──破滅回避の転生令嬢── 悪役令嬢、世界を救うため「書記長」というハズレ職業から冷たい戦いを制し、世界を二分する勢力の指導者にまで成り上がります

静内 燕

第2話 ヴェルナー家当主

宮殿の道を歩きながら、後ろのセンドラーが話しかけてくる。


(しかしいきなり時期領主が直々にお願いだなんて、どういう事かしらねぇ)

高価そうな赤じゅうたんの道。時折甲冑を着た警備の兵士や役人の人とすれ違う。
私は宮殿の中を歩いている。向かっているのは時期領主エンゲルスのところだ。
どうしてこんなことになったかというと、理由は私がさっき医務室から出て扉を開けた時の事にさかのぼる。

「あれ? エンゲルス様。どうしたのですか」

「センドラー様、そなたを見込んで頼みがあるのだがいいか?」

そこにいたのは長身で堂々とした態度。腰までかかった黒髪のロングヘアーが特徴の女性エンゲルスだ。

腕を組みながら私に話しかけてくる。

「私は今日は部屋にいる。しばらくしたら私のところへ来てくれ。そこで頼みたいことがある」

「エンゲルス様、了解しました」

私は彼女からおかしく思われないように返事をすると、この場を去っていった。



そんなやり取りがあって、私はエンゲルスの部屋へと向かっていくことになったのであった。

そしてちょうどいい機会だと思い、後ろにいるセンドラーに話しかける。

「そういえばセンドラー、聞きたいことがあるんだけどいい?」

(何よぉ秋乃)

「あなたが後ろにいることは、その姿は周囲からは認識されていないの?」

それはこの体を使っていないときのことだ。半透明でもう一人が体を使っている。この場合は周囲からどう見られるのか聞いていない。

ここで知っておこう。

(そうよぉ、肉体がない方の人格は、魂と肉体が分離している状態なのぉ。だから周囲からは目視されない状態になっているわぁ。だからといって私に口で話すのはやめなさい。つよく念じれば私に話すことはできるから)

「何で?」

(独り言が大きい人だと思われて、周囲から変人だと認識されるからよぉ)

センドラーはため息をつき、やれやれといった素振りで言葉を返してきた。
確かにそうだ、今も周囲の役人たちが私のことをじろじろ見ている。

センドラーの姿が見えないということは周囲からは大きい独り言のように見えているのだろう。
これからは気を付けよう。

(それと、この魂の姿、肉体から数メートルしか離れられないから気を付けなさいね)

なるほど、あまり遠くにいることはできないってことか──。

(わかったわ、センドラー)

私は心の中で言葉を返す。センドラーがうなづいた事を見るとそれでも十分通じるらしい。



そして私は階段を登り宮殿の一番上の回へ。そしてその一番奥、廊下の終点にその部屋はあった。

(さあ、どんな用があるのかしらねぇ)

「何があろうと、一緒に頑張ろうね、センドラー」

そして私はドアをノックする。

「失礼します。センドラーです」

「入れ」

そして私はドアを押して部屋の中へと入っていく。



宮殿の中でもかなり広い部屋。
中には金銀でできた飾り物や、天使や女神を描かれた絵画などが飾られている。

どれも高級そうで、ヴェルナー家の権威を誇示しているように見える。

そして部屋の窓側、机に肘を置き手を組みながら私を見つめている人物が一人。

黒髪でロングヘア、長身の女性エンゲルス。


それからもう一人──。

「来てくれてありがとうセンドラー、ロンメルもすでにいるわ」

机に向かい合うように、エンゲルスを見つめている人物。

金髪で髪が長い男の人。
彼は、エンゲルスの弟であるロンメルだ。

「んで、こんな後継者にもなれなかった僕に何のようだい、島流しの命令ですか? そこの令嬢さんのように」

彼はちらりと私に視線を向ける。どこか冷めたような表情。

(無理もないわぁ。この二人、最近まで後継者争いでもめていたんですものぉ)

センドラーの言葉通りだ。彼女として今までこの世界を生き抜いてきたから理解できる。
この世界の兄弟は、いつもいがみ合っている。


姉弟で後継者争い、話し合いで解決せずお家騒動になるのは、他の国では比較的多い。

中には内戦になったり、互いに魔王軍の力を借りたりして泥沼の戦いへと発展することもある。

この二人も、どちらが後継者になるかで一時期問題になった。


理由は一つ。エルヴィンは父親と正室の間で生まれた子供。しかしロンメルはほかの夫から奪った妻との子供だからだ。



最初の方こそ争いはあったが、政府の官僚や兵士から、領主は正当な妻から生まれたほうが体裁がいいという意見が多数を占め彼女が次期領主に至った。

そのわだかまりは、今も二人の間に、この領地の間に残っている。

そして気まずい雰囲気になった中、机に座っていたエンゲルスが立ち上がり、窓の外へと視線を移した。

「率直に言う。私はあなたたちを敵だとは認識していない。むしろ一緒に協力して、この国を守っていきたいと考えている」


その言葉に私はホッとする。とりあえず対立するようになずに済みそうだ。

「その言葉、肝に銘じておきます」

ロンメルは冷めたような表情で言葉を返す。完全には、信用していないのが私にもわかる。

「それで、あなたたち二人に頼みたいことがある」

エンゲルスがこっちを向いて話の本題に入る。


「私が聞いたところ、ラスト=ピアの周辺の地域では魔物が襲撃してきたり、兵力を強化したりしている領主が増えている。それに合わせて私達も兵力を強化し領地の安定を確保したいと考えているのだが──」

そういうとエンゲルスは、机の中から一枚の資料を私たちに見せてくる。














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