【完結済】突然異世界に召喚された俺、とりあえず勇者になってみますね

静内 燕

第139話 信じてる。頼むよ

「何だァテメェラ──、ここは貴様のようなボンクラが来るところじゃねェんだぞォ」

「フン、まだ俺達の実力を貴様は知らないはずだ。その油断と甘さが貴様の命取りになるとも知らずにな」

「二人とも、今も組んでいたのか……」


「はい、私ルーデルさんについていかせていただいています。とても学びになりますしまだまだ足を引っ張ってしまう時もありますけど──」

幸一は自分と会った後の二人について噂は耳にしていた。シスカは彼を慕い一緒に行動していたのだった。


ルーデルとシスカは幸一達が様々な活動を行っている中、目立たないところで魔王軍についての捜査や地方で魔王軍と戦いなどを行ったりしていたと聞いている。
噂によると地方で魔獣たちと戦っていてそれなりの成果を上げていたらしい。

しかし二人は元々いがみ合っていた事もあり彼女がここまでルーデルを慕っているとは思っていなかった。
「貴様たちは己の目的に盲目になりて気を作り過ぎた。その酬いを受ける時が来た」

「どういう事ですか? 言いたいことがあったらはっきりと言ったらどうです?」

トマスの言葉にも二人は動じずに睨みを聞かせながら言葉を返していく。

「貴様たちに恨みを持っているのはこいつらだけではないということだ」

「わかっていますか? あなたたちがどれだけの人を傷つけていたか? あなたたちの好き放題になんかさせません」


シスカも怯えながらも強気な口調でフィリポ達に向かって叫ぶ。恐らく今までルーデルと戦って来た事でこの程度のことでは動じなくなったのだろう。俺が初めて出会った時よりどこか強くなっていると感じた。


「何? あなたは今まで道端に落ちている石ころを数えているっていうの?」

フィリポはシスカの言葉に何のためらいもなくやれやれと答える。
シスカはそれでも彼女をギッと睨みつける。

「たとえあなたから見たら石ころにしか見えなくても。私たちは最後まで戦います。そして石ころとしか見ていなかった事を必ず後悔させます」

その挑発ともいえる言動に幸一は驚き言葉を失う。彼が知っていたシスカは兎を殺すのもためらうくらい気弱な性格であった。

「なるほど、シスカ……、強くなったんだな」

そうぼそりとつぶやく幸一にルーデルが腕を組み始め話しかける。

「そうだ、こいつはの成長は驚くばかりだ。昔のシスカだと思い込んでいたら確実に痛い目に会う」

お墨付きを与えるルーデル。
ルーデルは動物を狩るのに躊躇していたシスカを最初は毛嫌いしていたが行動するうちに強くなりシスカを認めるようになっていったのだった。

「俺達も協力させろ。貴様がいくら実力があろうとも二つの戦場で同時に戦う事は出来ない。お前の戦友はお前がやれ、眼前にいる忌々しい化け物は──、俺達が片付ける」

幸一は彼の言葉に首を縦に振る。彼の目を見れば明らかに理解できた、彼の決心の強さ、魔王軍への怒りの強さ、殺意が──。そしてもう一人戦う事に手を上げる人物がいた。

「幸君、私も戦う!!」

イレーナだった。彼女はフィリポ達に不意をつかれ幸一のピンチの間意識を失っていた。その悔しさに握りこぶしをしながら覚悟を決めた。


「私たちはあなたたち人類に自分から手出しは出来ません。だからここでお別れですわね」

「そうだなァ。今回はここまでにしておいてやるよォ」


「おい待て、こんなことをしておいて逃げるのか!!」


ピッ──。

フィリポが幸一の言葉を無視して指をはじく。すると──。


シュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ──。


二人の天使は蒸発するように消滅していった。悔しがり歯ぎしりをするイレーナとルーデル。

「じゃあ、私もこの場を去るとするわ。またどこかで会いましょう……」

「待て、逃げる気か!!」

一瞬だけこの場に閃光が走り幸一達が目をつぶってしまう。そして次の瞬間に幸一達が目を開けると──。


「くっ、すでにいないか──」

グロリアはすでにいなかった。そして残された四人に青葉が話しかける。

「残念ね、じゃあ戦う覚悟は出来たかしら?」


「ああ青葉、俺は絶対にお前に勝つ!!」

青葉の挑発じみた言葉に幸一が強気な態度で返す。
唯一心配なのは外にいる魔獣たちの事だが──。

「あの大型魔獣は俺達が相手をする。一般冒険者にはそのほかの普通の魔獣と戦わせる。これでだいじょうぶだろう」


「わかった。イレーナ、シスカ、ルーデル、信じてる。頼むよ」

ルーデルの言葉に幸一が即答。これで心置きなく青葉との決戦に集中できる事となった。
そんな幸一にイレーナが勇気づけるように話しかける。


「頑張って幸君。私、応援してるからね!」

イレーナは理解していた。今までずっと戦って来た友と戦う事は、どんな強大な敵と戦うよりも覚悟がいる事だろうと。

彼女にはその経験はない、しかし想像は出来る。今の彼がどれだけつらいか──。言葉足らずだったかもしれないがこれが精いっぱいの言葉だった。

そして青葉は幸一を指差し──。

「じゃあ幸君。私と戦うために素晴らしい戦場へ連れて行ってあげるわ。」

そう宣言するとその指が光り出し、光は幸一の所に向かって進む。そして光が幸一を包み込み始め──。


シュウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ──。

二人の姿が消えるように消滅していった。


「これで脅威の一つは消えた。奴の実力を信じるしかあるまい」

そしてルーデル達は巨大魔獣と相対する。

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