【完結済】突然異世界に召喚された俺、とりあえず勇者になってみますね

静内 燕

第117話 アリーツェ私、本当にごめん……

イレーナが自身の体に魔力を込める、するとそれに反応したかのように壁画に強力な魔力がともり始める。


グォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!

大きな叫び声とともに壁画が光り始める。それはさっきよりはるかに強い光。そしてその強い光の理由がイレーナには理解できた。

グォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!

その光がイレーナに向っていき、彼女を包み込む。光が包みこんだ瞬間、イレーナは感じ始める。龍が自分に強く反応していると。レイカを救いたいと言う想いに──。

脳裏に一つの術式が浮かび始める

イレーナが龍の強い力に答えようとする。それはレイカを救うために力だと本能で感じる。

(私の想いと、反応してる。お願い、レイカを救うために、答えて!!)


その想い、懸け橋となって響かせよ。

「ラポール・オブ・スターライト・ハート」



シュァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!

精一杯の力での詠唱。イレーナの体が強く光り出す。



イレーナの叫びそれに反応するようにレイカの体から紫色の縞模様が蒸発するように消えていく……


「な、何ィィィィィィィ」

驚愕するレイカに向かってイレーナが叫ぶ。彼女の心の底に届くように。

「レイカ、思い出して。私やアリーツェの事心の底でわかっているでしょう……。あいつとどっちを大切にすべきか」

「うっ、うっ、うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

レイカは発狂したように叫び、頭を抱えながらパニックになる。
ペドロが与えたイレーナたちへの負の感情、そして初語龍が与えるそれを打ち消し本来の感情をとり戻る力。それが頭の中でぐるぐると渦を巻いている。

「神を裏切った、イレーナとその家族を、殺せぇぇぇぇぇ」



「敵であるお前が、私の何がわかるうぅぅぅう。全てを失った私の何が分かる!!!!」


レイカは傷だらけの手で頭を抱えながら必死に叫ぶ。


イレーナは彼女の姿を見てさらに訴えかけるように叫ぶ。

イレーナの問いにレイカは発狂して叫ぶ。頭の中が大混乱しぐちゃぐちゃになる。


「グワ……、グァァァァァァァ」

レイカが本来持っていたイレーナへの想いとみんなのために戦いたいと言う誓い。それとペドロによって植えつけられたイレーナへの憎しみ破壊への衝動。

そう反する要求に頭の中がごちゃごちゃになりどうすれば分からなくなって頭を抱えかがみこみただ叫ぶ。

「しかたない、戦うしかない──か」

それを見た幸一。
レイカを信じるしかない。しかしこちらも何もせず手をこまねいているわけにはいかない。
幸一はすぐにペドロへの間合いを詰めていく。
イレーナとともに──。


「行くよイレーナ」

「うん」

スッ──。


イレーナが左から、幸一が右から一気に接近する。しかしペドロは動じない。

(常に最悪の状況を想定して行動する。私は常にそうして生きてきた)



二人はペドロに同時に攻撃を仕掛けるが──。


(そんな攻撃、効かないよ!!)

その攻撃はあっさり対応される。二人でバラバラに対応してもダメだと感じた二人は一端後方に下がる。




願いをとどかせし力、逆縁を乗り越え、踏み越えし力現出せよ

バーニング・ブレイブ・ネレイデス






ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!

幸一が術式を発動させ周囲から青い炎が強く吹きあがる。
その炎が素早い速度で進んでいき上下左右からペドロに襲い掛かる。


(その程度、今の私にはお遊戯だよ!!)

ズバァァァァァァァァァァァァ!!

無数に向ってくる白い炎をペドロは容易く薙ぎ払う。
しかしイレーナはそのスキに一気に接近していた。

自身の剣を構えたまま幸一の攻撃をギリギリで駆け抜け寸前で飛び上がる。

「危ないねぇ──」

ペドロはイレーナの攻撃を容易く受け止める。剣同士が激しくぶつかり合い火花が飛び散る。
イレーナはそのままひるむことなく攻撃を続行。攻撃を連続で見舞う。とっさに身体を入れ替えるようにペドロが体勢を変える。

そして背後に回ってイレーナに上から切りかかる。
イレーナは背後に飛んで間一髪でそれをかわす。その瞬間。

ドォォォォォォォォォォォォォォォォン!!



幸一の攻撃がペドロに直撃。 瞬時に体勢を変え直撃を防ぐ。


レナが思い出したのは冬至の日に聞いた一つの言葉。

「人々が文明を 時には神を忘れることもあるでしょう。しかしどんな時も忘れてはいけません、慈悲の精神も、寛容なる心も──」

涙が溢れ出して止まらない。

「アリーツェ私、本当にごめん……」

本心の片隅では理解していた。
いつも過激派からは政府の犬とののしられ、政府の前では過激派に忖度する犯罪者と怒鳴られ板挟みになり頭を抱え苦しんでいるアリーツェの姿。
どうして自らを否定するものに慈悲を与えるのか。


傍らで彼女は疑問を呈していた。
優しさを弱さだとしかとらえない奴らには彼女の慈悲の精神を決して理解することは無いだろう。

全く意味のない行為。


しかしそれでもアリーツェがその心を持った理由、それが理解出来た気がした。アリーツェが優しい心を捨ててしまったら、そうすれば一般人を巻き込みかねない悲惨な戦いになりかねない。誰かがこの悲しみの連鎖を止めなければならない。

汚名を言われながらそれを行うことは剣を取ることよりも勇気がいるだろう。


今の自分がそうだった。命を省みず怒りのままに周囲を巻き込み本来味方だった幸一とイレーナまで気づつけている。

そして心の中で囁く。


「アリーツェ……、私何もわかってなかった。本当にごめんなさい──」

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