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【完結】~追放された「元勇者」がゆく2度目の異世界物語~ 素早さ102、600族、Sランクで再び勇者になるようです

静内 燕

第77話 元勇者 エミールの過去を知る

全力で彼女の肉体を切り裂いていく。

ズバァァァァァァァァァァァァァァァ!!


エミールの体が吹き飛び、後方にある壁にたたきつけられる。そしてそのまま力なく彼女の肉体が地面に落下。

俺も、追撃をしようとした。──が俺も魔力がほとんど切れかかっている。ここでのこのこ攻撃に出て、反撃されたらもう立ち向かうすべはない。

ゆっくりと彼女の所まで歩き、俺の剣をエミールの喉元に突き刺す。そして、彼女をじっと見つめる。

「とりあえず、理由を聞かせてくれ。どうしてこんなことをした?」

俺は、ずっとエミールと一緒に旅をして、一緒に強い敵たちと戦った。
だから彼女のことがよくわかる。エミールは間違っても一時の金や利益なんかで、悪いことをしたりするようなやつじゃない。

確かに、はねっ返りで、気が短いところはあるけれどそれは俺がよく知っている。
だからこそ聞きたいんだ。

「魔王を倒してから、俺が、ここからいなくなった時から、お前に何があった? 教えてくれ」

声のトーンが下がり、優しい口調になる。すると、エミールの表情が暗くなり、うつむき始めた。
そこまで、暗い出来事があったのか。

「俺はかつての故郷「オラ・デユル村」へと戻った。最初は、俺のことを世界を、村を救った英雄だとたたえられ、街は大盛り上がり」

そう、エミールの故郷は、ズテーレン地方という魔王軍の土地と、俺たち王国系の国のはざまにある、緩衝地帯にある地方だ。

小説や、物語なら、魔王を倒して世界に平和が訪れる。これでハッピーエンドになり本は閉じられる。しかし、現実は違う、彼らの生活は人生はこれからも続くのだ。

エミールの眼が、じわりと滲み始める。この後、村がどうなったか、彼女の瞳が教えてくれた。

「戦いが終わると、政府のやつらは俺たちのことなんて何もなかったように関心がなくなった」

送り込まれた傭兵たちは、魔王軍という共通の敵を失い、次第に村人たちに危害を加えるようになったのだ。


その眼つき、覚悟を決めている目だ。いつものように感情的になっている感じではない。
恐らく俺がどれだけ説得をしても折れることはないだろう。

「どうすれば、エミールを救える? 何かあるはずだ。だってあいつは──」

そして彼女の心情を考えていて俺は痛恨のミスを犯す。

「その優しさが、お前の大きなスキだ!」

俺の視線が届かないところで、彼女は再び長槍を召喚。

突き付けた剣をはじく。速度においては彼女は俺を上回っている。気づいたときにはすでに遅い。

エミールは足に力を込め、撤退する。両足に魔力を込め、この場を飛び去ってしまう。

何とか追おうとしたが足がふらつき、膝をついてしまう。くそっ、ここまでか──。

しかし、えらいやつが敵に回ったな。
ただ強いだけでなく、俺の戦術や戦い方を完全に熟知している。

俺の体ももう限界、エミールの圧倒的な攻撃を受け続けていたんだからな。

ふらついて倒れこんでしまう。こんな状態で追ってもろくなことにはならないだろう。

「陽く~ん。無事だった?」

向こうから俺を心配する声が聞こえる。ルシフェルたちが手を振ってこっちに歩いてくるのがわかる。

「ああ、何とかこの場は片付いた。エミールは、逃がしちゃったけど……」

俺がそういうと、ルシフェルが微笑を浮かべた。

「まあ、この場が片付いて何よりよ。お疲れ様」

ルシフェルのねぎらいの言葉。それを聞いてほっとする。

「けど、あのエミールって女の人。強いんだよね?」

「ああローザ。今まで戦ってきた誰よりもな」


そして俺たちはこの場を後にする。
その後、エミールは、現れなかった。







激戦の後に待っていたのは、壊れた建物の復旧作業。

「不正をただし、悪と戦ってほしい。それなら、俺だって協力するから!」

冒険者たちにも呼びかけを行った。

「ありがとうな、俺たちを助けてくれて。これからは俺たち、街を守れるように頑張るよ」

冒険者のまとめ役が放った一言。そのことが聞けたのは本当にうれしい。

「その言葉が聞きたかった。まあ、あなたたちがそうしてくれるならこっちも手を貸すよ。何かあったら相談してくれ。ぜひ、手を貸させてもらうよ」

そしてここにいるのも今日が最後だ。最後まで、パトラさんはこの国のために働いてくれた。
いろいろな貴族の人や、役人、商人などの人たちと話していた。


それには俺とルシフェルも強く呼びかけた。

「いい、カイテルみたいにくし刺しされたくなかったら。パトラさん達にしっかり協力しなさい」

「そうだ。あなたたちが心を入れ替え、国民のために働くなら もし、今までのように、国民に背を向けて富を貪り食うようなことをしたら。もう、俺たちは助けない。あいつみたいに、殺されてもな」

その言葉を言い放った途端、こいつらが体をぞくっとさせたのがよくわかる。
カイテルが一瞬で殺されたのが、よほどトラウマになっているのだろう。

こいつらは、自分の私利私欲には目がない。その分、自己保身には目がないから、身に危険が及ぶと考えれば、とりあえず従うだろう。だから、それを利用すればいい。
死にたくなかったら、俺たちに従えと──。

人のいいパトラさんではこうは言えない。代わりに俺とルシフェルがビシッと言う形になった。


「さすがにすぐには変わらないさ。だから、何かあった時は急行できるようにアンテナは張っておかなきゃな」

そんなことをして数日。早いものだと思う。

気付けば、この街にいるのは今日が最後だ。

待ち合わせの喫茶店。中で落ち着いた雰囲気でパトラさんとエマは席に座っている。それを外から隠れて見ている俺たち。
慣れないタキシード姿。襟をピシッと正し、スーツのネクタイをまっすぐに整える。

「どうルシフェル、ローザ、セフィラ。服装、おかしくないか?」

「大丈夫よ。似合っているじゃない」

ルシフェルが親指を立ててOKする

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