【完結済】突然異世界に召喚された俺、とりあえず勇者になってみますね

静内 燕

第11話 突然の奇襲、そして──

「すごい……」

「あれが炎の唯一王──。イレーナさんが負けちゃったの?」

周りの観客達が明らかにどよめき動揺し出す。当然といえば当然である。この世界に来てわずかしかない人間に、この国でもトップクラスの実力をもちお姫様でもある、イレーナに強烈な攻撃を与えたのだから。
新たなスターの登場かもしれないともささやかれ始めた。


「まだ負けてない!!」

イレーナが立ち上がり、幸一をギッと睨み付けて指差しながら叫ぶ。が、すでにさっきの様な余裕は消えていた。

彼女にとって、これはただのテストマッチではない。自分は王女様ではあったが、養子だったという事情があり、冷遇される状態だった。

自分に残っているのはそんな自分を慕ってくれる人達と、この人並み外れた魔力だけ──。

だからイレーナは人一倍努力をして強くなった。周囲に認めてもらうために。そんな自分が目の前のポッと出の勇者なんかに負けるわけにはいかない。




そ れ は す な わ ち 自 分 の 存 在 を 否 定 す る こ と に つ な が る の だ か ら ──。





そう意気込み再び幸一を睨みつけたその時……。
幸一が上空を指差し叫び始める。

「おい、何だあれ!! 上空!!」

その声に他の冒険者も反応、視線を上空に向ける。
黒い人型の物体がそこにいた。

さらに黒い人型の物体は周りに向かって無差別に攻撃を始めた。
一部の冒険者に攻撃が命中、身体を吹き飛ばされ倒れこむ。

それを見たイレーナが再び戦闘態勢に入り黒い物体に立ち向かっていく。物体はイレーナに敵意を向け向かってくる。

そして両者は間合いを一気に詰め、イレーナが黒い物体をめがけて槍を薙ぎ払う。

(え──?)

物体はイレーナの背後に瞬間移動、そして右手に剣を出現させ攻撃してくる。
イレーナも振り向こうとするが間に合わない。

(仕方ない──)

幸一がすぐに飛び込んでイレーナの背後に回り、黒い物体と相対する形になる。

幸一の胸に攻撃が当たる、幸一は胸が切り裂かれるような強い痛みを感じるとともに、自身の剣を黒い物体に突き刺す。そしてありったけの魔力を剣に込めた。
剣は青い炎を強くまとい、黒い物体は明らかに苦痛の表情を浮かべ悶絶し始める。

「ギィィィィィィィィィィィウェァァァァァァァァァァァァァ」

強くもがき始め何とか剣から脱出──したところを別の黒髪の女性冒険者が捕らえる。

「捕まえたよ」

そしてその冒険者が縄で捕縛しようとした、しかし……。

「え?なにこれ──」

その黒髪の女性冒険者は唖然とする。取り押さえていたはずの黒い物体は、まるで蒸発するように消滅していった。

その姿は幸一やイレーナも目撃。

「どういうこと──?」

イレーナが、見たこともない存在にただ戸惑うばかり。
その瞬間ガクッと幸一が痛みのあまり膝をつく、サラが心配して接近。
痛みが強烈過ぎて立っていれなくなり座り込んだ。

話を聞いて、強い痛みからとりあえず病院に行くことに。




病院についた幸一、イレーナ、サラ。ベッドで幸一が横たわりながら手当てを受けていた。

魔力を体内に補填したこの状態では出血はしない、しかし痛みとしては体に残る。自らの体を貫かれた痛み、それはイレーナも知っている。
悶絶するような強い痛みが幸一を襲い、今もまだその痛みが残っていた。

「幸一、君その……ありがとう」

自分をかばってかわりに痛い思いをした幸一に、言いづらそうにお礼の言葉を贈る。

決闘なんて担架を切った手前彼女は、自分を救ってくれた幸一に、どういう言葉を送ればいいのか分からなかったのだ。

「あ、別にいいよ。勝手にやっただけだし──」



「ほら、私幸一君に敵意ばっかり向けてて恨んでいると思った」




申し訳なさそうな表情でイレーナは話を続ける。今まで自分は彼に敵意を向け続け、棘のある言葉で接し、あまつさえ自分の人気のために利用しようともした。そんな自分を守ってくれた事に罪悪感を抱いていた。その気持ちに対して幸一は作り笑いをしながら言葉を返す。

「大丈夫、気にしないで」

「あ、その……、うん──」


イレーナが顔をほんのりと赤くして言葉を返す、どこか動揺した雰囲気で──。


その後、医師がやってきて薬草を何種類か使い治療を行った。

そして病院での手当てがあらかた終わったので三人は帰ろうとした時、イレーナがとある事実に気付く。

「魔力が元に戻らないの……、これじゃあ戦えなくなっちゃう」

イレーナが深刻な表情をして叫ぶ。イレーナの言葉によると、さっきから回復しているはずの魔力が全く回復していないという事であった。

魔法の回復具合は自分で覚えていていつもなら、一回戦いをしたくらいならもう魔力を回復させているはずなのに全く回復していない──、動揺するイレーナ。

「どうしよう、何があったのかな……」

困惑するイレーナにサラは腕を組んで考える。
通常魔力は何もしなければ回復するはず、もしやと考えまずは自らの魔法を発動した。



偉大なる全知の光、その手に結集し降誕せよ!!
全知なる館アル=ヒクマ



するとサラも両手に大きな本が登場し始める。これがサラの魔法であった。

サラの魔力は「知恵の館」と呼ばれるもので両手に乗っかるくらいの、大きさの本が兵器になっている。

触れた人間の能力や魔力の大きさなどがその本に記述されている力を持っている。イレーナの魔法も幸一の魔法もこの力で把握はしていたが、念のためもう一度本に魔力を込めて二人の魔法を調べた。


「え──? 本当に!!」


その理由を知ったサラは、どこか言いずらそうにもじもじとしながら口を開き始める。

「あの、ちょっとお願いがあります。イレーナと幸君でちょっと手をつないでみてくれますか?」

「手をつなぐって、え?」

仕方ないという気持ちで二人は互いの手をちょこんと触れてみる。すると──。

(あ、何これ──)

「回復、してる? 」

サラの言う通りだった。イレーナの左手に触れた途端、自分の体の奥が満ち足りていくような感覚に包まれ、本能的に自分の魔力が回復している事が理解できた。

「つ、つまりこれは──? 」


「二人は常時手をつないでいないと魔法が使えないということに……なります」

そう、サラの本「知恵の館」にはしっかりと記述されていた。

イレーナ、幸一の双方は互いの手を握ることで自分の魔力を補填できると。
どちらかが命を落とさない限りこの状態は永遠に続く。
つまりこれから二人は手を握らないと、魔法の使用が出来ない状態になってしまったのであった。

サラも困惑するが、すぐに思考を働かせ思い出す。

「普通魔法はその人固有のものであり、突然その魔法が変わるということはあり得ないはずなのです。
でも、聞いたことがあります。ごくまれに何かの因果が変わって、その人物の魔法の力が書き換えられてしまう事があるという事を……」

「まあつまり魔法を使うなら常時イレーナと手を握っていなければいけないってことか──」

ため息をつきながら幸一がそう囁きイレーナを見ると──。

「イレーナ、さん……」

「フリーズ、しちゃいました……」

二人がイレーナを見ると完全に表情が固まっている。あまりのショックにイレーナはフリーズを起こしてしまったのだ、。そして──。

「こ、こ、こ、こ、これは夢だよね、こんなこと、手をつながないと力が使えない事なんか、あ、あ、あるわけないよね!!」

「ゆ、夢ではないです。現実です……」

動揺しながら現実逃避するイレーナにサラが現実に戻す。イレーナは涙目になりながらブンブンと幸一を指差して叫ぶ

「え?え?え~~~~~~?? ずっと、手をつないでいなきゃいけないって!!!!」

「いやああああああああああああああああああああああああああああああ」

頭を抱えて発狂したようにイレーナが叫ぶ。

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