【完結済】突然異世界に召喚された俺、とりあえず勇者になってみますね

静内 燕

第75話 現実

夜、同じテントで幸一とニウレレが語り合う。

元々ニウレレは貴族達の専属シェフであった。
育ちが良くなくいい加減な性格だったが料理の腕を買われて高級貴族達をうならせる料理を作り続けていた。

しかし腐敗した貴族達は豪遊にふける一方国民、特に亜人達の生活を顧みず貧しい貧困層を放置していた。そしてゴブリン達の一部がクーデターを行い長年の内戦の結果貴族達を追放。

ニウレレは処刑をまぬがれた物の貴族達の犬「クラウン・トム」と呼ばれ政府の職から追放。


仕事を探そうにも長年の内戦で国土は荒れ果ててしまいまともな仕事など無く、浮浪者となり街をうろついていた。

何とか親戚のコネでこの仕事についたものの元々客商売に向いた性格ではなく、よくこんな感じで冒険者たちともめ事を起こしている

「面倒見がよくて根は悪い人じゃないんですけどねぇ~~。ぶっきらぼうと言うか……」

青葉と側近の部下がつぶやく。
幸一は考えた、確かに彼には手を焼いたり困ったところもあった。しかし彼自身もつらい経験もして何とかここにいると。どこかで腹を割って話して打ち解けることができればと──。

そんな想いをしながら夜を過ごす。そして再び旅路が始まる。今度はニウレレ達ともいろいろ話しあい楽しく会話をすることもできた。


結局二日ほどの遅れで幸一達はサヴィンビに到着した。


「まあ、あんな奴らが支配しているんだ。こうなるよな……」

「結構荒れ果てているよね」

馬車から幸一達はサヴィンビの街並みを見てみる。イレーナも一応王女様という立場から見ていて悲しい気分になる。
王都の比べるとどこか貧しい感じで殺風景な印象だ。
長年の内乱とクーデターのせいか建物が所々倒壊していたりひびが入ったりしている。

裏通りに入っていくとスラム街がありそこには貧困で苦しんでいる人々がたむろしていた。
中には両親を失ってストリートチルドレンとなっている子供もちらほらと見かける。

「悲しいけれどこれが現実です。中央の権力が届かないところでは圧政や内乱の傷が癒えていないんです──。私の故郷のように……」

サラが悲しげにつぶやく。サラの故郷もかつては内乱があり国民たちは貧困にあえぎ苦しんでいた。今のこの街を見るとサラはそれを思い出す。もっとも今は違う理由でサラの国は苦しみ彼女自身も国外追放処分になったのだが──。

中央の大通りでニウレレの部下が馬車をとめ幸一達がゆっくりと荷物を下ろす。

「それではここまで私たちを案内してくれてありがとうございます」

イレーナがニウレレ達にぺこりと頭を下げる。

「じゃあ俺達の役割はここまでなんで、それではさようなら。また会いましょう」

ニウレレと幸一が握手をして別れを告げる。
一悶着はあったが彼には彼なりの事情があったのでどこか憎めない幸一ではあった。

(でももう彼と旅はしたくはないわね……)

青葉が心に決める、次は案内人は確認しようと──。
ニウレレ達が去ると幸一達も行動を始める。まずは街がどのような状態になっているかを調べるために街の散策に出る。

「治安は……、あまりよくなさそうね」

「はい」

サラと青葉が街を見て囁く。戦いがあった傷跡が色濃く残りさびれていてボロボロの街。どこか荒れているように感じた。

「ねえ、見てあれ!!」

イレーナが前方の道を見て何かに気づく、全員がその方向に視線を向ける。


そこには軍服を兵隊のゴブリンが複数いて一人の女性を取り囲んでいる。

軍服を着たゴブリンに対して、女性はやめて下さいと叫び逃げようとしたがオークがその女性の裾をつかむ。そのまま人気のいない所へ連れ去ろうとする。

(いくよ)

(うん)

アイコンタクトでイレーナと幸一がその場へ向かっていく。

「いひひ、おじちゃん達と楽しい事しようぜ~~」

裏路地の入口でニヤニヤと笑いながらぐへへと女性に詰め寄るゴブリン、女性は恐怖に満ちた顔をしている。そして──。

「 や め な い か 」

軍人に拳に魔力を込めて腹パン、軍人はその場にうなだれて倒れる。

「何しやがるんだこの野郎!!」

残りのゴブリンの軍人たちが幸一に突っかかってくる。しかし──。

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ」

イレーナと幸一の敵ではなかった。一瞬でゴブリンたちを片付ける。

「あ、ありがとうございます」

女性は怯えながら頭を下げる。茶髪できくらげのような髪型をしていた。
名前をキャロルと名乗る、彼女は普段は病院で看護師をしているらしく、病院に移動する途中に襲われたのだとか。



「は~~あ、これがこの街の現実なのね──」

ため息交じりで青葉が言葉を漏らす。

「やはり資料通りですね、これがこの街の現実なんです」

サラはこの国の現状について情報を把握していた。そしてその現実を話し始める。


かつてはこのゴブリン達は圧政を敷いていた歴史的な貴族達に対して国民たちのために挙兵し抵抗運動を行った。

抵抗運動は国民たちの支持を得たゴブリン達は抵抗運動をさらに激化させていく。

そしてそこにいた昔からの貴族達を追放し自分たちが政権を握り軍事政権となった。
しかし敵を失ったゴブリン達は今度は内輪もめを始め内乱に陥ってしまう。

おまけに亜人達の解放を掲げ政府の様々な要職やから追放した結果国家機能が崩壊、地方の大規模農場の農家からも人間を追放したおかげで農村は崩壊し飢餓と貧困がこの地方に蔓延。

後からわかったのだがクーデターの本音は自分たちが独占していた資源や利権の奪還であり解放というのはただの一般人を味方につけるだけの言葉であったという事であった。

決して貧しい人たちのためではない、自分たちの利益のために適当な大義を掲げて戦い
これが現実であった。

「まあ、考えてみれば誰だってそうよね。利益なしに人は動かないもの」

青葉の言葉を幸一は否定しなかった。高潔な理想だけでは人はついていかない。特に生きていくための精一杯な状態ではたとえ悪であるとわかっていても自分が生きていくにはそういった道に走るしかない。そしてその歪が貧困を作り出す。負のスパイラルであった。

するとキャロルが幸一に話しかける。

          

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