【完結】~追放された「元勇者」がゆく2度目の異世界物語~ 素早さ102、600族、Sランクで再び勇者になるようです

静内 燕

第74話 元勇者 エミールの姿に愕然とする

「今よ、セフィラ!」

「はい!」

待ってましたと言わんばかりにカローヴァの左側に移動していたルシフェル、対角線にいるセフィラに向かって叫ぶ。

2人はここで勝負を決めるといわんばかりに飛び上がった。
右からはルシフェルが、左からはセフィラが一気に切りかかる。


2人は全力を込めてカローヴァの体を切り刻む。
空中でよけようがないため、その攻撃が直撃。大ダメージを受けながら地面に落下。

「ローザ、とどめよ!」

そしてローザとルシフェルは、勝負を決めるためとどめの一撃を繰り出そうとする。


虹色に輝く閃光よ、怒りの逆鱗巻き上げ、革命の力今降臨せよ!!

<闇、電気、水、氷、炎、大地、風属性 レインボー・オーバー・エアレイド!!>


輝きの閃光よ、裁きの力となりて、強大な となれ

<エターナル・シャイニング!>


ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!

2人の渾身の術式がカローヴァに直撃

周囲が粉塵で見えなくなる。そして、数十秒もすると粉塵は消えていき、カローヴァの姿が見えるようになっていく。

「モ、モ、モ、ンモ~~」

シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ──。


そこには、ぐったりと倒れこんだカローヴァから魔力が消えていく姿。これで勝負は決まった。

「やった……。私たち、勝った──です」

ローザに笑みがこぼれ始める。するとそこにセフィラとルシフェルがやってくる。
ルシフェルは大技を使い、斬撃でも魔力を消費、さすがに疲れが見えている。

「ローザ、セフィラ、ありがとう」

ルシフェルは喜びのあまり、ローザ、セフィラとハイタッチ。

「そ、そんなことないです。2人のおかげです」

「そ、そうですよ。特にルシフェルさん。近距離攻撃に、必殺技まで、体とか、大丈夫ですか?」

「まあ、ちょっとふらふらするけど、大丈夫よ……」

勝利の余韻に浸っている3人は再びカローヴァに視線を移す。すると、倒れていたカローヴァは座り込み始めた。そして……。

「モ~~、モ~~、モォォォォォォォォォォォン!!!!」

なんと牛は延々と泣き始めたのだ。額に右手を当てながらルシフェルがささやく。

「この子の特徴なの。一度負けると、大声で泣き続ける習性があるの。」

ルシフェルのため息。理由は簡単。とにかく声が大きくうるさい。ほかの冒険者たちも、あまりの轟音に耳をふさいでいるのがわかる。

鳴き声がこのあたり一帯に響き渡り、セフィラとローザは思わず耳を塞いでしまう。

そして周囲をじたばたしていると、彼の肉体が徐々に透明になっていくのがわかる。ルシフェルがふっと微笑を浮かべながら一言。

「お別れみたいね──」

そして今までの魔獣のようにカローヴァが消滅していく。カローヴァここを離れるのを拒んでいるかのようにじたばたをしたまま。
そんな姿を見ながら、安堵の表情でセフィラがささやいた。

「とりあえず、こっちは一件落着ですね」

「そうね、セフィラ。あとは陽君だけよ」

「で、でも、陽君だったら、負けないです。絶対勝つです!」

強気な表情で拳を握る。しかし、ルシフェルは不安そうに遠くを見つめながら。

「──だといいけどね。私も信じるわ」

そっと囁いた。
セミロングの黒髪をたくし上げ、空を見ながら、ルシフェルは俺の心配をする。

(陽君。絶対に勝って──)






そして、時は少しだけさかのぼり──。

その姿、俺は唖然とした。

腰くらいまでかかった赤髪でポニーテールの長い髪。

右目は赤、左目は緑色をしたオットアイズと呼ばれる瞳の少女。
かつて魔王軍と戦った戦友ともいえる存在。


「まさか、こんな形で再開するとはな」

「ああ、俺も信じられないくらいだ」


エミール・キャロル。かつて、俺と一緒に魔王軍と激闘を繰り広げた戦友。
強さも、今まで戦ってきた雑魚敵や、種族値だけにかまっていた数字だけの奴とは違う。

まずはこいつの種族値がこれだ。

ランク A
HP 75
物理攻撃 110
物理防御 80
魔法攻撃 110
魔法防御 90
速度 115

強すぎる。俺よりも早い素早さ。物理攻撃も魔法攻撃も高い2刀流。おまけに耐久もそれなりに高い。

「まさか、こんな形で再開するとは思ってもいなかったよ」

彼女の威圧感に、思わず引いてしまいそうになる。しかし、勇気を出してその場にとどまり、会話を続ける。

「俺は、覚悟していたよ。こうして魔王軍になった時から──。お前と戦うのをな」

いつものエミールは、一言でいえば少年漫画の主人公のような存在だった。

ひたむきで、明るくて、まっすぐで、無鉄砲。よく笑っていて、自信家だった。
しかし、今の彼女からは感じる。悲壮感のようなものを……。

「俺は、できればお前と戦いたくなんかない。今すぐ撤退してくれないか?」

「おいおい、何かの冗談か? 槍を向かている相手に、今更敵意を問うのかよ」

だろうな。こいつは、一時期の感情で悪いことをする奴じゃない。よほど思い詰めている事情があるのだろう。

俺がどう叫んだところで、彼女の姿勢は変わりはしないだろう。だったら、俺がとるべき行動は、一つしかない。

「魔王を打ち倒した後、お前にどんな事情があったか俺は知らない。けれど、お前が強い思いで今、こうした戦っていることは理解できる」

「まあ、俺とお前の中だ。変な説教をしてこない分、話が早くて助かるぜ」

「ああ、無駄だとわかっているからな。戦ってお前をねじ伏せる以外、解決するしかない。さあ、行くぞ!」

やることは1つだけ。全力で戦って、こいつに勝つ。

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