【完結済】突然異世界に召喚された俺、とりあえず勇者になってみますね

静内 燕

第201話 エーテル体

「やっぱり、天使だけあるわね。見透かされちゃった」

「できるだけ、ごまかしてはいたんですけどね──」

自らの怯えを見透かされ、苦笑いを浮かべる二人。本心では、二人は理解していた。

(確かに、いま私たちがしているのはただの無謀かもしれない)

今まで何度の視線をくぐりぬいてきたからこそ、自分たちと、天使たちとの間に、どうすることも出来ない差があるというものを。

今すぐ襲い掛かって来ないで、それを宣告するのは、天使なりの優しさだろう。
引き返しという、彼女たちの唯一の生存ルートを与えているのだ。

(絶対悪ではないのね。優しさも、残しているという事でしょうか)

いま二人が逃げだせば、天使たちはそれを見逃してくれるだろう。それでも、メーリングはかみしめる。

(でも、こっちだって──。引き下がるわけにはいかないのよ。たとえどんな敵でも!)

確かに怖い、二人の視線を感じるだけで両足が震え、背中から冷たい汗が噴き出す。
それでも、その恐怖と対峙して、立ち向かうだけの理由がある。
メーリングは一歩踏み出し、天使たちをにらみつけながら言い放つ。

「あなたたち位人を見て来たならわかるでしょ? 私たちに、引き下がるなんて選択はないということを──」

「そうです。メーリングさんの言う通り、私達は、自分たちの道を──、切り開くんです!」

ルナシーが、杖を天使たちに突き付ける。
明確な敵意と共に。

アブディールが、静かにつぶやく。

「そうよね。愚問だったわ。私達は、あなたたちに恨みがあるわけではない。でも、私達の行いを邪魔するというのなら、容赦はしないわ!」

堂々とたたずんでいた彼女が、初めて剣を召喚し、その切っ先を向ける。
白い光を纏った、神々しさを感じさせる剣。

天使らしく、美しく舞うような優雅さで。

──明確に敵意を突き付ける。
彼女が剣を向けた瞬間、メーリングとルナシーは、竦み上がるような恐怖を感じた。



その魂が、全身が、本能が、全力を挙げて泣き叫ぶ。

早く逃げて──。
戦わないで──。
頼むから、やめて。

じゃなかったら、あなた、ここが墓場になってしまうわ。

しかし、勇気を出して歯を食いしばり、その重圧に真正面から立ち向かう。

「我、心を作りし天使。シャムシール」
「我、愛を作りし天使。アブディール」

「「若き少女よ。絶対的な存在の強さを知りなさい」」

そしてメーリング、ルナシーと、天使アブディール、シャムシールの激闘が始まった。





一方、サラに先導され、先ほどのような道を進む幸一達。
ルナシーのおかげで、結界を抜け出した後、サラの力でその先の道を見つけ出したのだ。


先ほどのような薄暗いトンネルのような道を進む。
すると、幸一の肩にツンツンと叩く。幸一が背後を向くと──。

「幸一殿、イレーナ殿さすがじゃ。ここまでたどり着くとはな」

「ユダ──。お前も協力してくれるのか?」

ウェーブのかかった紫の髪の毛、小柄でスレンダーな体型、未成熟な少女のような容姿。
ニヤリとした笑みを浮かべ、腕を組んで立っている。そう、ユダであった。

「そうじゃ。そちたちが必死になって、命を懸けて戦っているといるのに、わしだけが高みの見物なんてありえないからのう。最後の戦いじゃ。わしも力になるぞい」

しかし、一つの疑問がわく。イレーナがその疑問について質問する。

「でも、ユダちゃん。相手は大天使だよね。戦っていいの?」

「構わんぞい。もともと大天使の思想にも、行動にも疑念を持って行動していた。ひねくれ者のわしらしくな。だから問題はない。安心して戦えるぞい」

「ふっ。反抗心ましましか。そっちの方がユダらしいよ それに、天使であるお前が加勢してくれるのは頼りになる。一緒に戦おう」


天使は暴力などで人間世界に干渉できないことになっているため、幸一達は彼女の実力を知らない。しかし、バルトロやトマスなどとったかったこともあり、ユダも同程度の実力があるだろうと幸一達は予想。

これからの戦い、魔王、大天使、今までとは比べ物にならないくらい強い敵と戦うだろう。だから見方が増えるのは何より心強い。

そして幸一が前に向かって歩を進めようとすると、ユダがそれを引き留める。

「まてまて、話はまだ終わっとらんぞい」

「なんだユダ。まだ何かあるのか?」

「なんだではない。少し頭を回して考えてみろ。これからおぬしたちが戦う相手を。貴様たちはもちろんこのわしよりもはるかに格が強い相手じゃ当然人間であるおぬしたち、格下であるわしがかなうわけではない。そこで幸一殿とイレーナ殿に、奇策を使ってもらうことにする」

そしてユダは幸一とイレーナに手をかざす。

すると幸一は自身の体に異変が起きていることに気付く。

(俺の体に、力が流れこんでいる)

今までの無い、今まで感じた力とは全く違う異質な力。そんな力が自らの体内に注入されているのだ。

それも、光り輝く、強大な力。
そして数十秒ほどたつとユダはそっと手を下した。
二人は、全身への違和感を感じ、驚きながらユダに質問をする。

「ユダちゃん。見たことないよ。この力、何なの。教えてよ!」

「それは、エーテル体というやつじゃ」

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