第26話　ルーデルの過去

「あ、あの──、その……ありがとうございます」

「気にするな、つまらぬ意地の様なものだ」

シスカはあわあわて動揺が収まらぬまま、頭を下げお礼を言う。幸一もそれに続き彼を見直し始めた。

「何だよ、お前いいとこあるじゃん。さっきは……なんかごめんな」



それから日が暮れ始める。あたりが暗くなり始める中森の中に泊まるのに良さそうな広い場所を見つけた。そこで火をおこし薪に火を付けキャンプをすることになった。

まずは食事をとる事となり、イレーナが採取してきた薬草とジャッカロープの肉を薄く焼き肉のように切り鉄板に乗せ一緒に焼く。

焼いたものに塩と香辛料で簡単に味付け、そして試食し問題がないのを確認。

「ほら、料理が出来たから食べなよ」

出来上がった肉と薬草を皿に取り、それをまずシスカに渡す。


夕方ごろからお腹の虫を鳴かせていたシスカは目をキラキラと輝かせ、おいしそうに食べ出した。

「はふ、はふ、これおいしい！！」

皆で楽しい宴は弾み、さまざまな会話が宴の中で飛び交った。
彼女達の日常や悩み。生活やプライベートのことなど様々なやりとりを行う。

つかの間の楽しみを少女たちが楽しむ。
そして宴が終わり、星空が浮かぶ。

誰とも距離を取りずっと孤独を貫いてきたルーデルが視線の先にいる。


そして幸一の隣に一人の少女がいた。シスカだ。すると彼女はシスカが真剣なまなざしで立ち上がる、そして──。


「シス……カ？」

シスカがあれほど怯えていたが自らルーデルの所へ向かっていったのだった。彼女だけでなくルーデルのことが気になっている幸一、サラ、イレーナもそこにいた。

そして申し訳なさそうな表情で深々と頭を下げる、そして……。

「先ほどは、私を守っていただいてありがとうございました」

深々と感謝の言葉を叫ぶ。

「勘違いするな、別に貴様を認めたわけなどではない」

ルーデルは星空を見ながら語り始める。

「貴様ら、オリエント地方って知っているか？」

ルーデルの突然の質問に驚愕するサラ。

「え？　ルーデルさんオリエント地方の出身だったんですか？」

「知ってるのか？」

話が分からず右往左往する幸一にサラは自分の知識で解説をした。

「魔王軍との戦いが最も激しい地域です。戦火が激しく国そのものが傾いたり壊滅的な被害を被った地域も多く場合によっては全滅した村すらありました」

イレーナもその村について思い出す。

「あっ！！　それ私も聞いたことある、戦火が激しくって難民が大量に出ているって」

彼の事情を知り幸一は、彼にきつく当たったことに罪悪感を感じ始めた。

「そんな事情があったなんて、なんかごめんな。お前のことも理解できずに当たり散らすようにして……」

ルーデルは表情一つ変えず、腕を組みながら言葉を返す。

「気にするな、赤の他人の事情など誰も知らない。お前の行動は正しかった、その正義感、大事にしろ」

そして彼は失った友を思い出し、天を見上げながら自らの過去を語り始める。

「俺の故郷はそうだった、平和の都と呼ばれ、人類の知識や宝など英知の数々を生み出した。しかし突然魔王軍が襲来し俺の故郷は……戦場と化した」


「部族同士の対立が激しい故郷では協力して対抗することができず次々に仲間や無抵抗な市民が散って行った。そして故郷の村は俺をのぞいて一人残らず皆殺しにされた」

シスカは驚愕の事実に思わず驚き、口をふさぐ。

「そんなことがあったなんて……」

「だから気にするな、そんな事情があったからと言って同情される気はさらさらない。想いがあるのは誰だって一緒だ。泣き言を垂れる理由にはならん……」

そしてシスカをじっと見て彼女に助言。

「シスカと言ったな──」

「は、はい……」


「自分が死にたくなければ、大切なものを守りたければ──強くなれ、それだけだ」

自分の過去と彼女の今を重ね合わせ不器用なりにシスカに声をかける。その言葉にシスカははっと表情を変え再び頭を下げた。

「あ、ありがとうございます。ルーデルさん」

「フッ、礼を言われるようなことをした筋合いはない」

そう言ってルーデルがこの場を去ろうとする。すると彼女がそっと話しかける。

「あの、ルーデル……さん。ちょっといいですか？」


「シスカちゃん、どうしたの？」

そばにいたイレーナが猫なで声で話しかける、するとシスカははっとルーデルに接近し彼の右手を両手で握る、そして懇願し始める。

「私を仲間にしてください！！」

頭を下げるシスカ。驚く周り。それもそうだ、彼はシスカに対しひどい扱いをしていたからであった。

「ちょっと、考え直した方がいいよ！！」

「そうだ、せめて幸君にしたほうがいい。ちょっとエッチでセクハラはされるかもしれないが根はやさしい。どうして彼なんだ？　あんなに厳しくしていたのに──」

「なんか余計なひと言があるような……」

困惑しながら慌てて静止するイレーナとマグブライド。するとシスカがそっと口を開く。

「確かにそうでした。しかしルーデルさんから私は強く感じました。悪に対して戦う強さ、仲間たちを想う気持ちを──。私、強くなりたいんです。家族を支えるために──、みんなのために！！」

叫びながら訴えるその眼は決して嘘偽りではなかった。
その強い目を見て周りは沈黙し、彼女の決意を受け入れる雰囲気になる。

「わかった、だがこれだけは気をつけろ。いつでも貴様を守れるわけではない。いいな？」


ルーデルが真剣な表情で言葉を返すと、シスカはコクリとうなづいて言葉を返す。

「分かりました、よろしくお願いいたします」

頭を下げるその姿。次第に周りもシスカを許容する雰囲気になっていた。

「応援してるぞシスカ」

幸一が手を彼女の肩に置きそっと語りかける。
するとサラがやってくる、帰りの支度が出来たようでこの場を去る準備をしだす。


そしてメンバー達はこの場を後にしていった。