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スキル「キャラクターメイキング」で美少女になれる俺は全ての悪を虐殺します

めんたま

メンバー会議



 雪上に身を沈め雪を赤く染めあげるのは、損傷が激しい肉の塊。まるで食い荒らされたかのように見える腹部の大きな傷と首の切り傷が印象的だ。目は驚愕に見開かれ、五指は何かに縋るように開かれている。

 沈痛に浸りながら幾人かの人間に見下げられる肉は、仲間の一人の容姿をしている。俺はこの人物をよく知っていた。
 凍えた世界の中で時までも凍らされたかのように、肉も、俺達も、物言わずに留まり続ける。もう二度と動くことはないと分かっていながら、別の結末を望んでしまう。

 白い雪が降って、降って、降り積もって。
 都合の悪い現実を隠そうとする。こうして複数人に目撃されているにも関わらず、空は関係ないとばかりに健気に隠蔽を図る。

 それがひどく不愉快に感じられた。

 そして、そんな胸中で肉の塊を観察して、ふと僅かな違和感を抱いた。何か決定的な間違いを犯している気がして―――。

 しかしその正体を暴けないまま、俺達は後ろ髪を引かれながらその場から去る。
 違和感の真意に頭を巡らせながら。ぐるぐる、ぐるぐると。


*                 *                 *


 『トントントントン』『トントントントン』と指先で机を叩き続ける音だけがこの武道館内に響き渡る。
 本来ならそんな小さな音を鼓膜が拾うことなどないが、今この場にいるのが9人という少人数であり尚且つ全員無言であるからこそ、余計に目立っているのだ。

 この武道館は500人が暮らす体育館に隣接されている。スキル持ち50人、その内の代表者数名が主に利用している施設で、会議や能力実験、模擬戦など目的は多岐にわたる。
 今回は『澪の死体』が発見された一報を受けて、主要メンバーが招集された形になる。保護する人々に無用な不安を与えないために、こうして緊急時は別の場所で話し合いを行うのだ。

「……ん、郷うるさい。殴るよ?」

「だってよ、おい。落ち着いてられねぇだろおい」

 指先で机に不満をぶつける大男、岩尾郷を叱責するのは、白髪小柄少女のこがらし深冬みとである。この2人は昨日のオグル・リザード戦の直前に出会った仲間だ。体格に反比例するかのような両者の態度はもう見なれたものだ。

「まあまあ深冬ちゃんも抑えて抑えて。岩尾くんの気持ちも私は分かるな」

「多分みんなも不安なんだと思いますよ」

 そんな2人をなだめる2人の人物。七瀬小和こよりちゃんと花月桂樹けいき君だ。この2人は性格ゆえか、争いは起こすのではなく諌める側に回ることが多い。もっとも黒髪ロングボブの絶世美少女である小和ちゃんに比べて、花月くんは余りにも地味過ぎる人物ではあるのだけど。まあ俺が言えたことじゃないか。

「東雲様、そろそろ会議を始めませんこと?」

「そうですねぇ。苺も、もう開始してもいいと思いますぅ。東雲リーダーぁ」

 そんな仲間たちのやり取りを一通り身終わった後に発言したのは、似非お嬢様の卯月楓とビッチ臭漂う木崎苺である。木崎さんはこんな時でも茶髪のサイドテールをフリフリと揺らしアピールを欠かさない。その徹底ぶりには頭が上がらないよ。

「……そうだな、始めようか。湊くんもいい?」

「俺は大丈夫だよ」

 女性陣からの要望を受けて、我らがリーダー東雲柊が新参者である高杉湊……つまり俺へと会話を振る。昨日の今日で何故俺が主要会議に参加できているのかというと、その戦闘力が認められたからに他ならない。オグル・リザードという強敵を『私』が倒したからな。

「わかった。じゃあ会議を始める」

 長机を囲むように席に着いた俺たち9人は、長方形方の机、その短辺に座るリーダーへ一斉に注意を向ける。この会議の司会進行を務めるのは言うまでもなく俺たちのリーダーである彼だ。

「議題は、今朝発見された―――」

 柊くんはそこで一度言葉に区切りをつけ、とある人物にその鋭い双眸を送る。その人物とは、本会議において渦中に据えられていると言って差し支えない女性である―――、

「澪、君のの死体について、だ」

「……あぁ」

 そう、逢沢澪本人だ。



*                   *                  *



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『逢沢澪《あいざわみお》』(状態:魔力変質)

・魔魂量「19」
・技能「分身創造」

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 逢沢澪のスキルは至ってシンプル、『分身』である。自分と同水準の思考力、身体能力、人格、記憶を持つ分身体を3人まで創造できる。能力の継続時間には限界があるため、分身体達は消滅と再生を繰り返す。よって自我は存在するものの、自らの死には頓着しないようだ。

 澪はその能力を評価されて、この避難所における警備主任のような役職を任されている。それは偏に、このスキルの利便性にある。
 周辺警備が最もしづらく、また最も危険が伴う時間帯は、夜間だ。暗闇というのは、ただそこにあるだけで厄介極まりない。視界不良に乗じて襲われるかもしれないし、そもそも敵を視認できないかもしれない。それに眠気も当然ある。故に夜間警備は四苦八苦していたという。

 そんな中、白羽の矢が立ったのが澪だ。何しろ警備は死を恐れない分身体に任せればいいわけで、本人の安全性は担保されている。まあ人道的かと問われればそれは断じて否だろう。実際、その方法を耳にした時には【悪】なのではないかと怒りが発露しそうになったが、分身体本人に聞いてみたところ特に不満はないという。決して褒められた行いではないと思うのだが、当の本人達が納得しているのであればそれ以上追求するのはやめにしておいた。
 
 そして、その体制を維持していた折に、今朝の分身体の死体発見事件が起こったというわけだ。

「状況を整理しよう。まず、澪の分身、その死体を最初に発見したのは?」

「はい、私だよ。今朝、オグル・リザードに殺された犠牲者のお墓参りに行った時に。見回りのルート上だったから、夜に近辺を警戒中に死んじゃったんだと思う」

 リーダーの言に応えたのは、小和ちゃんである。この犠牲者のお墓とは、『私』が倒したオグル・リザード、奴が所持していた子宮を埋めた場所のことだ。埋葬……と呼べる程立派なものではないが、簡易的に棒を1本立てて墓っぽくしている。体育館裏に設けたのだが、まさかその傍に分身死体が据えられることになるとはな。

「そうか。……澪、分身体が自然に死ぬことは?」

「ないぞ。あたしがスキルを解除するまで、分身体は動き続ける。まあ、1週間以上の長期になれば分かんねぇけど、少なくとも死んだ分身体は出来たてホヤホヤだったな」

「「……」」

 その場に粘性のある沈静が満ちる。
 それは、皆考え至ってしまっているからだ。まあその分身の死体はこの場の全員がさっき確認しているため、今の質問は一縷の望みに縋るような行いしかならないんだけど。損傷が激しいあの死体が自然死でないことくらい、幼子でも分かる。

 分身は、自然死ではなく、殺されたのだ。

「そうだよなあ。現場は俺も見たんだけど、争った跡はなかったよな?別の場所で殺されたのか?そもそもモンスターが夜のうちにキャンパス内に侵入してきたってことか?澪、何か分かることは?」

 柊くんが疑問を羅列して捲し立てる。普段ならばもっと理知的に順序立てて会話をする彼だが、今は余裕が無いのかもしれない。集団の頭としての責務もあるだろう。

「普通は分身を解除した時点で、その分身体が体験した記憶とか思考があたしに返ってくるんだよ。でも死んじまった時は別だ。そいつが死んだら、そいつが見た景色も、抱いた感情も、何も知ることはできねえよ」

 澪は首元をやや粗雑にかきながら吐き捨てる。

 なるほど。通常の形成→解除の過程を辿ると分身体の経験が本人に還元されるのか。だけど解除されずに殺されると、死体はその場に留まり続けて何も情報は得られないと。

「そう、か。……敷地内でのモンスターの目撃情報を持っている人はいるか?」

「私は何も聞き及んでいませんわ。情報管理を任されている私が知らないということは、誰も知らないのでしょう」

 卯月さんは、その、肩にかかった直線に切り揃えられた姫カットを優雅に払う。一つ一つの機微が令嬢を連想させるのは勘違いではないだろう。

「……ふぅ。困ったなあ」

「そのモンスターがぁ、もう何処か遠くに行っちゃってるならいいんですけどぉ。まだ大学内に隠れてる可能性もあるわけじゃないですかぁ」

「それはやべぇぞおい。今度は分身体じゃなくて本当に人間が死ぬぞおい。この辺一体虱潰しに探すか?おい」
 
「でもよぉ白義大学は割と広いぜ?それに隠れてるなら危なくねぇか?こんな時はあたしの分身の出番なんだけど、またやられちまったらどうしようも無いからなあ」

 会議らしく、多方面から意見が飛び交う。実際、発見されたのが分身の死体だったから不幸中の幸いで片付けられるものの、これが仲間たちの誰か人間の死体だったらこうも悠長に構えてはいられなかった。その意味では、分身はその役割を存分に果たしたと言える。……捨て駒のような扱いをするのは気が引けるが。

「皆が就寝中に体育館内に侵入されたらって考えると、のんびりしていられないよね。私の『熾天使・癒』にも限界があるし……」

「そうだな。安全確認ができるまでは、見張りを増やすか?ただ、それで遠征に支障が出るのもなあ」

「おいおい、遠征とか言ってる場合じゃねぇぜおい。仲間が危険なんだぜ?おい」

「それは重々分かってる。でもそうこうしてるうちに町の生存者はどうなる?この寒さじゃどれだけ防寒具を使ってもそうもたないぞ。猶予がないんだ」

「モンスターが潜んでる危険性を鑑みて私達を最優先に置くか、モンスターは去ったと楽観視して遠征への影響は最小限にするか、ですわね」

「「……」」

 またもや静寂が訪れる。
 各々の思惑は衝突しているものの、誰かが決定的に間違っているわけではない。皆、ある意味では正しい。だからこそ1本に絞れない。
 このメンバーで沈黙を選択しているのは、深冬さんに花月くん、あと俺だ。積極的に意見発信をしそうな面子ではないし、当然と言えば当然。決して根暗だからではない。ない。

「今日もこれから遠征がある。この会議で方針を固めきらないと」

 どの道を選択したとしてもそれは苦渋の決断になることを彼は強く認識している。頭を空っぽにして、起こり得る負の未来に考え至らなければどれほど気持ちが軽いだろう。枝分かれする一つ一つの結果という、未来の枝葉を余すことなく摘み取ろうとするからこそこの会議は平行線を辿っている。

「……本当に情を抜いて、打算的に考えれば、遠征への影響は考慮するべきではありませんわね。学内の警戒を第一にすべきと考えますわ」

「楓、それは」

「だってそうでしょう?この極寒の中、5日間もモンスターの脅威から逃れ続けられている生存者が街にどれほどおられるか、その期待値の低さは言うまでもないですわ。いるかどうかも定かではない生存者のために、今確かに鼓動を打ち、地に足をつける仲間達を危険に晒せるはずがありませんのよ」

「……」

 柊くんは、真の勇者は、その言に強く顔を歪める。その論理に、聡明な彼が辿りつかなったはずがない。それでもその低い期待値を切り捨てられないのが柊くんなのだろう。
 命は数えられる。しかし、命を数字に挿げ替えることにどれ程の正当性があるのというのか。

「……本心では、どちらの選択が正しいのか、分かっているはずですわよ」

 かと言って、卯月さんに正当性がないわけではない。どちらか一方を絶対に取りこぼす時、実数で判断するのが一番合理的だ。例えそれが倫理的に問題があっても、判断しなければならない時は必ずやってくるのだから。

「―――ちょっと待て」

その時、地を這うような低い声を絞り出す人物がいた。それは重く、この場に染み渡る。

「なにか?」

「お前のその意見はつまり『街の生存者は見捨てろ』と、『お前の妹も諦めろ』とそう言ってんのか?」

 怒りも諦念も噛み殺して、大切な一つを拾い落とさないために奔走するプリン頭の女性―――澪が疑問を問い掛ける。最愛の妹を保護するために遠征を渇望する彼女にとって、卯月さんが口にした方針は腹に据えかねるものだったのだろう。

 その憤怒をぶつけられた卯月さんは、

「……ですから、そう申し上げているのですわ。今朝も、午下ごかも、ともすれば何日も前から、わたくしはそう申し上げ続けているはずですが」

 毅然とした態度に一切の綻びを感じさせずに真っ向から対立する意見を突き付けた。……いや、違う。見間違えでなければ、口を開く瞬間にほんの僅かに表情を顰めていた。それから振り切るように意見を並び立てたのだ。その機微にどんな意味が込められていたのか、窺い知ることはできない。

「お前はッ……!」

 澪が我慢ならない様子で勢いよく立ち上がった。その拍子に弾かれた椅子が高い音を立てながら後ろへ滑り飛ぶ。

「な、んで、なんでお前はそうなんだ?あたしが気に食わないのか?だから嫌がらせで」

わたくしは常に最善を唱えているだけですわ。冷静に、被害予想と予想利益とを比較して答えを出しています」

「そんな機械みたいな結論誰も求めてねぇよ!人間なら、理屈も根拠もほったらかして自己中な目的に突っ走るもんだろ!?」

「知恵ある人間が主張する内容とは思えませんわね。その無謀なゴールの果てに、いくつの犠牲が生じるか。あなたの妹を含む、街の生存者を救出するために何人の仲間が死にゆくか。それが分からないほどあなたが呆けているとは思っていないのですが?」
 
「そんっなこと、これ以上ないくらい悩んだ……!悩んで、考え抜いて、迷って、願った。ああそうだ、悩んだんだよ。それで、そうしたら、当たり前の事実に気付いた」

 悲痛に訴え、叫ぶ澪は、そこで上半身を折り曲げ机に額を打ち付ける。骨と木がかち合う鈍い衝撃音が一度鳴ったその後、ポツリと呟いた。

「あたしって奴は、どう取り繕っても身勝手の域を出ないクズだ。妹を助け出せるなら、仲間の犠牲を許せちまう。罪悪感もあるだろうし、死ぬほど後悔して、懺悔もするだろうな。それでも、妹を助けられて良かったって。最後にはそう思っちまうクズなんだよ、あたしは」

 それは昨晩の俺とのやり取りの焼き直しのようで―――いや、今の言葉を彼女が口にせずに済むように昨晩は奔走したんだったな。奇しくも現実になってしまった。現実には、したくなかった。

「……だったら、正しいのはやはりわたくしなのですわ」

「そう、正しいのはお前で。間違ってるのは、あたしだ。言い合いになれば絶対に負ける。それなのに、なんでこんなにもお前の正しい意見が受け入れられないんだろうな」

「…………そんなこと、知りませんわ」

「悪かった。会議を進めてくれ。話し合いの結果がどうなろうと、あたしはもう口出しはしない。ただ―――」

 澪は自分が飛ばしたパイプ椅子を拾い上げ、定位置に戻すと改めて座り直した。それからやけに落ち着き払った様相で顔を上げる。

「もしその結果があたしが望んだ形じゃなかったら、あたしは1人ででも妹を助けるために遠征に行く」

「澪、お前」

「……あなた、自分が何を言っているのか分かっていらして?」

 澪が示した覚悟に、英雄とお嬢様が苦言を呈する。
 街に繰り出す遠征は、元来10人をチームとして行われている。役割分担、交代要員、連携構築、チームを作るためのメリットは枚挙に暇がない。しかし、こと遠征において10人もの人数を導入している理由は1つに集約される。
 危ないから、だ。
 少人数でモンスターが蠢く危険地帯に突入すれば、その結末がどうなるかは火を見るより明らか。俺は遠征を経験していないため詳しいところはわからないが、その事実だけは確信できる。

 そんな死地に単独で赴くというのは、

「それは自殺行為だぞ」

 柊くんが俺から引き継ぐように先を紡ぐ。その険しい顔立ちには、ここで引いてはいけないという彼の決意が強く現れていた。仲間が単騎でモンスターの巣窟に身をやつすというのは、看過できない決断だろう。特に正義感の強そうな柊くんにとっては。

「「……」」

 他の面々は立ち位置を決めあぐねているようだ。そんな無謀な真似はよせと諭したい気持ちも、妹を想う彼女の覚悟を尊重したい気持ちもある。それでもすぐに行動に起こせるほど―――柊くんと卯月さんほど、早期決断をやってのける人物はこの場にはいない。少なくとも、名乗り出てはいない。

「それでも、あたしは行くよ。行くべきなんだよ。今も妹が、莉緒が震えて蹲ってるかもしれない。そう考えた時に、我が身可愛さに引き込もれるやつがどれくらいいるよ?」

「何も出来ずに道半ばで殺されるかもしれませんのよ?」

「そうなった時のために、あたしの後任はもう決めてあるんだ。だから安心できる」

 偉大なお姉ちゃんは、俺を視界の中心に据えながらそう零す。
 後任、後任か。昨晩約束したからな。もし澪に何かあった時は妹のことは俺に任せろと。【正義】ぶって大仰な口上を披露してしまったものだと自嘲したい気分にはなるが、嘘偽りも、大袈裟にも述べたつもりはない。自己犠牲の精神こそが俺が為せる【正義】の形だからだ。

 俺は確かな覚悟を胸に、澪に頷き返してやる。
 彼女はそんな俺を見て、ほんの少しだけ口角を上げた。やり取りは昨晩で終わっているのだ。これ以上言葉を交わす必要は無い。

「……?と、とにかく、あなたのその八方破れの行為は認められませんわ」

「なんでだ?お前が遠征を続けることに反対してたのは仲間が犠牲になるかもしれないからだろ?あたし1人で行くんだからなんの問題もないはずだ」

「……ッ!」

 澪のその言葉に、卯月さんは表情を強ばらせた。その顔は哀しそうにも怒っているようにも思えて。どちらにせよ、苦しいものだ。彼女の本心がどこにあって、何を望んでいるのか。その答え合わせが容易となる程の変化と言える。

「わたくしはっ!ただ、あなたに死んで欲しく…………」

「……」

「―――いえ、なんでもありませんわ。どの道わたくしの答えは変わりません。犬死させるような真似はわたくしのプライドにかけて許すわけにはいきませんのよ」

 2つの【正義】の研磨を会議に同席する俺たちは見守る。行動力溢れる柊くんや慈愛に満ちた小和ちゃん、お喋りな木崎さんも閉口して成り行きを傍観している。

「ああ、今わかった」

 ふと、澪が独り言のように口を開く。

「なんですの?」

「あたしが間違ってるのに、なんでお前に正論突きつけられたらこんなに心が荒れるのかがわかった」

「それは」

「―――ただ、心配して欲しかったんだよ。今お前があたしの身を心配してくれるみたいに、あたしの妹にもその良心を向けて欲しかった」

「た、例えわたくしがあなたの妹の身を憂いたところで決断は変わらないですわ。仲間が犠牲になる危険性があるなら、反対し続けます。そこにそんな無意味な憂慮が入り込む隙なんて……」

「それでも、心配して欲しいじゃんか。あたしの世界一大切な家族だ。なのに他人事で捨てられるみたいな扱いがどうしても許せなかった。嘘でも、フリでも、よかったんだぜ?」

「わた、くしは…………」

 それっきり、卯月さんが発言することは無かった。思ってもみなかった切り口から反論されて二の句がつげなくなってしまったのだろう。
 実際、これはただの価値観の違いだ。合理性を突き詰める卯月さんと感情論による感覚でものを言う澪。こればかりは相容れなかったと割り切るのが1番簡単で早いが、そうもいかない事情もあるからな。難しい問題だ。

「そんな感じで、会議を進めてくれリーダー。あたしは何も干渉しないぜ」

「……いや、しかし」

「頼む」

 澪は黙りこくった卯月さんを尻目に話を戻そうとする。忘れてはいけないが、この会議は、殺された分身の死体が発見されたことで近くにモンスターの存在が懸念され、それに伴って遠征の人員を警備に回すかどうかが議論されている。
 その結果遠征の人員削減、または遠征そのものが中止となった場合でも、澪は妹を助け出すために1人ででも遠征に行くと主張しているのだ。

「……わかった。誰か意見がある人はいるか?遠征を続けるかどうか。俺としては遠征は中止せずにメンバーを減らす方向で考えたいと思ってる。湊くんっていう即戦力も入ってくれたことだしさ」

 柊くんは俺に期待してくれているようだ。いや俺と言うより『私』の方か。嬉しいんだけど複雑だ。まあ俺も『私』くらい強くなれたら最高だと思うし、そうなるべく努力も欠かさないつもりではあるが。

「……ん、巨乳は強い。巨乳がいれば、遠征メンバーを何人か減らしたとしてもそれ以上の働きをしてくれるに違いない」

「え?湊くんをあてにするの?私としては遠征はモンスターに出会う確率が高いし、あんまり危ないことはしてほしくないんだけど……。遠征メンバーの数はそのままでさ、湊くんには大学の警備をお願いしたらどうかな。それだけで大学は安心だと思うんだ」

「小和。湊くんへの過保護もいい加減にしろ。そもそも遠征に参加するのは彼本人の意向だし、遠征にはできるだけ大きな戦力が必要なんだ」

「別に私が誰を大切に思ったって、柊には関係ないでしょ?彼本人の意向って、それキラちゃんの話じゃないの?湊くんの口からは私聞いてないよ」

「た、大切……いや、それはいい。わかった、じゃあ今この場で湊くんに聞いてみよう」

 ここに来て、何故か俺が原因で小競り合いが起こってしまった。仲睦まじく見えた柊くんと小和ちゃんが言い合いにまで発展するのはなんと言うか、当事者としてはいたたまれない気持ちだ。仲良くして欲しい。
 可愛い子に大切に思ってもらえるのは少し、いやとても嬉しくはあるんだけどね。

「湊くん、遠征には参加したいか?この返答次第で、今後の人員編成を考える必要があるんだ。俺としては是非君に参加して欲しいんだけど、無理強いはしたくない」

「湊くん、怖いなら無理しなくていいからね!今までいっぱい危ない目にあってきたんだもん。ちょっとくらい休んでも大丈夫だよ」
 
「小和、余計なこと言わないでくれ」

「柊も無理強いはしたくないとか言って、圧力かけてるでしょ。そういうの、卑怯だと思う」

「いつ俺が圧力かけたんだよ」

「俺としては参加して欲しいんだけどって言ってたよ」

「それは圧力じゃない、ただの意見だ」

「はい、屁理屈」

 真の英雄たる器を有するリーダーと、癒しの天使である美少女の争いがヒートアップしていく。卯月さんと澪の口論もそうだが、第三者としてはっきり言わせてもらうと、居心地が悪い。別に悪意があって言っているわけではなく、なんというか、ソワソワしてしまうのだ。
 加えて柊くんと小和ちゃんの火種は間違いなく俺の扱いに関してである。これ以上長引かせても俺の精神にも、時間的にもよろしくないためそろそろ介入させてもらおう。

「2人とも落ち着いて。小和ちゃん、俺としては、キラと同じ意見だよ。遠征に参加させて欲しい。それが結論」

「う、そうなの?」

「うん。でも俺のこと心配してくれてありがとう」

「……うん」

 結論ファーストで話し始め、小和ちゃんに納得してもらう。俺本人に否定されてしまったとあっては、彼女も引き下がらないわけにはいかないみたいだ。勿論小和ちゃんの心配は有難いし、俺の仕事はその心配を杞憂にすることだ。
 前までの俺なら、こんな可愛い子に心配してもらっただけで好きになっちゃってたね。間違いない。

「ありがとう、湊くん。その決断に敬意を」

「全然いいよ。俺のやりたいことだから」

 俺が遠征に関与しないという未来は絶対にない。【悪】を虐殺できる格好の機会を逃すはずかないし、何より澪の妹が気掛かりだ。そもそも、遠征が最悪中止になってしまったとしても、澪を1人で行かせるわけにはいかないため、同行するつもりだった。
 それなのに、遠征が中止になっているわけでもない今、その参加を拒否するつもりは毛頭なかった。
 
「じゃあみんな、結論をまとめるぞ。澪の分身死体が発見され、そのせいでモンスターが近くに潜んでいる可能性を考えなければならなくなった。だから、遠征のメンバーを減らして、体育館の警備にあてたいと思う。遠征は戦力が落ちてしまうことになるが、そこは湊くんという強力なスケットが代わりに入ってくれるから帳消しにできる。寧ろ総戦力は上がってしまうかもな。とにかく、各自常に警戒を怠らないように。これで会議を終える。今日の遠征は2時間後に開始するから準備を進めておいてくれ。では解散!」

 リーダーの総括を一通り見届け、各メンバーは続々と席を立つ。
 ある者は安堵した様子で、ある者は意気消沈した様子で。またある者は特に変わらない様子で。他にも、不安を拭えない表情をしている者もいる。それぞれ会議を経て、下された結論は同じでも、違う胸裏を持っているのだろう。

「……ん、巨乳。今日の遠征はよろしく」

「あ?ああ。よろしく」

 そのうち、特に変わらない様子で席を立った人物の一人、凩深冬こがらしみとが俺の後ろを通り抜けざまに一言呟いていった。
 その呼び方はなんとかなりませんかね。確かにキラは巨乳かもしれないけど、俺は無乳だぞ。

「じゃあ湊くん、体育館に戻ろっか」

「うん、そうだね」

 隣席に腰を落ち着かせていた小和ちゃんがスカートの裾を整えながら言う。
 柊くんにちらりと視線を向けてみると、何やら紙に書き込んでおり業務を続けるみたいだ。声を掛けることも躊躇われるため、俺は小和ちゃんと2人で体育館に向かう。

 歩く度にふわりと揺れる小和ちゃんの黒髪を眺めながら、ふと思案する。

 最初にこのメンバーで澪の分身の死体を確認した時に感じた違和感は結局何だったのだろう、と。
 分身だから、実際の生身の死体と相違があったという話ではない。もっとこう……うーん。

「ダメだ」

 いくら考えても、納得のいく答えは出ない。
 喉に引っかかった魚の小骨のように、解決できないのにジクジクと存在を主張してくる。歯痒いし、もどかしい。
 こういう手合いには深入りしない方がいいかもしれない。時間ばかりが浪費されてしまうからな。不本意ではあるが、忘れてしまうのが手っ取り早いだろう。
 2時間後には遠征も控えているから、余計なことに気を取られる訳にはいかない。

 そう折り合いをつけて、小和ちゃんの残り香漂う道筋を追従する。
 この2時間で何をするべきか。周辺マップの把握、探索ルートの確認、出くわすかもしれないモンスターの予習、挙げればキリがないが、

 何よりも、心の準備をしないとな。

 【悪】を皆殺しにして、弱者を救い出せる遠征が今、始まるのだ。
 体の芯が疼いて、武者震いがして、楽しみで仕方がない。

 待っていろ、世界に不必要なゴミ虫ども。

 

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