──破滅回避の転生令嬢── 悪役令嬢、世界を救うため「書記長」というハズレ職業から冷たい戦いを制し、世界を二分する勢力の指導者にまで成り上がります

静内 燕

第4話 いかにも嫌そうなヤツ


「お姉ちゃん、ありがとう」

そう言って子供はこの場を去っていく。

しかしこの場をどう切り抜けようか、私は腰を抑えながら考える。
ただでさえ印象が良くないのに、物理的に尻に敷いちゃうんだもの。

「ロンメルさん。あ、あの、ごめんなさい。これはわざとじゃなくって。その──」

「そうだね。わざとじゃないのはわかるし、センドラーさんが想像とは違った人だってのもよくわかった」

ロンメルはどこかホッとしたような表情で話してくる。どうやら皮肉やお世辞ではなさそうだ。
しかしどうして機嫌がよくなったのだろうか。




「けれど、完全にとはいかないかな。これから次第さ、あなたが私にとって信用に足りる相手かどうかというのは」

やはり、簡単には信用してもらえないか。私は一つため息をつく。
仕方がないと言えば仕方がない。私はこの街に来て間もない。
おまけに恐怖で人を縛り付けるタイプとして知られてきた。

それでも、私は彼と手を組みたい。

それなら、こうするしかない。私は勇気を出して話しかける。

「簡単に言うわ。私と手を組まない?」

そう言って私はロンメルに手を差し伸べる。

私がロンメルと手を組む理由は簡単だ。
敵の敵は味方という理論。

しかし、他に取れる手段がない以上仕方がない。



「はっきり言って、私はあなたとうまくやれる自信がない。 共通の敵がいなくなったら対立してしまうのが目に見えてる」

エンゲルスと違うのは母親が正妻ではなく、身分の低い側室とできた子供だからだ。
そのせいで一族からも周囲からも疎まれ、後継者になることができなかった。

そんな彼は、王族の権力争いというものをよく理解している。

「それだけじゃない。下手に動いて自分の地位を脅かそうとしているなんて姉さんから思われたら大変だ。国外追放だってあり得る、あなただってそうでしょ」

その言葉に私は反対できなかった。私がラスト=ピア送りになったのだって、王国側が妥協せず強権的な私を見て、自分たちの地位が脅かされると感じたからだ。

「だから仲間と組むのは考えていない。これが私の意見だ」

きっぱりと断られる。どうしようか、困り果てていると──。

(ここは引くしかなさそうね。もっと信頼関係を築いてから話を持ち掛けた方がいいわ)

背後でセンドラーがそう話す。確かに、彼女の言う通りかもしれない。信頼は、これから築いていこう。
手詰まり感がこの場を包み、二人は沈黙したまま歩を進める。





そして私達はさらに道を進む。

すると斧や剣を持っている人が相対的に多くなっていく。
この辺りを歩くのは冒険者の比率が多いということだろう。
そして数分ほど歩いていると目的の場所にたどり着いた。

「とりあえず、ここがギルドみたいね」

このエリアでもひときわ高く、大きい建物。

他の建物よりも、豪華に飾られたなつくりをしている。この建物が持つ権威を象徴しているように。



私達はギルドの中に入る。

広いギルドの中にはたくさんの人がいて掲示板でクエストを探していたり、机でゲラゲラと笑い楽しくたわいもない会話をしていたりいろいろな人がいた。

そして目的の人物だっけ。そう言えばハイドさんってあったことがないからどういう人かわからないんだよね。

「確かあの人物だよ。センドラーさん」

ロンメルが肩をたたいて指をさす。良かった、彼は知っているみたいだ。
そしてその方向には七、八人ほどの冒険者の集団。

「ふう、今度のクエストどんな内容だよ。どうせ楽勝だけどな!」

その中心でしゃべっているのが、長身でツンツン頭。目つきが悪い外見をしている冒険者。
腰に手を当て、自慢そうにしゃべっている。

「あの中心にいるのが彼だよ」

彼がハイドね、なんだかいかにも悪そうな冒険者って感じよね。
しかしどうやって国と契約するのにふさわしいか判断すればいいんだ? あの仲間達から聞き込みとかしてみるか……。

(それもいいけど、とりあえず、一緒に冒険をしたりするのが一番だと思うわぁ)

確かに、センドラーの言うとおりね。口頭の情報よりも、実際に彼の戦いや仲間への接し方を見た方がわかると思うし。

それならやるべきことは一つだ。私はロンメルの手を引っ張ってハイドのところへ。

「もしもし、あなたがハイドさん? 私センドラーっていうの。話があるんだけどいいかな」

「ああん? なんだよ、この俺様によ!」

初対面でこの態度。大丈夫かな……。とりあえず私は彼らに向かって話を始める。
あなた達の実力を見込んで、ヴェルナー家で直接雇いたい。今までより稼ぎは確実に多くなる。

そしてそのためにあなたたちと一緒に行動をして審査をしたい、と──。

「おいおい、ウェルナー家ってここの領主だろ。大出世じゃん、乗らない手はないぜ」

隣にいた、葉巻を吸っているお姉さんの冒険者がハイドに詰め寄る。
他の冒険者たちも、互いに顔をきょろきょろして動揺しているのがわかる。すると──。

「おい、騒ぎ過ぎだバカ!」

そう言って猫耳の女の子の頭をたたく。その子には首輪がついている。奴隷の証だ。こいつ、素行悪いな……。

「わかったよ。じゃあ今度ダンジョンに行くことになっている。お前たちも来るか? それならいいだろ」

(クエスト? 悪くないわ。魔王軍もいない、強敵の存在もないこの辺りじゃあせいぜいDランク程度のクエストしかないはずよぉ。私達なら楽勝だし、受けましょう。秋乃)

センドラーの言う通り。依頼書に目を通したけど、そこまで難しくなさそう。リムランドじゃあもっと難しいクエストを担っていた私たちにとって簡単なクエストだ。

「わかったわ。ぜひ行かせて下さい。よろしくお願いしますね」

「ああ、こっちこそよろしく。どうせOKだろうけどよぉ」

どういう根拠なんだか。そして私は受付の方へ行ってそのクエストへ参加する趣旨を伝えた。

受付の人が机の下から書類を渡してくる。


「了解しました。でしたらセンドラー様、ロンメル様、こちらの書類を渡ししますので、必要事項に記入をお願いします」

私たちは受付の人から渡された書類にサインを記入。

こうして私達はハイドが 取るに足る相手か確かめるため一緒にダンジョン攻略をすることになった。

          

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