【完結済】突然異世界に召喚された俺、とりあえず勇者になってみますね

静内 燕

第150話 サラの幼馴染、スパイ少女ルチア

そして一番奥の部屋をノックして入る。
豪華な家具や飾りものに彩られた部屋。その椅子に目的の人物は存在した。

「おお、勇者様とミサラ様ですか。ユダ様からお聞きになりましたぞ」

白髪に白いひげを蓄え整った顔つき、壮年で落ち着いた態度。白を基調とした神秘的な模様をした祭服、頭には宝冠を着用。
現法王を授かっているベクネディトである。

「えっ? 法王様ユダさんと会ったんですか?」

「ええ、この大聖堂には天使と交信をする特別な力があります。まあ、特別な力が必要で数年に一回という限られた頻度ですが」

ユダと会ったという言葉にシスターが驚いてはっとして驚く。
しかし今の法王の言葉の通りこの教会は天使達を奉っている教会だ。

実はユダは幸一達が移動をしている間秘密裏に動いていた。
そして教会の人間にひそかに連絡を取り二人をかくまうようにと連絡し、それを幸一達にも伝えていたのである。

「お願いいたします、わが国の中で魔王軍に内通している」

「わかりました」

一通りのあいさつを終えると礼をして二人とシスターがこの場を去る。

そしてシスターの先導で移動を始める。少し歩くと応接室のようなところに案内される。

「ここでお待ち下さい、あなたたちに会いたいと言う人がおりますのでその方を紹介いたします」

「──わかりました」



二人はその人物の事が気になりながらもその場所にあるソファーに腰を下ろす。
そしてシスターの人がドアを開けてこの部屋から出ていく。


応接室に二人になった幸一とサラ、会いたい人というのは誰だろうか、どんな人物だろうか気になり会話を交える。
そんな事をして三分ほど時間が経つ、すると。

つんつん──。

誰かがサラの肩を優しくたたく。サラがその感触に気づいて後ろを向く。

「サラちゃん。お久しぶりっす、私の事覚えてるっすか~~」

「私の事?? ああっ、ルーちゃん」

しゃべったのは黒髪のセミロング、サラと同じくらいの身長で片目が髪にかかっているのが特徴的な少女。
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その少女はサラが自分の名を言った瞬間喜びでピョンピョン飛び跳ねる。そして早足でこっちに駆け寄ってくる。
幸一は何が起こったかわからず二人に視線をキョロキョロと送る。

「あー、こ、ウェルナー、この人はね私の幼馴染で友達なんだ。ルチアっていうの」

「私ルチアって言います。あなたが勇者の幸一さんっすね?」

「まあ、そうですけど」

そして初めての出会いで二人が頭を下げ自己紹介を始めた。

「お世話になると思うっす。よろしくっす」

「こちらこそよろしくお願いいたします。ウェルナーって呼んでください」



するとルチアは幸一の右肩に急接近。ニヤリといたずらをするような笑みを浮かべ言う。

「というのは建前で~~、実は結婚相手を紹介しに来たんじゃないっすか~~、隣の勇者が旦那さんでしょ?? もしかしてすでに結婚してて新婚旅行っすか?」


サラは顔を真っ赤にする。そして右手をぶんぶん振り感情的になりながら反論する。

「ち、違うからね?? 別にそういう事じゃないよ。変にからかわないでよ!! こ、幸君も何か言って!!」

「あ、あの。違いますからね……」

幸一も慌てて否定。そして三人とも椅子に腰を下ろし話しの本題に入り始める。

まずルチアはこの国の対立構造について説明を始める。

「まずこの国は歴史的に私たち天使を信仰していたっす。この教会はその総本山なんっすよ」

相槌を打ちながら幸一はルチアの話しを聞く。
それはここに向かう途中読んだこの国の資料で知っていた。

「そしてその事が政府で問題なっているっす。簡単に言うと政府の人より権威があって冒険者や住民が政府より教会の方の言う事を聞いてしまうんっす」

「ああ、それだと何かあった時に冒険者達が政府に味方しなくなってしまう。それがまずいという事だよね、ルチアちゃん」

「ええ、ですから教会から権力を独立させておきたい政府と政府に権力が集中させるのを避けたい教会で対立構造があるんっすよ」

サラも文官としてこの国の現状や対立構造を事前に知っていた。
ここでも国の中で対立構造がある、その中で問題が生きていると事前に予測していた。

「ええ、そしてね。とんでもないうわさも耳にしてしまいまして~~」

「なにがあったの?」

幸一が気になり質問するとルチアはくるりと身体を一回転させる。そしてほほ笑みを見せながら答えた。

「とりあえずここでいろいろ説明するより見た方が早いと思うっす。ちょっと案内したいところがあるっす。時間があるならこれからそこに行ってみたいけどいいっすか?」

ルチアの質問に二人は見つめ合いながらどうするか少しの間考える。そして幸一がルチアに言葉を返す。

「では連れて行ってください。私はここに来るの初めてでよく知りませんし──」

「そうっすか、じゃあ準備しますのでちょっと待ってくださいっす」

そう言ってルチアは奥の部屋へ行った。そして15分ほどすると手提げバッグを持ち私服姿で戻ってきた。

「これで準備OKっす。では行きますよ~~」

そう笑顔を浮かべながらルチアがこの場所を出る。それについていくように幸一とサラもこの場を後にする。

緑のワンピース姿、普段の気さくな印象だけでなくキュートさも合わさりとてもかわいらしい姿だった。

港から幸一とサラが海に視線を送る。
海から来る優しい潮風。照りつける太陽の光、地平線まで続く海。

南国ともいえる温暖な土地アストラ帝国首都ビロシュベキ・グラードの最大の特徴でもあった。

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