【完結済】突然異世界に召喚された俺、とりあえず勇者になってみますね

静内 燕

第157話 守ってばかりで、みじめでかっこ悪いと思わないの?

(やはり長期戦には向いていないようだ──)


そして一気にメーリングが突っ込んでくる。そして攻撃を受けつつ感じ始める。

「さっきに比べると速度も落ち気味になっている。息も荒い」

(言われなくてもわかってるわ)

メーリングは必死に攻め続け攻撃を続けるも反応しない。逆に焦りからか必要以上に力を入れ過ぎるようになり、それが体力の消耗を速めていった。

(やはり狙い通りだ──)


彼女の異常な反射神経、確かに強いモノがあるしまともに戦ったら勝ち目は薄い。だが幸一はアイヒとメーリングのやりとりを見てあれが彼女に与えられたものだと何となく理解できていた。
いくら人外の反射神経を手に入れても体力の方は冒険者として鍛え上げた人間のレベルということには変わりはない。


なのでその反射神経に体力がついていかずにガス欠してしまったのである。


(どこか焦り気味になっている。これならいける)


確かに彼女は実力もかなりのものがあるし、どんなことがあっても表情一つ変えずに戦える強さがある。しかし周囲はそうではない、どんな強い敵でも勝利の可能性を捨てず、戦ってきた彼ならでばの発想だった。

長期戦になればなるほど不利になる。だったらリスクを取って勝負に出るよりも彼女のガス欠を待って動きが落ちてきたところを狙えばいい。

そう考え幸一は防戦を取っていた、そして今その作戦が実ったのである。

(よし、わずかだが速度が落ちてきてる)

額にはわずかながら汗が浮かんでいるのが見える。

「守ってばかりで、みじめでかっこ悪いと思わないの?」





「どんなにかっこ悪くても、無様でもいい。最後まで可能性を捨てずに、あきらめずに戦い勝つ」

見え見えの挑発、しかし幸一は動じない。

それに──。

「プライドや維持にばかりこだわって何も守れないほうがとても格好悪いしみじめだと思うな!!」

幸一がそう叫ぶとメーリングがはっと目を点にする。
明らかに彼女に焦りが出ているのを感じた。

そして攻撃はさらに単調に、力任せになりがちになる。



「俺は、体力が危なそうなときはその状態にあった戦い方をする。敵だって俺に勝とうと気さくだったり奇襲だったりをしてくる。それでも勝ち筋を捨てず、負け筋を作らないためにな!!」

(しかし自分の体力が落ちていることを悟られたくないお前は感情的になり、それを否定しようとさらに体力がないとできないような動きを取ろうとする。その結果その動きに体が追い付かず大きな隙ができる!!)

「おそらく今までそんな強敵と戦ったことがないのだろうな」

小さな声で呟く幸一。
強敵たちとギリギリの戦いを続ける中で幸一は無意識にそういった技術を学んできた、その中で最後まで戦い抜いた。

イレーナや撃滅王「マンネルヘイム」、青葉や数々の大型魔獣、数々の強敵と大切なものをかけ死闘を繰り広げてきた幸一と、闘技場などで格下の相手とばかり戦ってきたメーリングとの差だった。

そして──。

「いける!!」

メーリングの大ぶりになった攻撃をかわし幸一が一気に懐に入る。

「しまった!!」

メーリングは思わず声を漏らす。それを見ていたサラとルチアも思わずこぶしを握って叫ぶ。

「幸君!!」

「行けるッス!!」


初めてできた反撃のチャンス、幸一はありったけの魔力を自身の剣に込める。

そして──。

涅槃なる力、今世界を轟かせる光となり降臨せよ!!

スピリッド・シェイブ・ハルバード

ドォォォォォォォォォォォォン!!


メーリング、この戦いで初めて有効打を浴びる。





メーリングの体が宙を舞い後方に吹き飛ぶ。

観客たちも、まさかの反撃にざわめきだし歓喜の声を上げる。

「やっぱ勇者さん、牙を隠し持っていたっすねぇ~~」

「あたりまえだよ、幸君がこんなところで負けるわけがないよ!!」

さっきまでうつむいていたサラは一気に表情が明るくなり、ルチアはふっと微笑を浮かべる。

(チャンスだ、一気に勝負を決める!!)

やっとできたチャンス、一気に勝負を決めようと幸一はすぐに距離を詰める。
そして倒れたばかりで体制が整っていないメーリングに向かって剣を振り下ろす。


メーリングはすぐに立ち上がり幸一の攻撃を剣で受ける。

体制が整いきらず片手は地面に着いたまま

円を描くようにひらりとかわし幸一の眼前に急接近。

(しまった──)

(かかったわ!!)

メーリングの罠、勝利がちらつき無意識に前がかりになっていた幸一は彼女の動きを予測できていなかった。


(しまった!!)

幸一は残り少ない魔力を使い体を後方に投げる。間一髪で攻撃をかわす形となる。
しかし強引に身を投げたためうまく態勢を整えられず尻もちをついてしまう。

(まずい、すぐに立て直さないと)

そう考えメーリングに視線を向け立ちあがろうとした刹那──。

「え──?」

彼女の姿を見て驚く。
メーリングの体から魔力が消え膝をつきはじめたのである。

それを見た幸一は一つの予測を立てた。




(魔力が尽きたのか?)





幸一の言葉通りメーリングはすべての魔力を使い切ってしまったのだ。
理由は簡単、反射神経を上げて通常より体の動作を早くしていたうえ、幸一を力押しで突破しようといつもより強い魔力で攻撃していたためである。

現にメーリングは体をぴくぴくとさせ大きく息を荒げ、立ちあがろうとするが体が全く言う事を聞かない。

そしてばたりとその場に倒れこむ。

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