【文香救済編】暴力系幼馴染と異世界に転生したら、幼馴染が魔王軍に裏切るとか言ったから、そのクソみたいな面を思いっきりぶん殴って、別のヒロインと付き合ってみた。

静内 燕

第4話 本当のエピローグ

すぐに俺は文香を背中におぶり、この場を去る。
そして俺たちは街へと戻っていく。自然と早足になる。
文香、頼む、助かってくれよ。




それから、教会に到達。


やってきたのはシェルムさん。

「信一さん。どうしたのですか?」

俺は文香のことを話す。するとシェルムさんが心配そうな表情になり始めた。

「そうですか。おそらく魔王の、力がなくなった後遺症だと思われます」

やはりそうか。そしてメルアが心配そうな表情で病院に言ってはどうか。自分たちに席ることはないか聞いてみる。しかし……。

「おそらく、病院に行っても出来ることはないでしょう。残念ながら、私達にできることはございません」


突き付けられた現実にがっくりと肩を落とすメルア。
その後、奥にあるベッドに文香の体を寝かしつけた。


交代で文香の看病をするという取り決めを決め、俺以外は全員言葉を去る。

部屋には、俺とシェルムさんの二人。そしてベッドで汗だくになり、やつれたようなそぶりでベッドで昏睡している文香の姿。

とても心配そうな様子で、文香を見つめる。

「大丈夫でしょうか、文香さん──」

「信じましょう。それしかできません」

「そうですね」

そして時々手を握ったりしながら俺は文香の看病を行う。

闇の力を抜いている時みたいに叫び声こそ出さないものの、明らかに苦しそうな表情、溢れんばかりの汗。


文香の体、いつまで持つのだろうか。このまま、帰ってこなくなってしまうのだろうか。

そんなことを考えながら、時間を過ごす。
それから、夕日が出て来る頃、ルナと交代。


夕方。メルア、ダルクの番が終わり、俺の番になる。



「どうだった、ダルク」

「全然、肩を揺さぶってみたけど反応ひとつしないや」

「そうか」

頬がどこか痩せこけているのがわかる。しかし、俺にできることは、祈ることくらいだ。

やがて夜になり、満月の光が部屋に届く。
シェルムさんからもらったパンを口にした後、俺は文香の顔をじっと見つめてみる。


そして、優しく彼女の左手をぎゅっと握る。
女の子らしい、冷たくて滑らか、繊細な手。

文香に生きる力を注入するかの如く、ぎゅっと握ったその時──。

「ん、ん……」

文香の口からかすれたような、そんな声が聞こえはじめる。俺はすぐに彼女に視線を移した。

「信一……くん?」

ゆっくりだが、その透き通った瞳をそっと開ける。
そして両者目が合う形になった。

「文香──」


「う……、う──ひっく、ひっく、信一君──」


俺の服のすそをぎゅっと引っ張ると文香は俺の胸に飛び込んでただ泣いた。
俺は、文香の頭を優しく抱きしめて髪の毛をなでる。

「久しぶり、文香」

その言葉に文香は、俺の胸に顔をうずませながら、ただ涙を流す。

そして震えたような声で話しかけてきた。

「私、怖いの」

「何が?」

「また、信一君に暴力をふるってしまうかもしれないわ。そうなったら、どうしようって──」

その言葉、決して心配しすぎではない。彼女の不器用な性格なら、普通にあり得る。今は暴れないって心に決めても、時間がたてばその決心は次第に薄れていく。
でも──。


俺は文香の手をぎゅっと握る。

「だったら、少しずつ変えていけばいい。俺は、それをずっと見ているから」

そして文香の頭をそっとなでなでする。ふわふわとした髪

「じゃあ、お願いよ。信用してやるわよ──、このバカ」

文香は、俺の胸の中でただ涙を流していた。俺は、文香の悲しみをただ受け止めるだけ。

お前は、誰よりも粗暴で、自己中で、横暴だった。
けれど、不器用で自分の気持ちに素直になれないところもあった。


それが今、不器用に、それでも彼女なりに心を開こうとしている。
だから、応援する。


「取りあえず、今日はもう遅いし、体力だって回復しなけりゃいけないんだろ。寝よう」

「うん──」

起きてすぐみんなに会いたい気持ちはわかるが、まだ体は疲れ切っている状態。無理をするわけにはかない。

みんなと会うのは、明日の朝でもいいだろう。
そして俺たちは夢の中へ。

そして文香はすぐにベッドから起き上がる。
シェルムさんやメルア達にも──。


「今までは……、本当に──、ごめんなさい」


涙をボロボロと流しながら頭を下げる。

「まあ、俺は許してあげてもいいけどよ──」

「これからは、よろしくねっ!」

「まあ、あんなこと、しないなら……」



三人とも、文香のことを受け入れてくれるみたいだ。

これからは、仲間としてよろしくな。






そして数日後。



ルナの家、そこに文香はいた。俺たちと一緒に。
晴天の日、昼下がりの時間。文香がみんなに叫ぶ。

「みんな、食事の用意、出来……たよ」

「わかったー、今料理持ってくね!」


そこには、すっかり俺たちになじんでいる文香の姿があった。
たまに素直になれない様子はあるけど、これから徐々に打ち解けていけばいい。

「何か、足りないものある?」

「大丈夫だ、文香。じゃあ一緒にご飯食べよう」

そして食事の準備をしていると後ろに手を当てダルクがつぶやいた。

「ったくまた女作ったのか。どれだけ子供作る気だよ」

ダルクのませたような言葉、こいつ、そろそろ教育しないと──。

「じゃあ、料理も出来たし、みんなで食べよっかー」

「そうだね。メルアちゃん」

「おう、うまそうな料理だな!」

明るいムードメーカーのメルア。おとなしくておしとやかなルナ。
まだまだ子供っぽさがあるダルク。

「信一君。一緒に食べましょう」

「そうだな」

そして、不器用ながらもみんなと打ち解けようとしている文香。
まだまだやることはあるけれど、とりあえず溶け込めてよかった。

とりあえず最悪の終りだけは回避できた。
これから、どんな冒険が待っているだろうか。

たとえ何があっても、俺たちは乗り切ってみせる。


ここにいる、みんなで──。

          

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