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スキル「キャラクターメイキング」で美少女になれる俺は全ての悪を虐殺します

めんたま

雪景色に取り憑くもの



「外じゃ寒いだろ?暖かい場所があるんだ。話はそこに移動しながらにしよう」

 そう提言する柊くんに従い、真っ白な新雪を踏み固めながら俺たちは目的地へと向かう。もっとも俺は車椅子に座っているので雪上を歩く苦労は味わっていないが……。

「小和ちゃん、ごめんね」

「全然、任せて」

 柊くんと同様鼻先を少し赤らめた美少女、小和ちゃんに申し訳なさを伝える。彼女の短めの黒髪は、この白の世界では相対的にくっきりと印象づけられ、より可憐さが際立つ。その微笑みが、混乱している今はありがたい。

「それで、なんでここが異世界なの?見ての通り白義大学もちゃんとあるよ?」

 ここが異世界だと知らされた当初から渦巻いていた疑問をぶつけてみる。異世界なら、世界そのものが違っているはずだ。それなのに、辺りいったいはどこを見ても見慣れた日本。正直、違いが分からない。

「うん、そうだね。大学もあるし、周辺の街もそのままだよ」

「だったら」

「見た目だけはね」

「……?どういうこと?」

 彼の言っている意味がよく理解できない。外観はそのままだけど内観は違うということか?保健センターの内部は特筆すべき違和感はなかったように思う。
 そもそもここが異世界だとして、俺たちはいつ転移したのだろう。転送魔法陣が足元に現れるとか、ゲートのようなものをくぐるとか、トラックに轢かれるとか。物語だと、分岐点の類が示されるはずなのだ。現実だと気付かぬ間に……ということなのか。

「湊くん……仲間の中には、ここは異世界ではなく、あの世なんじゃないかと怯える人もいる」

 柊くんはコートに付着した粉雪を手で払いながら哀情を宿した瞳を揺らす。

 仲間?いや、それより、あの世?

 唐突な可能性に、冷水を浴びせられたような戸惑いを覚える。急になんて突飛な発言をするのだろう。

「……俺たちは死んでるってそう言いたいの?」

「……」

 彼は何も答えない。答えなくないのかもしれない。
 この地が現実世界でも異世界でもなく、天国や極楽浄土、黄泉などの所謂常世とこよである可能性も勿論考慮していた。しかしその蓋然性がいぜんせいは低いだろうとも同時に判断していた。というのも、余りにも現実味を帯びすぎているからだ。この世とあの世に差異はないと言われればそれまでなんだけど。

「俺たちは食事も、水分も取らない」

「……は?」

「それなのに排泄は当然のようにする。この5日間ずっとそうだ」

「何を言ってるの?」

「加えて血も汗も出るし、ストレスで嘔吐する人もいる。食べ物は出ないけど」

「柊く……」

「湊くん」
 
 各々の単語は簡単なのに、それらが意味のなく連ねられたパズルのように思える。脈絡もグチャグチャで、一体なんの話をしているのだろうか。食べない飲まない。何処の誰が?俺たち?

「世界が変わっただけじゃない。俺たち人間もまた在り方が変わってるんだ」

「……」

「どの時点からなのかは分からない。それでも確かに俺たちは……君も含めて、決定的にどこかでたがえた」

 落ち着いて、内容を咀嚼しよう。一気に理解し切ろうとしてはいけない。順を追って。
 柊くんはここが異世界だと言う。加えて、世界だけでなく、そこに生きる俺たち人間さえも付随するように変異してしまった、と。その変異点こそが、技能の発現や鑑定もどき、食事や水分を必要としなくなるチグハグな体質変化なのだと、彼はそう主張しているのだ。

「ここがあの世だと思う人の気持ちも分かるだろ?」

「……にわかには信じられない」

「気持ちは分かる。けど、湊くんも体験しているんだ」

「……?」

「5日間、君は眠っていたと言っただろ?目を覚ました時、点滴は打たれてなかっただろう。そんな状態でどうやって、5日間も生き延びられる?」

「あ」

 言われてみれば確かに。おかしい、おかしかった。人は、数日水分を摂取しないだけで死の危険に陥る。だから、医療において経口摂取……つまり口から食べ物や水を取り入れられない患者には、点滴などを打って直接栄養を身体に送り込むのだ。

「まあ末梢静脈栄養……点滴じゃなくても、経鼻経管栄養って言って、お鼻の穴から管を通すやり方とか、胃ろうっていう胃に直接栄養注入する方法もあるよ。結局医療設備がないから、どれも使えないんだけどね。5日間何の栄養も取れなかった湊くんが、身体の倦怠感しか症状がないっていうのはちょっと考えにくいことなんだよ」

 小和ちゃんが俺の拙い知識に肉付けしてくれる。そう言えば彼女は医学部だったか。キラにそう自己紹介していた記憶がある。顔も性格も良くて、努力家で勉学の才もあるなんて、末恐ろしいとさえ思ってしまう。

「……」

「大分冷えてきたな。目的地まではまだ距離がある。少し急ごうか」

 黙りこくる俺を見て何を思ったのか、柊くんが真っ白に染色された吐息を吐き出しながら歩のスピードを少し速めた。
 急に色々話しすぎたせいで俺が動揺しているのだと、そう気遣ってくれたのかもしれない。感情が錯綜して、出鱈目に絡み合って、当惑する。それが、健常な精神を持つ人間というものだ。正常な思考能力があれば須らくそうなる。
 だけど、俺は。

 とても、腑に落ちていた。

 恐怖や不安も差し置き、食事や水分を必要としない自己存在を受け止め、異世界にいるのだという昂揚も畏れも身に染みながら、何故か得心がいく気持ちが勝っていた。相次ぐ激動に心が破損し、気でも違ったのかもしれない。
 それでも、俺は構わない。

 本当に、わからないことだらけだったんだ。

 分からないままに、何度も殺されかけ、何度も激痛にのた打ち回り、何度も心折られてきた。キラと俺との意識がぶつかり合いアイデンティティに支障をきたし、自分が今何をすべきで、何をしてはいけないのか。目まぐるしい状況に振り回されるがままに痛み付けられ、それでも時は経過を刻み続ける。
 何も、何も、分からなかった。俺がこんな目に合わなければいけないのが、なぜなのか。

 そんな、まるで世界という大きな意志に俺が為す術なく帳尻を合わせられ、ただの現象のように死に行くのが、納得できなかった。できるはずもなかった。

 でも今はどうだろう。まだ全容は分かっていない。それどころか1パーセントも把握できていないかもしれない。だけど、ここがもう違う世界……異世界だと分かったなら、後は俺が進みたいように進むべきだ。叶えたかった夢、【正義】の英雄、キラ・フォートレスのように。
 分からないことは、これから明らかにしていけばいい。そのための人生なんだから。俺に必要だったのは、その人生の土台となるべき知識だったんだ。

 異常、異端、狂人でも結構。あの世?上等。

 前の世界での高杉湊とは明確に異なる自分の思想、人格。俺が本当に高杉湊なのか、定かではない。湊のフリをしているナニかなんじゃないかと、自分を化け物扱いしたくなる。
 でも、いい。俺が高杉湊かどうかなんて、大した問題じゃない。大事なのは、この熱を持つこの俺が、今ここに存在していること。

 痛いのは吐くほど嫌いだし、死ぬのも絶対御免こうむる。モンスターと戦うのは怖いし、正直逃げたい。
 それなのに、この異世界で生きていく事実に抵抗はない。当然だ。たまたま生まれ落ちた世界が物理法則に則った構造で、高層マンションから落下したら死ぬと判明したからといって、なんの問題がある。嫌なら、二階建てのマンションに住めばいい。死なずに落下のスリルを体験したいならバンジージャンプでも、スカイダイビングでもすればいい。

 要は、そういうこと。

 この異世界で俺は過ごしていく。それは決断とか覚悟とか大それたものじゃない。現状を紳士に受け入れる、ただそれだけのことだ。


【正義】を成し【悪】を断罪するのに、世界なんて関係ないのだから。

 
 分厚い白雲に覆われた空を見上げる。空間は降り続ける雪が満たし、世界を染め上げ続ける。どこまでも、どこまでも。
 ふと鼻先に一粒の雪がおちる。それは、空が俺の【正義】に賛同し、礼賛らいさんを惜しまないとそう告げているようで。とても気分が良い。背後の小和ちゃんが気が付かない程度に、自然と口角が吊り上げられてしまった。


*             *             *


 柊くんが目指す目的地は、どうやら体育館であるらしい。というのも、この道の先にはその施設しか存在しないからだ。まあ武道館も隣接されてはいるのだが。
 それならば、目的地が遠いというのも頷ける話。保健センターはキャンパスの中央に建てられているが、体育館はキャンパスの端に位置するからだ。なんでそんな遠くに……とは愚痴りたくなるものの、俺のような意識不明の人間を置いておくなら、少しでも医療器具がある保健センターを選択するのは自然な判断だ。

「あ、そういえばここが異世界だっていう証拠……っていうのかな。要素?はまだあるんだ」

 柊くんが人差し指を上に掲げながらそう話を切り出した。
 むむ、まだあるのか。

「目覚めたばかりの湊くんに情報を伝えすぎるのはあまり良くないかもしれないんだけど……」

「いや、俺は大丈夫だよ」

「いやでも混乱とか……」

「大丈夫」

 凛とした口調で対応する。その俺の姿勢に柊くんは目を丸くする。先程までのあたふたした俺がまだ印象に残っているのだろう。いきなり妙な順応性を発揮するものだから、不審に感じているのだ。だけど、俺は本当にモーマンタイ。

「……やっぱキラさんと面影被るなぁ」

「ん?なんて?」

「いや、なんでもない。まあ君がそう言うなら、知る限りの情報を教えようかな」

 前半は声が雪に吸収されて上手く聞き取れなかったが、大した内容ではなかったらしい。とにかく彼は根負けしたようだ。俺の威風堂々とした態度の前にひれ伏すが良い。……いや、俺を救ってくれた英雄に冗談でもこの物言いは良くない。何を尊大になってるんだ。異世界を受け入れても、俺は何も変わらない無力なままだ。肝に銘じろ。

「俺たちが向かってるのは体育館なんだけど、そこには約500人の仲間がいる」

「500?随分と大所帯だね」

「……そうでもない。この500人は、この5日間で大学周辺からこの大学に自力で避難してくれた人、俺たちが近隣から救出した人、元々この大学に居た人だ。……当然、救えなかった命もたくさんある」

 彼は痛ましいくらいに唇を噛み締める。俺が寝ていた5日間で想像だにできない修羅場がいくつもあったのだろう。流石にそれを根掘り葉掘り聞くほど俺も無遠慮な人間じゃない。

「さっきモンスターが出るって言ってたよね?ホブ・ゴブリンとか、マジック・ゴブリンが出るの?」

「ああそいつらも出没する。まだ全部明らかになったわけじゃないんだが、奴らは1日に数回、空間を引き裂いてどこかに現れる。回数も、場所もランダムだ」

「あの大学ホールの空間の裂け目みたいに?」

「そうだ。俺たちがいない場所にも現れるらしい。街を徘徊するモンスターの数が日に日に増している」

 なんと言うか、思ったよりマズイ状況なのかもしれない。あんな化け物たちが跋扈する世界なのかここは。なんて地獄だよそれは。気軽に出歩く真似も出来ないのか。

「最近は、無尽蔵に増える奴らを間引くために、俺は戦える仲間を募って街でモンスター狩りをしてるんだ。建物に引き篭って助けを待つ人々の救助も並行してね」

 おいおい、勇者すぎないか?

 柊くんは、毎日命懸けの遠征をしていると。言葉ではその一言で済む。しかしその内容は狂気の沙汰だ。どこの誰が、見知らぬ他人のために、凶暴で醜悪なモンスターに立ち向かえる?明日ともしれない命なのに、平然とやってのけ、この場に立っている。老齢の軍人でもない、ただの一般の青年が。それも異世界転移なんていう超常現象に巻き込まれた直後に。

 ああ、なんて良い【正義】なんだ。惚れ惚れしてしまう。『真の英雄』とは、我が意を得たり。

「……そんな状況なのに、国はなにやってるの?全部自衛隊に任せて、保護してもらった方がいいんじゃない?」

「さっき頼れないって言っただろ?それで、まさにそこが異世界たる要素なんだ」

「と言うと?」

「……人間は、この異世界……少なくともこの近辺には、満15歳から19歳までの少年少女しか存在しない。それ以下の子供も、それ以上の大人もいない。だから、交番や警察署に行っても大抵はもぬけの殻だ。自衛隊にも期待できない。総理大臣も政治家もいないし、そもそも自衛官自体殆どいないからね」

「……ほ、ほお」

 ここに来て衝撃の事実。思わず頬が引き攣ってしまう。やはり段階を踏んで説明してもらうべきだったかもしれない。情報を整理する時間が欲しい。

「……」

 つまり、特定の年齢層のみの超大規模集団転移が有力説……なのか?異世界転移自体が信じられない現象なのは念頭に置いておくとして、年齢指定が加味されていると。その年齢の範囲内の人間じゃないと、転移資格が得られない、と。

 ……いや、絶対に有り得ない。

 異世界転移が時空間異常によるワープ現象だというのはまだ理解出来る。モンスターも技能も食事不要の体質変化も、その世界固有の普遍的法則に従った強制改変なのだというのもまだ分かる。
 だが、年齢層が限定されているというのは納得しかねる。仮に異世界転移が自然現象なんだとするなら、年齢なんていう人間が定めた人の老朽度など関係あるはずがない。こっちの都合に自然が合わせるわけがない。にも関わらず、まるでプログラミングされたように年齢層が決まっているとするならば。

 そこには、意図が感じられる。それも人為的な。

 勿論、そんな世界を裏で牛耳っているやつがいる的な陰謀論じみた持論をこの場で展開する気はないけど……。疑惑が有るという点だけ、心の片隅に置いておこうか。ただの考えすぎという場合もある、というかその場合の方が絶対に多い。そんな小手先の思考だけで湧いて出た可能性など、無駄に場を荒らすだけだから話さない方がいい。

「……ってことは、体育館にいる500人の仲間っていうのも?」

 だから、この疑惑にはこれ以上立ち入らない。それは今すべきじゃないから。

「その通り。全員が15歳から19歳の歳だよ。だから、俺たちが最上級生ってことだ」

 そうか、俺たちは丁度範囲の際の年代か。なんというか、難儀だな。責任感や使命感を感じざるを得ない、損な役回りに抜擢されたと。ただ弱者達を守るのも【正義】の役目。その点で言えば、僥倖だ。

 そう自らの責務を滾らせていると、黄土色に塗装され、屋根に雪が積もっている大きな体育館が見えてきた。少しだけ懐かしい。というのも、体育館を利用する機会は1回生の体育の講義でしかなかったため、2回生になった今体育館どころかその周辺に近寄ることすらないのだ。

「そろそろ着くんだけど……」

 俺が過去の記憶を懐かしんでいると、柊くんが到着目前で何故か立ち止まった。振り返った彼のその表情にはどこか迷いが感じられる。眉間に指を押し当て、何か思惑っているようだ。

「どうしたの?」

 取り敢えず先を促してみる。

「うーん……言おうか言わまいか……」

「言ってあげた方がいいと思うよ。怖がらせちゃうし」

「言っても怖くないか?」

「それでも何も知らずに気付いちゃうよりマシだよ」

 何かを躊躇う柊くんに、小和ちゃんが背中を後押しする。彼女は内容に当たりがついているみたいだ。俺としてもそこまでこれみよがしに悩まれると気になってしまうので、是非思い切ってほしいものだ。

「はぁ……そうだよな」

 真っ白なため息を吐きながら、俺が乗る車椅子に歩み寄ってくる。嫌な予感というか、不穏な雰囲気を醸し出さないでほしい。性分で緊張してしまうのだ。
 柊くんは俺の目線よりも低くなるよう、あたかも大人が幼児に目線の高さを合わせるみたいに膝を折り、話しかけてきた。

「湊くん、これからあるものを見せるんだけど、きっと……かなり驚くと思う。それに恐怖も。けど、心配しないでくれ。すぐにどうこうなるものじゃないから、たぶん」

「え?う、うん」

 何その含みがある言い方。いや含みどころか、含まれすぎてなんか色々溢れちゃってるよ?不信感とか、不安とか。
 こちとら、ここが極寒じゃなかったら、汗ダラダラだよ今頃。あの英雄がこうも神経質になるなんて、憂いが掻き立てられる。

 柊くん自身も緊張した面持ちで、意を決したようにある方向を指指す。その指向をなぞるように延長線のさらに先まで視線を伸ばす。その指は、体育館の少し右を逸れて、さらに彼方を指していた。未だに振り続ける雪のせいで、空間が白のベールで覆われたように白く濁っている。

「何か……大きな影が見えないか?」

「影?」

 目を凝らしてみる。どうにも雪という無数の小さな障害物が視界の行く手を阻む。もっともこの気温を考えれば吹雪じゃないだけマシだと言えなくもないが……。

「お?」

 体育館の向こう側……数キロから10キロくらいの距離に薄らと黒い影を捉えた。ドーム型のそれは、距離が離れているということもあり正確な大きさはとても捕捉できないが、巨大な、それこそドーム球場が建立されていると断ずるのに抵抗がない。

 ドーム球場……?

 そんなものは、この大学から目視できる範囲内に無かったはずだけど。それに、都市部でもないこの大学周辺には住宅街や飲食街が立ち並ぶのみで、あんなに目立つ建物は流石に……。だとすればあの影は一体?



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玄武げんぶ

魔魂まこん量 「■■■」
・階位 「■■■」

 四■とし■、この■■の調■を■■よ■■じ■■た■■。■■■神、ま■■■■■と■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。

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「え?」

 瞬間、思考に羅列されたのは知識としての体をなしてない不完全な知識だった。所々どころかその大部分が虫食いで穴が開いているようで、これが知識と呼べる代物なのかどうかも定かではない。これは知らないと同義だ。
 この、知らないはずの知識を無理やり回想させるやり口は得てして突如捩じ込んでくる。そう、これは『鑑定』もどきだ。

 ホブ・ゴブリン、マジック・ゴブリン。
 東雲柊、七瀬小和。
 そして、俺。

 これまでの傾向からして鑑定もどきが発動されてしまうのは、何か生き物を見て、その正体を探る意向を示した時だった。未知の生物に邂逅した際のある種のお助けシステムのようなもの。そういう仕組みなんだと、煮え切らないながらも理解している。

 そう鑑定もどきは生き物にしか適用されないはずなんだ。

 だから、俺の視界には生き物がいるはずで……加えてその生き物の実態を模索するような思考をしたはずで……。その過程を踏んで鑑定もどきが偶発的に作動した、のだと……考えるのが自然。


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玄武げんぶ

魔魂まこん量 「■■■」
・階位 「■■■」

 四■とし■、この■■の調■を■■よ■■じ■■た■■。■■■神、ま■■■■■と■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。

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「まじかよ」

 俺は一旦考えることを諦めて、ただそう呟いた。思考放棄でもしなければ、やってられなかった。それは防衛本能による逃避行動かもしれない。
 不思議と驚きも恐怖もしなかったが、畏怖に近い感情を抱いているのは自覚していた。
 
 

*             *            *



「さ、もう体育館の門に着くぞ。目覚めたばかりなのに遠くまで連れてきてすまん」

 あの後5分程度かけて、俺たちは目的地に辿り着いていた。保健センターからの道筋は雪で埋もれ、車椅子に座る俺という存在が重りになってしまったせいもあり、随分と時間がかかってしまった。無論、情報提供を受けながらの道中だったため、それに時間を割かれたという要因は否めない。

「いや俺は小和ちゃんに車椅子押してもらってるから大丈夫だけど……。それより、本当にあのバカでかい怪獣みたいな亀はほっといていいの?」

 今は体育館が目いっぱいに収まっているためその姿を確認できないが、この遥か後方に玄武とやらがまだ我が物顔で入り浸っているはずなのだ。
 あのドーム型といい、玄武という名前といい、あの影の正体は大きな亀型モンスターで確定だろう。玄武とは、中国の北方を守護する四神のうちの一体だ。その姿は亀で、蛇の尾を持つ。伝承上の動物だったはずだけど、もうそこには突っ込まない。特筆すべきはあの体躯の大きさだろう。目算で体長数百メートル、体高数十メートルという値だ。歴史上最大の生物はシロナガスクジラで、最大個体でも30メートルくらいだった。その何倍だよ、ともはや辟易する。

「俺も最初は逃げ出そうと思ったんだけど、どうにもあちらさんは静観を決め込んでるっぽいんだ。500人を連れての大脱出はリスクが高いし、行くあても無い。害がないなら、まあすぐにこっちからアクション起こす必要もないかなって」

 ……まあ、確かに。心情としては一刻も早くおさらばしたいところだが、実情はそう上手くは運ばれてくれない。現状、柊くんの判断は間違っていない。俺も決断の場に居合わせていれば、支持しただろう。
 ただ、それは玄武の気分次第で全てが一変する事を指す。賭けみたいなもんだ。それも分が悪い方の。柊くんもそれは考慮しているだろうが。どうにも不安が拭えない。

「……言いたいことは分かる。脱出の目処が立ったらすぐにでも決行するつもりだよ」

「……うん、それがいいと思う。ところで玄武はいつからあそこに?」
 
「分からない。気付けばもういたんだ。初めて見たのは4日前かな」

「仲間……のみんなも玄武のことは」

「当然知っている。その上で納得して滞在してくれてるんだ。気が気じゃないだろうけどね」

 そう言って、彼は自虐的に笑う。紆余曲折を経て、放置という形に落ち着いたのだろう。こんな俺が考え付く案など、もう全て出尽くして、分析して、それで切り捨てられているはずだ。ならばぽっと出の俺がしゃしゃり出る場面じゃない。尊重して、支えるべきだ。玄武の件は俺の中でも一旦保留にしておこう。もちろん警戒は怠らないが。

 そんなことを話しながら門に近付くと、2人の人物が両脇に陣取っているのが見えた。あの布陣といい場所といい、いわゆる門番だろうか。

「リーダーお疲れ様です!」

「お疲れ様です!」

「お疲れ〜」

「七瀬さんもお疲れ様です!」

「お疲れ様です!」

「お疲れ様。寒いね〜」

 見たところ高校生か大学生くらいの年齢だろうか。この凍え死ぬような寒さの中、若いのによくやる……って、この世界にはその年齢層しかいないんだった。
 2人ともガッシリとしたガタイを惜しげも無く晒している。身長も180近くありそうだし、前の世界なら俺は間違いなくビビり散らかしてたね。両方坊主なのは、なんなんだろう。野球部?

 ……というか。

「リーダー?」

「あはは……。年齢が1番上だから率先して動いてたんだけど……いつの間にかそう呼ばれるようになっちゃって」

 柊くんがリーダーか。まあ行動力もあるし、付いていきたくなるカリスマ性も持ち合わせている。顔もいいしスタイルもモデルみたいだし、頭も切れそうだし、性格も真面目で、さらに物腰が柔らかく誰でも接しやすそうだしね。
 あれ?欠点どこ?
 
たけるくんとひかるくんはあと1時間で交代だったよな?寒いけどあと少し頑張ってくれ。辛くなったら俺が代役を担うからいつでも言って」

 その言葉を区切りとして、俺達は門番と分かれ黒く重厚な門をくぐり抜ける。

 実際、彼ほど主導者に向いている気質がある人材はほとんど居ないだろう。信頼が厚く、礼儀正しく、皆を牽引するべくして生まれ落ちた人間だと言われても違和感がない。当の本人は柄じゃないと気恥しがってはいるが、門番の2人を見れば察せる。柊くんはここになくてはならない存在なのだ。代わりなど誰にも務まらない。

 あ、俺のリーダー論はさておき。さっきの門番2人、鑑定もどきすればよかった。すっかり意識から抜け落ちていた。まああの2人……健くんと光くんだったかな、彼らとこれっきりということはないだろうし、次に会った時にでも試してみるか。

「あー!東雲リーダーぁ、探しましたよぉ〜」

 門を抜け体育館の敷地内へと足を踏み入れ、いざ体育館の中へというタイミングで、幼く甘ったるい女性の声がかけられた。それはもう甘々。砂糖をふんだんに使ってるくらいに。

「どこに行ってたんですかぁ〜。あ、七瀬さんこんにちは!」

「苺ちゃんこんにちは」

 発声源の方へと耳目をそば立てると、小動物のように小柄で、学校の制服の上になんの素材か分からないモコモコした生地のコートに身を包んだ少女が立腹した様子で立っていた。焦げ茶色の髪をサイドテールに纏め、頬を膨らませている。


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『木崎苺《きさきいちご》』(状態:魔力変質)

・魔魂量「16」
・技能「温熱操作」

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 む。
 首尾よく見知らぬ人物が現れたため、これ幸いに鑑定もどきを使ってみたんだけど……。この人も技能を持ってるのか。温熱操作ってなんか凄い強そうじゃないか?手のひらから炎出せるのかな。いやそれはキラもできるか。

「お、苺。いいところに来た。湊くんの所へ行ってたんだ」

「湊くん……?」

「ほら、保健センターの部屋を暖めてもらっただろ?そこで療養してた人だよ」

「あぁー!……その人のために苺は暖めさせられたってことですかぁ」

 俺が関与しないままに俺の話を聞かされているが、何やら聞き逃せない内容があった気がする。

「湊くん、この子は木崎苺。16歳の高校生だよ。4日前に街で保護したんだ」

「……初めまして。部屋を暖めたというのは?」

「ある方法で暖めたって言っただろ?電気が使えないし暖房もつかないからね。この子のスキルの力を借りたんだ」

 なるほど。当初部屋が暖かかったのは暖房が機能しているおかげかと思っていたが、そういうロジックだったか。温熱操作……だったか?それを使って、部屋の気温を上昇させていた、と。
 この低気温の中眠ると、布団にくるまっていたとしても余裕で凍死しそうだからな。言うなれば恩人とも呼べそうな人物ではあるのだが。

 その恩人様は、車椅子に座る俺を品定めするように足の指先から頭の頂点まで、ねぶるように視線をはわせていた。とても良い気分とは言えないが、よもや恩人に向かって「不快だから見るな」とは言えない。黙って観察され続けるのが吉だろう。

「……ふーん。パッとしない人ですねぇ。この人のためにわざわざ個室を用意してたんですかぁ?」

 ……。
 俺は仏。俺は仏。こんな子供に揶揄されようとも、俺の心は凪のように、波風立てず穏やかな水面みなもを保つのだ。大人だからね。そう、大人だからね。

「あはは……彼はこれでもすごい人なんだ」

「湊くんはこれでもすごく強いんだよ!」

 柊くんと小和ちゃん2人揃って俺をこれでもってなんだよ。両方俺の命の恩人である事は疑いようがないが、その表現には異議を唱えたい。これでも必死に生きてるんだぞ。あなた達がつなぎ止めてくれた命なんだぞ。

「……ってことは、スキル持ちですかぁ?」

「ああそうだ。それもかなり強力だ」

「スキル持ち……?」

 聞き慣れない言葉に、思わず疑問符を口に出してしまう。そういえば先程の会話でもスキルという語句が出ていた覚えがある。

「スキルっていうのは技能のことだよ。『技能』じゃ分かりにくいから、誰かが『スキル』って言い出したのがきっかけなの。『スキル持ち』は要するに、柊や湊くん、苺ちゃん、私みたいに技能が発現してる人のことを言うんだよ」

 俺の疑問をいち早く察したのか、小和ちゃんが補足説明を行ってくれた。こういう時に気が利く彼女の存在は非常に助かる。そのちょっと迫力がある献身は少し抑えて欲しくはあるのだけど。

「スキル持ちって珍しいの?」

「珍しいな。今500人の仲間のうち、スキル持ちは大体50人。1割くらいだな」

「思ったより少ない」

 柊くんと小和ちゃんが持ってるものだから、全員発現しているのだと思っていた。そんなに貴重なんだな。そもそもスキルを持っている人と持っていない人の差異は何なんだろうか。運……ではない気がする。俺がキャラクターメイキングを取得した時は、確かホブ・ゴブリンに殺されかけていた。魂を焼き焦がすほどの尋常ではない憤怒で肉体が壊れると確信した瞬間にはもうキラ・フォートレスに成っていたのだ。

 うーんファンタジーに言えば、鍵は『怒り』とか?でもこの柊くん、小和ちゃん、木崎さんの3人があんな病的で狂気に満ちた怒りを持ったのかと聞かれれば……首を振らざるを得ないだろう。結局、何もわからないということだ。

「どういうスキル持ってるのか、"見て"もいいですかぁ?」

「見て……えっ?あー、いいよ」

 びっくりした、鑑定もどきのことか。というか、あれ?もしかして鑑定もどきって事前申告制?勝手に見ちゃったらだめ?

 確かに冷静に鑑みると、鑑定もどきを使用してしまうと、相手の本名が瞬時に暴かれる。それは世間一般のマナーからしてみれば、不躾もいいところだろう。任意で鑑定もどきの手中から逃れられるならまだしも、これは不可避である可能性が高い。相手が自分を知りたいと念じてしまえば、為す術なく個人情報を引き渡すしかないのだ。

 やばい、ごく自然に木崎さんを鑑定もどきしてしまった。鑑定もどきから得られた情報をもとに不用意な発言をしなくて本当に良かった。今度からは節度を持って行動しよう。

「ふむふむ。キャラクターメイキング……ってなんですかぁ?」

「えっと、俺の体がとあるゲームキャラクターに変身するんだ」

「へぇ面白そうですねぇ。因みに何に変身するんですかぁ?」

 この子はなんて答えづらい質問をぶつけてくるのだろうか。そりゃ男同士なら、俺美少女になれるよーん!って言っちゃえばいいんだけど、女の子……それも初対面の女子高生にあけすけにそんなこと言えない。ここは控え目で、且つ嘘のない程度に返すしかない。

「……女の子だけど」

「え?」

「いやだから女の子に変身するんだよ」

「………………そう、ですか」

 まずい。
 決定的に間違えた気がする。いや、絶対に間違えた。木崎さんのビッチ臭香る男に媚びる猫なで声が地の底を這う低音ボイスに変わってしまった。その部屋の四隅に溜まったホコリを見るような眼差しも相俟って、もう精神がゴリゴリ削られる。俺の性格に変化が訪れて他者とコミュニケーションを図れるようになったとはいえ、この仕打ちはキツすぎる。誰か助けてください。

「……じゃあ寒いし体育館へ入ろうか」

「……そうだね!」
 
 しかし、英雄と天使は俺を庇いはしない。彼らにとってもこの話題は触れづらいものだったのかもしれない。2人の分け隔てない優しさをもってしても、俺の美少女化という現象を正当なものだと擁護できない。だって、気持ち悪いもん。
 そういえば俺はキラ・フォートレス以外に変身することはできないのだろうか。いや彼女を愛してるから、彼女以外に変身なんて極力しないよ?でも、ほらあんまり気持ち悪がられたくないじゃん。

 その辺のキャラクターメイキングというスキルの細部分析もきちんと行っていこう。

 ……女の子にドン引きされるのって、すごい心に来るんだね。知らなかった。

 500人の仲間が過ごすという体育館。俺たちの拠点となっている場所。玄武という化け物が巣食い、モンスターが蔓延る闘乱の世界。鬼が出るか蛇が出るか。
 寒威で鼻を刺激され、鼻をすすりながら館内へと進み行く。

 どこからか、怪物の唸り声が聞こえた気がした。

 

 

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