【完結】暴力系幼馴染と異世界に転生したら、幼馴染が魔王軍に裏切るとか言ったから、そのクソみたいな面を思いっきりぶん殴って、別のヒロインと付き合ってみた。

静内 燕

第2話 これがお前への気持ちだ

すると文香はこっちを振り向き、何食わぬ顔で言った。

「魔王軍に寝返る」

「は?」

空耳か? 急にこの世界に呼ばれて疲れがたまっていて幻聴を聞いてしまっているのか?

「何間抜けな声発してるのよ無能! この教会を裏切って魔王軍につくって言ってるのよ」

そう叫びながら文香は意気揚々と1枚の紙を俺に見せる。
真黒な紙に白いインク、確か魔王軍が使用している紙だ。

右端にあるサインの名前は、ゾイガー。確か魔王軍幹部の1人だったよな。
そしてこの街の報酬の10倍出す代わりに自分達に味方してほしいという内容が記述されていた。

「一応話は聞いてやる。どうしてこんな手紙に首を縦に振ったんだ?」

当然だ。確かに報酬の低さは俺も感じていた。けど、だからといって俺たちを必要としている人を見捨てるなんてできない。

「報酬が低いから。おかしいじゃない。私たち、魔王軍たちと戦うときはいつも先頭に立っているのに、報酬は雑魚としか戦わない一般冒険者とあまり変わらないなんて」


「しょうがないだろ。この街は貧しいんだ、彼らだってギリギリの生活をしていてとても報奨金を削れる立場じゃない」

その通り、この村はこれといった産業や資源もない貧しい村。なので、一般冒険者もギリギリの暮らしをしている。俺たちへの分配を増やせというのは、彼らにもっと貧しくなれと飢え死にしろと言っているようなものだ。

「じゃあ、ここにいる子供たちはどうするつもりなんだ?」

「見捨てればいいじゃない。そんなことも言わないと内容も理解できないの? 本当にバカでノロマね」

そして文香は俺の手をぎゅっと握り、教会の外へ引っ張ろうとする。俺の意見を聞こうともしていない。

まずい、いくら何でもみんなを見捨てるのだけは嫌だ。

「感謝しなさいっていてるのよクズ! あんたどうせこの後何をするかとか考えていないんでしょ。そんなダメ人間のあんたにこの先どうすればいいかを教えてやって上げているのよ」

キィィィィィィ──。

誰かが教会の扉を開ける。

「やっほ~、信一君、ごめん、落とし物しちゃった」


その声に俺はホッとした気分になる。メルアだ。

とりあえずこの場はしのげそう。そう思っていると文香がずんずんとメルアに視線を送って歩き出す。
そして俺とすれ違いにこうささやく。

「ちょっと邪魔を消してくる」

そしてメルアに近づくと──。

「ちょっと邪魔なのよ。死んでくれる?」

そう言い放ちながらメルアを蹴り飛ばす。
倒れこみながら困惑するメルアに、文香は何度も蹴飛ばし暴力をふるう。

「何こんな時に来るのよ! むかついたわ、もう消すからあんた」

突然のことにメルアは動揺。その間にも文香はメルアを消すべく暴力を続ける。

「まずい、メルアを助けないと」

そう思って文香に立ち向かおうとするが──。

「足が、動かない」

文香に立ち向かうという意思に対して、俺の足が鉛のように重く動かない。
俺の本能が文香に立ち向かうことを拒絶してしまうのだ。

文香の身長は小柄な部類で大体155㎝くらい。俺の身長は大体175㎝くらいある。
頭一つくらい身長が違うのに、彼女がとてつもなく大きな存在に見える

長年暴力を受けてきた俺の心の中に「俺は文香に絶対に勝てない」という固定概念が、鎖のように縛り付けてしまっているのだ。

体が震えている。
細胞レベルで、彼女に抵抗することを恐れている。それでも、立ち向かわなくちゃいけない。

恐怖を乗り越えて、前へ。
メルアを守りたい、たったそれだけの思いを胸に、先へ。

彼女はお前とは違う。いつの周囲のことを考えてくれて、周りのためを思ってくれている。

そんなメルアに文香は暴力を加えながら叫ぶ。

「体でも差し出したのかしら? 私の信一を誘惑して」

そして俺は叫ぶ。

「メルアに触れるなァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」

そう叫び俺は文香に大きく近づく。

彼女はいつもそう。周囲を明るくしたり、自分のことを 周囲のことを考えて行動している。
自分の気持ちを隠して。

どんなに悲しくても、辛くてもその気持ちを胸にしまってしまうのだ。


それでも俺や周りのために尽くそうとしている。お前のように、身勝手で、周囲を傷つけてもなんとも思わない。そんなクズ野郎とは天と地の差だ。


そんな思いを拳に込め、その想いを──。

全力で文香の顔面に放った。

直撃。
さすがに俺が反抗することは予測していなかったようで、ガードすることができなかった。

鼻からぽたぽたと鼻血が流れ出ている。

そして右手で鼻を抑えながら俺をにらみつける。
目をきょろきょろとさせていることから、表情を見るだけで動揺を隠せないのがわかる。

そしてびくびくとしたまま俺の方向を向いてつぶやく。

「ウソよね、付き合っているの──、私以外の女と?」




          

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