【完結済】突然異世界に召喚された俺、とりあえず勇者になってみますね
第158話 勝敗 しかし──
「勝った──、のか?」
レフェリーも勝負がついた事を悟り右手を上げ勝敗を叫ぼうとしたその時──。
うわああああああああああああああああああああ!!!!
なんと生身の状態のままメーリングは幸一に薙ぎりかかってきたのである。
次魔力がないメーリングが攻撃を食らえば、幸一の剣が彼女の肉体を直接切り裂くだろう。
それを回避しつつ勝負をつけるには幸一も魔力を解除し殴り合いに持ち込んで勝つしかないのだが。
(彼女だって基礎体力は相当あるはずだ。それができるか?)
幸一も基礎体力も鍛えている。しかしメーリングが何をしてくるか全く読めない。
関節技など人を殺すことができる体術を持っている可能性だって十分にある。下手をしたら命だって危ない。
(どうすればいい……)
迫ってくる相手、しなければならない決断。彼が下した答えは──。
「仕方ない、行くしかない!!」
再び最後の魔力を剣に込め、その手を振り上げる。
あくまで戦いの意思を取ったのはメーリング、幸一はそれから身を守ろうとしただけ。正当防衛となんとでも言い訳はできるし罪に問われることもない。
「メーリング──、もうやめて!!」
叫んだのはサラだった。
その声に互いに動きを止める。
「……サラ」
メーリングは虚ろな目のままサラに視線を移す。そして──。
(サラが分かる?? 呼びかけてみよう)
幸一には見えた、今まで攻撃を受けても全く表情を変えなかった彼女が一瞬だけ表情を変えた事を──。
「お前、サラが分かるのか??」
その問いかけにメーリングははっとしたような表情になる。しかしすぐにまた無表情に戻る。
「今の私には、関係ない!! 」
メーリングが叫びよろけながら走って幸一に駆け寄る、すると──。
「もう勝負はついたッス。これ以上命の取り合いになるなら、私が力づくでも止めるッス!!」
ルチアが間に入ってメーリングを睨みつけながら叫ぶ。手には彼女の平気である十字架の形をした短剣。
ドッ──!!
相対した瞬間メーリングが再び膝をつく。やはり限界だったようだ。
「ルチア──、あなたまで……」
「今メーリングを失うわけにはいかない。救出しなさい!!」
見かねたアイヒが後方に向かって叫ぶとその方向から二人の人物が飛んでやってくる。
一人はサラと同じくらいの背の茶髪でセミロングの少女、もう一人は黒髪で短髪、幸一と同じくらいの背の少年。
「まったくしょうがないわね。あんた、覚悟しなさい」
「まあ──、これも仕事だ。殺しはしないからそいつは渡してもらうぞ」
「応援部隊、やはりいたか」
二人の姿を見るなり幸一は再び戦おうと構えをとる。
(まずい、体がもう──)
しかし構えを取ろうとした瞬間、自分の意志とは無関係に地面に膝をついてしまう。
幸一もまた、規格外の強さを持つメーリングの攻撃を耐え続け体力も魔力も限界に達していたのだ。
何とか体を起こそうとするが体はすでに限界を迎えているのか全く動かすことが出来ない。
剣を地面に突き刺し二人をにらみつけながら囁く。
「だめだ、今逃がしたら──」
「も、もうやめて──」
幸一は自らの体を支えることができずにその場に倒れこむ。サラが慌てて彼のもとに駆け寄り地面に倒れる寸前で幸一の上半身を抱きかかえる。
どこか悲しげで、目にはうっすらと涙を浮かべている表情で。
「勇者さん、仕方ないッス。ここは私が──」
「させないわ!!」
そして少女が一歩前に出てルチアににらみを利かせる。
その間、短髪の男がメーリングをおぶり始める。
「あんたの術式が戦闘向きじゃないってのは知ってるわ」
「……わかっているッスよ。だからもどかしい気持ちを我慢してあんたを睨みつけているんじゃないッスか」
軽く舌打ちをしながらルチアがにらみを利かせる。しかしルチアの能力は戦闘向きでないうえに二人の強さも戦闘スタイルも知らない。下手をすれば返り討ちになる。そうなればこっちに戦えるものはいなくなり敵に捕らえられるのは必至だ。
(今だけは、自分の能力がうらめしいッス)
短髪の男がメーリングをおぶりながらアイヒの方に帰っていく。
茶髪の少女がそれをちらりと振り向いて確認するとルチアににらみを利かせ、自身の兵器である剣を召還。
剣をルチアに向けながら後ろに後退。
「仕方ないッス。撤退しかないッスね」
ルチアはもう戦う意味がないと悟りため息をつく。
そして幸一とサラに接近、サラと一緒に幸一の体を起こし肩を貸す。そして周囲を警戒しにらみを利かせながらこの場から撤退を開始する。
幸一は薄れゆく意識の中、サラに抱きかかえられながらルチアとサラの声を耳にする。
「勇者さん、よくやったッス。でも無茶はダメっす」
「でも幸くん。メーリングは斬らないで。私、そんなのやだよ」
慰めるようなサラとルチアの声、自分はどうすればよかったのか、メーリングを救えるのか。
このまま互いの存在が消えるまで争うしかないのか。
そしてそんなことを考えながら彼の意識はそこで閉じた。
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