【完結済】突然異世界に召喚された俺、とりあえず勇者になってみますね

静内 燕

第63話 青い板きれが、歌う?

とある日の平日。一般人が暮らしている市街地の広場。
その中に一人の少女がいた。

「今日は無いみたいね──、面白い情報」

明るく陽気な口調、青い肩までかかったセミロングの髪の毛に水色のリボン、クリーム色の帽子をかぶった少女、宗谷青葉であった。

今日は一人で何か異常がないか町を巡回していたのであった。事件のない平和な日常、そう考え青葉が安堵していると何やらきな臭い香りがし始めた。

「何あれ?」

青葉が右に視線を移す、そこにはなにやら人だかりがあり誰かが叫んでいた。

その内容に青葉は驚いて食い入るように聞き始める。

「青い板きれがさぁ、歌うんだよ!!」

驚愕した表情で訴える市民。しかし周りは誰ひとり真剣に聞かず信じようとしない。
「板きれが歌うわけがないだろ、お前頭の中どんだけファンタジーなんだよ」

「青い板きれが歌うわけないだろ!!」

「青い板きれは歌いません!!」

「あり得ないあり得ない!!」

嘲笑する周囲、当然と言えば当然だが周りは誰ひとり信じようとしない。というか真剣に聞いてさえいない。



「裏通りを歩いていたら、誰かが歌うような声がしたんだよ」

「その女の人がいてさぁ、俺は最初その人が歌っていると思ってたんだよ。でもよく見るとその人は口を動かしてとても歌っているようには見えなかったんだ。それでよく耳を澄まして聴いてみてさぁ──。そしたらその人が左手に片手サイズいてそこから歌声が聞こえたんだよ」

相槌を打ちながら真剣に青葉は話しを聞く。

「話を続けて」

「いや、話はそれまでなんだ。関わったら俺もなんか言われるんじゃないかって感じ始めて俺はこの場を去った」

「そう、分かったわ。じゃあお願いがあるの、その場所を案内してくれないかしら」


「ああ……、わかったよ。だが俺は深くは関わらないぞ。巻き込まれるのはごめんだからな」

その男が念を押す。青葉は腕を組んで了承する。

「わかったわ、何かあったら私が守る。あんたに危害は加えさせないわ」

そういうとその男性はようやく首を縦に振る。そして彼が道を案内し始める。



青葉が周囲をキョロキョロとしているとヘッカーが青葉の肩をたたく。青葉がそれに反応するとヘッカーは前を指差し彼女の耳元で囁く。

「あいつだ、あいつだよ。青い板きれを持っていたのは」

ヘッカーが指を差した先には長身痩躯、茶髪でカールのかかった髪型の妙齢の女性だった。その人を見て囁く。

「あれ? あの人知ってるわ──」

青葉は思い出す、彼女は政府の官僚の一人で財務などの事に関わっている女性レスだった。
そしてその人物に察知されないように慎重に街の中を尾行する二人。

尾行する事15分程。彼女は大きな道をそれて小汚く狭い裏道沿いに道を変え五分ほど歩く。そして小さな家の前で立ち止まりドアを開け中に入る。

尾行していた青葉は小屋の横に入る、そして窓から相手にばれないようにそっと中を見る。

(ここみたいね)

中は応接になっていて机にはレス、そしてもう一人黒服にサングラスの男性がそこにいて二人でなにかの会談をしている。男性は恐らくはどこかの系列のマフィアだろう。

(またなの……)

その事実に思わずため息をつき、腰に手を当てながら呆れ始める

(また政治家とマフィア、この前と一緒ね──)

もうこれはお国柄というものかもしれない
青葉の世界でもそういう文化を持つ国は存在した。大統領とマフィアが密接に関係しているイタリアなどである。

先日もライトエンジェル事件でそういうことは確認されたが、またしてもという事実に青葉は気落ちしてしまう。

「あなたもういいわ、あとは私に任せて。ありがとうね、力になってくれて」

「ああ、でも大丈夫かい? あんな奴ら一人で相手に出来るのかい嬢ちゃん?」

元々面倒事に巻き込まれたくないヘッカーだったがマフィアがかかわることに一人で手を突っ込むことに心配になったのである。


腕を組み、ニヤリと自信たっぷりの笑みを浮かべ口元で囁く。

「大丈夫よ、 #こういうことは慣れているもの__ルビ__#」

青葉にとっては特に問題はなかった。彼女はもともと秘密裏に潜入を繰り返しては裏社会と戦いを繰り返していたのでここからは流れ作業のようなもので特に問題などなかった。

それをヘッカーにも説明する。すると──。

「ああ~~、嬢ちゃんそういう商業だったんか。じゃあ頼むよ。ありがとうな!!」

そう言ってヘッカーがこの場を去っていく。



夜、居酒屋でレスはとある人物と出会う。
ギラギラした目つきで長身痩躯の男性、フィッケルであった。

フィッケルとレスが酒を飲みながら話を進めていく。

「いやあ、しかしこの国に使える身でありながら魔王軍と手を組むなんて、俺達も悪だなぇ」

フィッケルの酒を飲みながら発した言葉。
しかしその言葉に対して罪悪感や罪に対する意識は何もなかった。
彼らにとって不正を行い罪を犯すことは悪いことは何でもなかった。

自分が事をなし得るために悪事を行う。この世界では誰もが平然とそれを行っている。
結局はうまく悪をなし得た物が勝つ。綺麗ごとを抜かす奴らにその現実を突き付けてやるのがたまらなく快感だ。
所詮世の中とはそんなものだ。小ずるく、相手を利用し欺いた者が最後には勝つ。


汚職や腐敗まみれの国家機関で生きてきた彼らにとっては高潔な精神など銅貨一枚の勝ちすらなかった。

どんな事をしてでも勝つ、手段は選ばない。たとえそれが人道にも、法律にも反することであっても──。

それが彼らの哲学だった。酒がすすみ、酔いが回って来たらしく二人は勝ち誇ったような態度で話し始める。

「しかし大丈夫かねぇ。今の政府が負けたらって考えるとねぇ」

「気にすんなよ、俺達にとっては別に魔王軍と今の政府どっちが勝ったっていいんだ。俺達は魔王軍がこの世界を手に入れたら協力してくれたお礼に人間達を支配する権利をくれるんだ──」

「そうだねぇ~~」


そんな事を考えながらフィッケルが作戦は成功したと考えこんでいると背後から誰かの声が聞こえた。


「ちょっと甘いんじゃな~~い、後ろに誰がいるかも分からないのに自分の機密情報をべらべらとしゃべっちゃうなんてさ~~」

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