた私は殆どあった事はないけど。
「あ、あれです! 偶然というか火事場の馬鹿力というか……うちの村では普通でしたし!」
「普通? ドラゴンを倒すのがか?」
「は、はい! このくらいのドラゴンとか普通に倒せるだけの力を持っている人はゴロゴロいました! それどころか山や地形を変えたりする人もいました!」
「そんな馬鹿なことが……。そんな場所があったら噂になっているはずだ」
「日本って所なので……、ちょっと、結界に守られていて遠くにあるのでいけないんです……」
「聞いたことがない村だな……」
疑いのある眼差しで私を見てくるスパークさん。
彼は、ジッと私の瞳を覗き込むようにして見てくると大きく溜息をついた。
「だが、嘘を言ったところで何も変わらないからな……」
スパークさんは、サイさんの肩から手を離すと私の方へと体ごと向き頭を下げてくる。
「今回、魔術師であるエミが同行してくれていた事を深く感謝する」
「いえいえ。気にしないでください。ただ、うちの村では力を隠すようにと言われているので……」
「つまり、他人には力を見せるなということか?」
「そんな感じです」
「なるほど……、たしかにドラゴンを一人で倒す程の魔術師となれば……エミのような魔術師が多数存在する魔術師がいるのなら……、各国の力関係が崩れるな」
「はい。――ですので、私一人でなく皆で倒したってことにしてください。――と、言うかドラゴンは襲撃してこなかった! って、ことでお願いできますか?」
「だが――、これだけの多くの商人の口をふさぐのは……」
たしかに……。
人の口に戸は立てられぬと言いますからね。
でも、私としては、あまり派手に立ち回りたくないので、何とか出来るか考え――、
「あのスパークさん」
「何だ?」
「このドラゴンって高く売れますよね?」
「そりゃ、鱗一つでも家が買えるくらいには――」
「それじゃ、このドラゴンを私以外の全員で分けてもらえますか?」
「――な!? 正気か? これだけのドラゴンを倒したのなら、君が一人で倒したのだから、討伐報酬は君一人で受け取る権利があるんだぞ?」
「そういうのはいいので……。私、家出中なので噂になるのって困るんです。ですので、皆様で分けてもらう形で――、その代わりに私が倒したという事は秘密にしておいてほしいです」
「なるほど……」
そこでようやくスパークさんが得心いったのか頷いてくる。
「つまり、君は村での生活に飽き飽きして、外に出てきて冒険者になったと――。そして、自分の事が知られると嫌だから、倒したドラゴンを取引材料として自分の行いを隠してほしい――、そういうことか?」
「はい。そんな感じです」
そこまでは考えていないけど、正直、さっさと出発してほしい。
セルトラ王国内で、私が逃げだした事がバレて追っ手が掛かったら面倒だし、早く国境を超えたいです。
「……分かった。少し待ってくれ」
スパークさんは、サイさんを連れて他のキャラバンに参加しているメンバーを集め話し合いを始めた。
その中には、当然、冒険者の皆様も含まれる。
そして、すぐに話合いは終わり、スパークさんが戻ってきた。
「エミ」
「はい」
「君の案で、全員が即決した」
苦笑いのスパークさん。
「さすが商人さんですね」
「ああ、そうだな……。――で、ドラゴンなのだが、しばらくアイテムボックスに入れておいてもらえないか? さすがに討伐したとなると我々にもセルトラ王国へ説明しないといけなくなるからな」
「分かりました」
私はアイテムボックスの中にドラゴンを入れる。
「よし! 全員、さっさと隣国にいくぞ!」
スパークさんの指揮で、すぐに商隊は、街道を走り始めた。
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