【完結済】突然異世界に召喚された俺、とりあえず勇者になってみますね

静内 燕

第156話 圧倒的なパワー 代償



しかし──



タッ──。


メーリングは体の前方に大量の魔力を込め強引に身体を後方へ投げるように移動。強引に力技で攻撃をかわす。
そしてすぐに体勢を立て直し自身の剣を振り上げる。


(まずい──)

この場一帯を包むような強いエネルギーを感じる。彼女の剣からは10メートル離れた幸一からも感じ取れるくらいの強力な魔力。

(何かが来る!!)


根絶やしにせよ!!
邪険なる咆哮 <オウル・オブ・ガタノゾーア>

そしてその叫び声と同時にメーリングを中心に真っ黒な衝撃波が迸った。

ドォォォォォォォォォォォォォォォン!!


幸一は感じた、自分の視界を埋め尽くして迫りくる邪悪な、津波のような衝撃波。
それを見て彼は逃げずに踏みとどまる。

そして両足に魔力を込め膝を折り曲げる。そして──。


「メーリングに向かって走り出した?」


その行動にサラが思わず叫ぶ。サラの言葉通り幸一は何と一気に衝撃波に向かって加速し一直線で突き進んでいったのだ。

「何で? 無茶だよ!!」

「いいや、あれで大丈夫ッス。どの道彼に逃げ場所なんてないッス」

ルチアの言葉にサラは戸惑う。

「でも、だからって突っ込むなんて──」

「自分から速度をつけて突っ込めばそれだけ衝撃波に触れる時間は短くなるッス。あの攻撃範囲じゃ攻撃をかわすのは当然無理ッス。だから全力で突っ込むという判断は間違っていないッス」

そして幸一は一気に衝撃波を貫いた。ダメージは深刻ではない、大したことが無いと考えた幸一は止まることなく一直線に衝撃波の中心に立つメーリング目掛け矢のごとく飛翔し、自身の剣をつっ立てる。

メーリングは表情を全く変えず幸一へ向かっていく。
そして急接近した二人、再びの接近戦。それならパワータイプの剣士に慣れきっている幸一は自分に商機があると考え一気に剣を振り下ろそうとする。

そのはずだった刹那、標的であったメーリングが幸一の視界から姿を消した。

(……えっ!?)

理解できないという表情で戸惑う幸一。そして彼の心臓がドクン! ドクン! と危険な警鐘を鳴らす。

(まずい──!!)


体の底、直感から来る第六感が、彼の行動の道しるべとなった。
幸一はすぐに状態を地面と平行になるように思いっきり寝かせる。

スパァァァァァァァァァァァァァァ──!!

その刹那、彼の状態があった場所に後ろからメーリングの剣が目にもとまらぬ速さで通過、間一髪で攻撃を逃れる。

幸一はすぐに体を反転、戸惑いながらもメーリングと相対する。

(何だ今の……!)

動揺する幸一にメーリングはさらに反撃、勢いよく乱撃をしかける。

(まさか……、ここは無理できない)

防御に徹しようと振り下ろされる剣を受けようと頭上に剣を構えた瞬間──。



蒸発したかのようにその姿が消失した。


(まずい──!!)

幸一がなりふり構わず自分の体を後方に投げる。
その瞬間、彼がいた空間にメーリングの攻撃が奔る。


すぐに後方に身を投げたため、体勢を崩しそうになったが。すぐに体勢を立て直す。

「そういうことだったのか──」

そしてメーリングはさらに反撃。
今までの相手の感覚で攻撃を受けていたらガードを壊され直撃される。

ましてやかっこよくかわそうとすれば回避が間に合わずそこで勝負が決まってしまうだろう。

というか目で追うことすら難しい。

(まず今までにないくらい早い。おまけに攻撃の威力が段違い)

幸一は防戦に徹しメーリングの攻撃をなんとかしのぎ切る。
その攻撃を見てざわめく周囲の観客。

「あの女、やっぱりつええよ」

「あの勇者、押されっぱなしじゃねえか」

「ちったあ抵抗しろよ」

確かに強さの理由もわかった、しかし幸一がそれ以上に感じていた違和感。それは──。

(こいつ、感情がないのか?)


全く感情的なものが感じられないのだ。

怒りに満ちている時、幸一の守りを崩せなくてイライラしたりあせっている時、戦いながらも相手からは必ずそういった表情が伝わってくる。

しかし今のメーリングからはそれがない。全く無表情で、顔色一つ変えず幸一に向って突っ込み攻め続けている。

ロボットと戦っているような感覚に陥る。

そして何とか一端距離を取ると幸一が構えを取りながら話しかける。

「反射神経だな、お前の強さの秘密は」






メーリングは反応しない。

(今までのやり取りで気づいたのね、やるじゃない)

彼女は心の中で幸一に拍手を送っていた。彼の推測は当たっていた、
アイヒの改造によって通常の人間の何倍もの反射速度を得ていたのだった。

メーリングはため息をつきちらりとハイドのほうへ視線を向ける。


腕を組み冷静なしぐさをしているが、組んだ腕の指がぴくぴく動いていたり周囲をきょろきょろしていたり落ち着かなくなっている。

(やはりな、あいつが関わっているのか──)

先ほどのアイヒがメーリング肩に手を置き指示を出すしぐさ。あれを思い出しこのメーリングの力には彼がかかわっている可能性が高いと幸一は踏んだ。

ならばメーリングは表情で教えてくれなくても彼ならば表情で教えてくれるかもしれない。
そしてその考えが的中したのだった。

(やはり長期戦には向いていないようだ──)

幸一が初めて見つけた勝利に心の中でニヤリと笑う。

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