【完結済】突然異世界に召喚された俺、とりあえず勇者になってみますね

静内 燕

第155話 VSメーリング 圧倒的なパワー

「50戦無敗の彼女の次なる対戦相手。それはそこにいる勇者さんなのですよ」

「え? 勇者とこいつの戦いかよ。これは賭けがいがあるぜぇ!!」

勇者と闘技場最強の冒険者の対決。予想もつかなかった戦いに周囲はヒートアップし歓喜と興奮の叫び声を上げる。

「どうやら、戦うしかなさそうだな戦うしかなさそうだな──」




「メーリング、そこにいる彼が今回の対戦相手です。いつものように軽く一捻りで倒してあげなさい。手加減はいりませんよ」

「アイヒ、了解しました──。対象を撃破します」

(隣にいるのはアイヒっていうのか──、しかし何かがおかしい)

アイヒはフードを被り、顔を隠した痩せている老人といった印象だ。
彼女とアイヒのやりとりを見ていて幸一は違和感を感じた。メーリングの表情、彼に従っているにしてもどこかおかしい、まず視線が虚ろで全く光を感じない。まるで自分の意思そのものが存在しないような感じ。幸一は前にもこういった感覚を覚えていた。


(まさか、青葉のように──)

幸一の脳裏には少し前に繰り広げた青葉との死闘が浮かんでいた。
魔王と手を組んだ天使によって勝手に人格を植えつけられ自分の意思とは無関係に戦わされた青葉の事だった。

(だが、声をかけたくらいで簡単にどうなる事ではない、)

あの時は青葉が望んでいないという事を幸一が理解していた、そして青葉自身が強い意志で抵抗していたから何とか勝った。しかし彼女の事は彼は良くわからない。

故に幸一が呼びかけたところで反応してくれるとは思えない。

(やはり戦うしかないか──)

それにこの闘技場の秘密を知るにはメーリングの側近のアイヒという男やその周囲をとらえなければならない。どの道戦いから逃げることなんてできない。

(だったら、今やるしかない)

幸一は一瞬ためらいを見せた後そっと首を縦に振る。そしてそっとメーリングのほうをにらみつけながらささやく。

「わかった、戦おう──」

「じゃあ、よろしく」

その言葉を聞いて周囲の雰囲気がさらにヒートアップする。ボルテージは最高潮に達し観客のざわめき声でこの場一体が歓喜と興奮でいっぱいになる。

そんな雰囲気の中、サラとメーリングが心配になり幸一に詰め寄る。


「あの、幸君……、その──、大丈夫?」

「──大丈夫、絶対戻ってくるよ」

幸一は少しためらいながらも首を縦に振る。サラは心配そうに見つめながらも幸一を信じ「がんばって」と一声かけルチアのもとによる。

「私もちょっと心配っす。メーリングの目つき、どこかおかしいのが丸わかりっす。なにか特別な力があると思うっす。気を付けてくださいっす」

「大丈夫。それは俺も感じてる、油断なんてしない。本気で戦う」

そしてルチアの忠告を受け取り幸一は闘技場の中心のリングへと向かっていく。
二人が戦う場所、それはやや広めで何もない空間。それを見て 息をのみ兵器を召喚し構える。

すると、幸一は自分が通ってきたほうから足音が聞こえだす。

その方向にはメーリング、アイヒから何か話を聞いているようだ。

(おそらく今まででもトップクラスに強い相手、けど勝つしかない)

幸一がそう構えているとアイヒがメーリングの方にやさしく手を置き語りかける。

「ということです。おそらく今まで戦ってきた雑魚どもより強いでしょう。手加減はいりませんよ」

「大丈夫です、それは彼がここに来た時から理解しています。絶対に彼の首を取って帰ってきます」

そんな会話を交えメーリングがリングに上がる。そして周囲がざわめくなか二人はじっと見つめあう。

「メーリング、だっけ。サラと何があったの?」


幸一の問いかけにメーリングは沈黙し何も答えない。それどころか表情すら変えない。
サラとルチアは心配そうな表情で幸一を見つめる。

四角いリングの対角線上に二人が対峙し、中央にはスーツを着たレフェリーの人物。

「意識がなくなったと判定、もしくは降参を宣言と勝敗がつきます。よろしいですね?」

レフェリーの質問に何も言わずに二人は首を縦に振る。

(どんな力を持っているかわからない。けど行くしかない!!)


そしてレフェリーが「スタート」と叫び運命の試合が始まる。






二人は一気に間合いを詰める。
まずメーリングが攻撃を仕掛ける。剣に魔力を込めて剣を振り下ろす。
幸一は剣を振り上げてその攻撃を受け、感じる。

(えっ? なんだこれ──)


幸一を驚かせたのはその圧倒的なパワー。
あまりの衝撃に腕の感覚がなくなる。圧倒的ともいえる規格外のパワー。

そしてそのパワーでメーリングは流れるように攻撃を連打。幸一はその圧倒的なパワーに防戦一方になるものの有効打をまったく許さない。

「勇者さん、メーリングの攻撃、余裕で対応しているっすね」

「まあ、ああいうタイプとはよく戦っているから──」

感心するルチア、サラは全く驚かない。

いつも幸一といたサラなら知っている。彼の隣にはいつもイレーナという最強クラスのパワーを持つ少女がいる。
トレーニングもよくやっていて、こういったパワー系への対処方法だってある。


(大丈夫、技術自体は特別強いわけじゃない)

そしてチャンスはやってくる。
メーリングは一気に幸一にめがけて踏み込んでくる。幸一はその攻撃を円を描くように攻撃を受け流す。

(チャンスッス!!)

それを見たルチアは思わずこぶしを強く握る。前がかりになったメーリングに対するカウンター、彼女は無防備。

幸一もこれを好機と考えメーリングの懐に飛び込む。そして剣に強く魔力を込め一気に薙ぎ払う。

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