【完結済】突然異世界に召喚された俺、とりあえず勇者になってみますね

静内 燕

第36話 幸一は女の子たちにしゃせいについて教えるようです

「いい天気だ……」

やや暖かく乾いた空気。
道の中で幸一がそうつぶやいた。


空には朝焼けの太陽が輝いていて雲ひとつない晴天の空が広がっている。
窓からその太陽をイレーナは眺める。

すると朝食が届いてサンドイッチと紅茶、サラダを口にしながら話を開始する。

「もうあんな疑惑起こさないでね」

皮肉を言いながらジト目で言葉を放つ。あの疑惑とは先日のセクハラ疑惑である。リーラの罠によって危うく幸一は社会的に抹殺されるところであった。

「わかったよ、今度からは気をつけるよ」

「とりあえずサラに会いに行くか……」

幸一はまずサラに会いに行くことにした。そしてサラとイレーナの三人になった後、一行は宮殿の入口の近くにある庭園にたどり着く。

今日は別の意味で疲れそうな仕事だけあって前日はギルドで薬草集めという勇者にしてはランクの低い仕事をして案内人からも驚かれていた。
その後イレーナと軽く汗を流すトレーニングをした後この世界の資料を読んだりして約束の時間までを過ごしていた。




昼前、約束の時間となる。

国王の宮殿だけあって中にある庭園の庭はそれなりに広くて豪華な作りになっている。
中央には噴水があり、その周りに規則正しく木や花壇が植えられていた。

花壇にはカーネーションやチューリップなどの花が規則的に植えられていて幾何学的かつ左右対称で秩序ある造形であり、西欧庭園に近いものがあった。

「幸一さん、おはようございます」

そこにはたくさんの学生の少女たちがいた。

そう、今日は彼女たちに写生(しゃせい)について教える日でもあった。

事の発端は昨日マグブライドの部屋に行った時のこと。
親友だったラミスのまさかの裏切り、精神的にダメージを受けていないか少し気にしていた。

彼女はラミスの裏切りにより、サラは幸一がイレーナと住むようになったため双方一人になってしまいその結果二人がルームメイトとして暮らすことが決まっていた。
マグブライドのルームメイトにはサラが選ばれた。



幸一がドアをノックして開けるとマグブライドがそこにいる。マスカット色をしてウサギの絵が書いてあったパジャマ姿でどこかファンシーな雰囲気を醸し出していた。

サラもまだ少し寝ぼけているようでその姿を見られたのが少し恥ずかしいらしくほんのりとほほを赤らめている。



二人の姿を見て少し戸惑ってしまう。
とくにマクブライドは日頃の男性っぽい口調で凛とした彼女とそのギャップに少し驚く。

「うぅぅ、私の寝起きを襲おうとしたとは……、大胆というか、君は野獣の類かなんかかね?」

彼女はかがんで上目づかいをしながら胸を寄せてセクシーなポーズをとる。その姿に思わずドキッとし動揺してしまう。

「ち、違いますよ。確かにドキッとはしましたけど──」

幸一が手をあわあわと振って否定する。

「まあ、私もそれなりに女の子として見られているということか、少し安心したよ」


「幸君おはよう~~」



目をこすりながらサラが話しかける、サラも眠そうな表情と所々寝癖が立っていていつもとは違う可愛さがあった。

(とりあえず、聞いてみないと──)

幸一はマクブライドに聞いてみた、ラミスの裏切りの件について。ずっと自分が友だと思っていた彼女が実は裏切り者のスパイだったことに落ち込んでいないか気にかけていた。

するとマクブライドはため息をして冷静になり言葉を返す。

「たしかに気にしていないと言えばうそになる、でも心配しなくてもいいよ」

落ち込んではいたが彼女にも冒険者や兵士たちのトップとしてなすべきことは多々ありこんなことで立ち止まって入られなかった。

彼女は芯の強い人間でこの程度の事なら影響は無い、といった様子で幸一は安堵する。

「これからも何かあった時は私たちに任せてください」

「うんうん」

イレーナとサラも同調するように声をかける。

「こちらこそ、何か困ったことがあれば相談に乗るよ」

視線をそらしもじもじとして赤面しながら言葉を続ける。

「ただあんまり過激な命令はやめてくれよ、私はこう見えてもあまり男性とお付き合いなどしていないしその先の事なんて全く」

「しねえよ……」

彼女から聞こえるいつもの冗談交じりの言葉。

ため息をつきながら幸一が突っ込む。どうやら精神的な落ち込みはそこまでではないようでほっとした。

「ああ、そうだ、そう言えば君に話があるんだけどいいかな」

マクブライドがオホンと咳をして話しの話題を変え話しかける。

「前回の幸君との課外授業、好評だったよ。生徒のみんながもう一回君と講義を受けたいってリクエストが来ていたよ」

「ええっ? そうなの?」

驚く幸一。前回、幸一達は女子校の課外学習で狩猟について参加し行動をした。結果は全員と接することは出来なかったものの好評でまた違うクラスでもやってほしいということだった。

「ううん、でも大丈夫かな?」

その言葉に幸一は腕を組んで心配をしだす。するとイレーナがその理由を聞き出す。

「何か心配でもあるの?」

「前回は志願制でセクハラ問題の真っただ中でもありそこまで人数が多くなかったから
実質俺だけでも見きれた。でも人数が多いとどうしても目が届きにくい場所が出てくる。中ならまだしも動物なんかが出てくるだとイレーナとサラがいないと全部見切れないぞ」

彼の懸念は安全面だった、流石に大人数で以前のように外へ行けば全員を見きれなくなり安全が保証できないというものであった。

「その心配なら気にしなくていい、今度は屋外では行わないし危険なことも行わない」

マグブライドの説明によると次は宮殿の庭園で行うらしくその心配はないようであった。

授業は明後日の予定で幸一がダメなら他の講師を当てると説明する、すると今度は幸一が一つの疑問を投げかける。

「普通講師って資格とかが必要なんじゃないの?」

「本来ならそうです、講師の資格が必要です。しかし臨時講師として特別に上長の許可があれば資格を持っていない人物でも講師として教える立場になることができるという事です」

サラがその質問に答える。幸一は納得しその報酬も結構なものだったので、その仕事を受けることになり今に至ったのである。




そして授業の時間。授業の内容、それは写生の授業への参加であった。

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