婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。
村の秘伝なのです。
「アリーシャ、君は……一体、どこから、それを……」
「うちの田舎は全員、赤魔導士なのでアイテムボックスを持っているんです。つまり村の秘伝です」
「村の秘伝?」
「はい。よくありますよね。剣士が必殺技とかを継承したり。それと同じような感じです」
「そ、そうなのか……」
アイテム収納のスキルを持っている人は稀だけど、居ない事はないので、とりあえず勢いで押し通すことにする。
そして、幸いなことに、エリザさんは、それで納得してくれたみたいです。
世間知らずはちょろいです。
「それではエリザさん。食事を摂りましたら交互に睡眠をとるという感じでどうでしょうか?」
「そうだな」
私の提案に、エリザさんも異論はないようで、猪を焼いた肉を食べたあとは、二人で交互にベッドで睡眠をとり――、朝を迎えた。
「こっちは、片付けは終わったぞ?」
「はい! こっちも、終わります」
クローゼットやベッドをアイテムボックスの中へぽいぽい収納していく。
薪を消しているエリザさんよりも、手間が掛からない。
「よし! これで終わりっと……」
綺麗に片付けられた森の中の開けた場所。
「エリザさん。それでは、行きますか? エリザさん?」
返答が返って来ない事を疑問に思いながら振り返りエリザさんの方を見ると、私は「あっ……」と、思わず小さく呟いてしまう。
エリザさんは、5メートルほどはあろうかというワイバーンと対峙していたから。
「ワイバーンですか……。ウィンドカッター連射!」
朝から、気持ちのいい出発の邪魔はしないでほしいものです。
私が放ったウィンドカッターは、ワイバーンを輪切りにして瞬殺。
その遺体を、町で売る為にアイテムボックスへと収納。
「――え? い、いま……何が……」
「すいません。時間が、勿体なかったので、ワイバーンを魔法で倒してアイテムボックスの中に入れておきました」
とりあえず事実だけを伝えておく。
「――いやいやいやいや」
あれ? 私、何か変なことを行ったかしら?
それは、ありえないだろうという反応がエリザさんから帰ってくるのだけれど……。
「小さな村なら、あれ一匹で滅ぼせる程の力を持っているんだぞ? それを瞬殺? どうなって――」
「赤魔導士ですから」
「私の知っている赤魔導士は、そんな感じでは……」
「うちの故郷の赤魔導士は、こんな感じです」
「そう……なのか……」
「はい。もしかしたら、うちは、すごい田舎の村だったので、少しだけ赤魔導士としての力が平均よりも強いのかも知れないですね」
「強いどころの騒ぎでは無い気がするが……」
なんだか納得いかなそうなエリザさん。
「とりあえず、まずは森から出ましょう」
「…………そうだな」
一先ず問題は棚上げにして魔の森から抜け出ることを最優先にして、二人で森の中を進む。
そして――、一週間ほど経過し……。
「まだ森を抜けません」
「どうなっているんだ!?」
私とエリザさんは、魔の森の中で完全に二人して迷子になってしまいました。
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