【完結済】突然異世界に召喚された俺、とりあえず勇者になってみますね

静内 燕

第204話 付け焼刃、それでも

「確かに天使だけあって、実力は相当ね」

「当たり前ですわ。そんな付け焼刃のコンビネーションで、私達に勝てると思ったら、大間違いですわ。メーリング」

勇気を振り絞り、戦いを決意したメーリングとルナシー。
二人は奮闘し、圧倒的な天使の攻撃に何とか対抗する。
しかし、反撃に出るという所まではいかず。防戦一方。


そんな中、メーリングが反撃に出る。

我が覇者なる力よ、わたしを拒む障壁踏み越え、その証を刻め
ペンタプリズム・スレイシング・ストーム

彼女の強力な一撃。
相対していたシャムシールは反射的にそれを防いだものの、メーリングは次々に攻撃を繰り出してくる。

彼女らしく、力任せで、強力な一撃を繰り返す。シャムシールは技術ではメーリングをはるかに上回っていたものの、攻撃を受けるのに苦戦する。

どうしても受けるのに力を使ってしまい、反撃の態勢を整えるのは容易ではなかった。

「こいつ、力押ししかできないくせに──」

「ほめ言葉、とても嬉しいわ」

歯ぎしりをするシャムシールに、にやりと笑みを浮かべるメーリング。
こちらは、メーリングが接近戦が得意というだけあって、何とか勝負になっている。


そうしている間に、ルナシーの方がピンチを迎えていた。

(このままでは、負ける──)

ルナシーの兵器は杖。それを見てもわかるように、彼女は遠距離攻撃を中心とする戦闘スタイルだ。

至近距離での、彼女の戦闘力は、メーリングと比べても、天使たちと比べても三段階くらい差があり、対応するのが精一杯になっている。

初めこそ、メーリングが前線に立って戦い、ルナシーが後方で援護するやり方だった。
が、それに気づいた天使たちが一対一同士で戦うスタイルに変えた。

よって一人で、アブディールを相手にしなければならなくなり、苦戦が続いていたのだ。

アブディールは神々しい、白く光り輝く槍を持ち、ルナシーに向かって突っ込んでくる。

それにびくっと驚いたルナシーであったが、すぐに迎撃の体制になる。

「行きます。アブディール!」
ルナシーはそう叫び、アブディールに向かって杖をふるう。

風を引き裂くような強い突き。
逃げていても、勝ち目がないと悟ったルナシー、無謀だとわかっていても、前に出ていく。

──が、現実は甘くない。その先が彼女の胸に届く前に、アブディールはその攻撃を簡単に払いのける。

「ちょっと甘いよね。そんな攻撃で勝てると思ったんですの?」

やはり付け焼刃では天使には通じない。

そのままアブディールは返す刀で、ルナシーの胸を目掛けて、その剣を突き刺す。
その剣がルナシーに直撃し、致命傷を受け──たかに見えた。

「私が、足を引っ張るわけにはいきません!」

ルナシーはその場所に十センチほどの障壁を展開。面積は小さいものの、その分分厚い障壁を張ることができ、攻撃を防ぐ形になる。

「まだです──。これならどうですか?」

それでもシャムシールは次の攻撃に移る。切り下し、なぎ払い、美しさすら感じる無駄のない連続攻撃。

(確かに、あなたたちからは感じますわ。心の底から、私達に勝利したいという想いを)

シャムシールは心の底で、感じ取っていた。彼女たちのこの戦いにおける覚悟を。自らが灰になってでも、自分たちを倒そうという強い想い。

しかし、それは自分だって同じだ。

(けれど、その想いの強さは、私達だって同じですの。私達だって、理想を踏みにじられ、絶望した。もう、この世界を変えるしかないと理解した。たとえ、どんな犠牲を払ってでも!)

そんな背水の陣のような強い覚悟を持った猛攻。

──その猛攻を、ルナシーは何とか防ぎ切ったのだ。

「ルナシー。やるじゃない。あなたなら、負けるはずがないわ」


「驚いたですの。私の連続攻撃が」

シャムシールは、二人の予想外の粘り、強さに動揺し、一度引いて作戦を立て直そうとアイコンタクトを送る。

アブディールはコクリと首を縦に振る。
そしてその通り、シャムシールが一歩引こうとした瞬間。

「そうは、させないわ!」


ルナシーが勇気を出して前に出る。前線での戦いに向かない彼女の予想外の行動にアブディールは驚きながらも、応戦。

再び鋭い斬撃の連続がルナシーを襲う。
──が、今回もその障壁によって攻撃を防ぐ。
それでもアブディール

「もらったわ!」

「しまった──」

同じように攻撃を防ごうとした瞬間。
アブディールがいったんステップをとり後方に一歩引いたのだ。
(でも、同じではそう何度も通じないですの)


そう、フェイントというやつだ。
いくらルナシーに技術があるとはいえ、同じ手を出し続けるのは限界がある。
当然読まれ、裏をかかれてしまう。

「もらいましたの!」

それをアブディールが、見逃すはずがない。
障壁もなく、がら空きになったルナシーを目掛けて、アブディールが切り込む。

(これで、決着ですの!)

決着がついたと確信した瞬間、ひとりの人物がそこへ割り込んでいた。

アブディールの渾身の一撃を防いだのは、メーリングだ。

「しまった……ですわ」

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