偽装結婚を偽装してみた
Chapter.103
少し体調が回復したひぃなを警察に連れて行く。事情聴取中のひぃなを待合室で待ちながら、堀河に簡潔にメッセを送る。すぐに既読がつくが、返信がない。
きっと自分の中に渦巻く感情をうまく言語化出来ないのだろう。
とにかく、黒岩の身柄が警察に確保されたことと、ひぃなが無事なので安心して良い旨を取り急ぎ連絡して、アプリを閉じた。
警察には前もって相談、報告していたこともあり、対応はスムーズだった。
ひぃな自身、知っていることが少ないから、事情聴取と言ってもあまり話せることはないだろう。
攷斗の脳内で、一連の出来事が自動再生される。
今日は朝から晴れていて、ひぃなに頼まれた布団を干していた。
ひぃなが帰宅してから取り込もうと思っていたのに、スコールのような夕立が窓を叩き始めた。
まだ時間も早いし、いつもの帰宅時間までは余裕があったので慌ててバルコニーへ向かう。
さして重くはない掛け布団だが、嵩が張り、多少てこずった。
二人分の布団を取り込み、洗面所から廊下へ出るドアを開けた途端、玄関から地を這うような男の怒号が聞こえた。
ぞわりと身の毛がよだつ。
考えるよりも先に、足が玄関に向かって駆け出していた。
(もう少し早く気付いていれば――)
大きな悔恨が攷斗を襲う。
ひぃなが誘拐されなかったことだけが唯一の救いだ。
「棚井さん」
個室から女性の警察官が出てきて攷斗に声をかける。
「すみません。奥様が体調を崩されて……」
「はい」
立ち上がって個室へ入ると、もう一人の女性警察官に身体を支えられ、ひぃなが辛そうにしていた。
「ありがとうございます」警察官に声をかけ「ひな」呼び掛けて、肩を抱き寄せた。
「お辛いときにすみません」
「とんでもないです」立てる? 顔を覗き込んで問う。小さくうなずいたのを確認して「もう大丈夫ですか?」帰っていいか確認する。
「はい。お疲れのところ申し訳ございません。ご協力ありがとうございます」
「はい。ひな、帰ろう」
抱きかかえるようにして立ち上がらせ、歩を進める。
玄関口まで付き添って来た女性警察官が「また、ご協力をお願いするかもしれないのですが……」申し訳なさそうに口を開いた。
「はい。妻はちょっと、難しいかもしれませんが……」
「はい。任意でかまいませんので」
「わかりました。そのときはご連絡いただければ幸いです。今日はありがとうございました」
警察署の駐車場で待っていた外間と桐谷の車で帰宅する。
後部座席にひぃなを先に乗せ、攷斗の膝枕で横たわらせた。繋いだ手がまだ冷たい。
外間の迅速かつ丁寧な運転で、マンションの地下駐車場へ到着した。
「付き添います」
桐谷と外間が申し出たので承諾して
「揺れるかもだけど、ちょっと我慢ね」
車を降りたところで、攷斗がひぃなを抱きかかえる。
地下駐車場から自宅前まで先導する外間が、依頼時に預けた鍵でドアを開けた。
「中も確認します」
先に桐谷が玄関へ入る。
「うん。あ。ごめん、靴……」
「あ、はい。失礼します」
ひぃなの靴を脱がせて玄関に置き、内側から鍵を閉めた。外間はドアの外で安全確認をしながら待機している。
「リビング、安全です」
「ありがとう」
桐谷が室内の全ての部屋とクロゼットなどの人が入れる広さのある個室を確認してる間に、攷斗はソファにひぃなを横たわらせた。
「全室無人。安全を確認しました」
「ありがとう。うちの鍵、もう少し持っててください」
「はい。念のため、今日も警護を続けます」
「うん、助かります。お願いします」
少しだけ待ってて、とひぃなに声をかけて、玄関先まで桐谷を送る。外間にも礼を言って、鍵とドアチェーンをかけ、冷蔵庫に寄ってひぃなのところへ戻った。
「飲む? 飲めそう?」
ひぃながいつも飲んでいる、貧血対策ドリンクを見せる。
うなずいたのを確認して、紙パックにストローを刺した。ひぃなを抱き起こして隣に座り、支えになる。
「はい」
両手で紙パックを受け取って、少しずつ飲み下すと、
「……ごめんね……?」
少し落ち着いた様子で、ひぃながつぶやいた。
「謝るのは俺のほうだよ。色々勝手に、ごめん」
攷斗に寄り掛かったまま、ひぃなが緩やかに首を振る。
「社長が、疲れてるだろうからしばらくゆっくりしてね、って。特別休暇扱いにするって」
「うん」
自力で身体を支えようとしたひぃなに、
「ずっと寄り掛かってていいよ。つらいでしょ?」
言って、肩を抱き寄せた。
「まだ冷たいね」
頬に触れるとヒヤリとしている。
ひぃなは特に抵抗も委縮もせず、攷斗の温もりを受け入れている。
「ごはん食べられそう?」
ひぃなが首を横に振る。
「お風呂は?」
もう一度、首を横に振る。イヤイヤ期の子供のようだ。
「そっか」
可愛らしくて思わず微笑んでしまう。
「じゃあ、もう寝よっか」
「うん……」
何かを言いたげに、攷斗の肩口にひぃなが頬をすり寄せた。
「まだこわい?」
今度は、縦に小さくうなずいた。
「……一緒に…寝る……?」
恐る恐る聞いてみる。
「……………」
ひぃなはしばらく考えて、うん。と、消え入りそうな声で答えた。
「……俺の部屋でいい?」
問いかけると、ひぃなはもう一度うなずいて、意思表示をした。
「うん。じゃあ、行こう。歩ける?」
「うん……」
ひぃなの手を取って誘導する。指先はまだ氷のような冷たさだ。ベッドに座らせてクロゼットをあさり、自分の部屋着を取り出した。
「これ、着替えられる?」
「うん……」
「着替え終わった頃に声かけるね。ちょっと、色々見て回ってくる」
「ん……」
服を受け取るひぃなを確認して、ドアを開けたまま部屋を出る。
きっと自分の中に渦巻く感情をうまく言語化出来ないのだろう。
とにかく、黒岩の身柄が警察に確保されたことと、ひぃなが無事なので安心して良い旨を取り急ぎ連絡して、アプリを閉じた。
警察には前もって相談、報告していたこともあり、対応はスムーズだった。
ひぃな自身、知っていることが少ないから、事情聴取と言ってもあまり話せることはないだろう。
攷斗の脳内で、一連の出来事が自動再生される。
今日は朝から晴れていて、ひぃなに頼まれた布団を干していた。
ひぃなが帰宅してから取り込もうと思っていたのに、スコールのような夕立が窓を叩き始めた。
まだ時間も早いし、いつもの帰宅時間までは余裕があったので慌ててバルコニーへ向かう。
さして重くはない掛け布団だが、嵩が張り、多少てこずった。
二人分の布団を取り込み、洗面所から廊下へ出るドアを開けた途端、玄関から地を這うような男の怒号が聞こえた。
ぞわりと身の毛がよだつ。
考えるよりも先に、足が玄関に向かって駆け出していた。
(もう少し早く気付いていれば――)
大きな悔恨が攷斗を襲う。
ひぃなが誘拐されなかったことだけが唯一の救いだ。
「棚井さん」
個室から女性の警察官が出てきて攷斗に声をかける。
「すみません。奥様が体調を崩されて……」
「はい」
立ち上がって個室へ入ると、もう一人の女性警察官に身体を支えられ、ひぃなが辛そうにしていた。
「ありがとうございます」警察官に声をかけ「ひな」呼び掛けて、肩を抱き寄せた。
「お辛いときにすみません」
「とんでもないです」立てる? 顔を覗き込んで問う。小さくうなずいたのを確認して「もう大丈夫ですか?」帰っていいか確認する。
「はい。お疲れのところ申し訳ございません。ご協力ありがとうございます」
「はい。ひな、帰ろう」
抱きかかえるようにして立ち上がらせ、歩を進める。
玄関口まで付き添って来た女性警察官が「また、ご協力をお願いするかもしれないのですが……」申し訳なさそうに口を開いた。
「はい。妻はちょっと、難しいかもしれませんが……」
「はい。任意でかまいませんので」
「わかりました。そのときはご連絡いただければ幸いです。今日はありがとうございました」
警察署の駐車場で待っていた外間と桐谷の車で帰宅する。
後部座席にひぃなを先に乗せ、攷斗の膝枕で横たわらせた。繋いだ手がまだ冷たい。
外間の迅速かつ丁寧な運転で、マンションの地下駐車場へ到着した。
「付き添います」
桐谷と外間が申し出たので承諾して
「揺れるかもだけど、ちょっと我慢ね」
車を降りたところで、攷斗がひぃなを抱きかかえる。
地下駐車場から自宅前まで先導する外間が、依頼時に預けた鍵でドアを開けた。
「中も確認します」
先に桐谷が玄関へ入る。
「うん。あ。ごめん、靴……」
「あ、はい。失礼します」
ひぃなの靴を脱がせて玄関に置き、内側から鍵を閉めた。外間はドアの外で安全確認をしながら待機している。
「リビング、安全です」
「ありがとう」
桐谷が室内の全ての部屋とクロゼットなどの人が入れる広さのある個室を確認してる間に、攷斗はソファにひぃなを横たわらせた。
「全室無人。安全を確認しました」
「ありがとう。うちの鍵、もう少し持っててください」
「はい。念のため、今日も警護を続けます」
「うん、助かります。お願いします」
少しだけ待ってて、とひぃなに声をかけて、玄関先まで桐谷を送る。外間にも礼を言って、鍵とドアチェーンをかけ、冷蔵庫に寄ってひぃなのところへ戻った。
「飲む? 飲めそう?」
ひぃながいつも飲んでいる、貧血対策ドリンクを見せる。
うなずいたのを確認して、紙パックにストローを刺した。ひぃなを抱き起こして隣に座り、支えになる。
「はい」
両手で紙パックを受け取って、少しずつ飲み下すと、
「……ごめんね……?」
少し落ち着いた様子で、ひぃながつぶやいた。
「謝るのは俺のほうだよ。色々勝手に、ごめん」
攷斗に寄り掛かったまま、ひぃなが緩やかに首を振る。
「社長が、疲れてるだろうからしばらくゆっくりしてね、って。特別休暇扱いにするって」
「うん」
自力で身体を支えようとしたひぃなに、
「ずっと寄り掛かってていいよ。つらいでしょ?」
言って、肩を抱き寄せた。
「まだ冷たいね」
頬に触れるとヒヤリとしている。
ひぃなは特に抵抗も委縮もせず、攷斗の温もりを受け入れている。
「ごはん食べられそう?」
ひぃなが首を横に振る。
「お風呂は?」
もう一度、首を横に振る。イヤイヤ期の子供のようだ。
「そっか」
可愛らしくて思わず微笑んでしまう。
「じゃあ、もう寝よっか」
「うん……」
何かを言いたげに、攷斗の肩口にひぃなが頬をすり寄せた。
「まだこわい?」
今度は、縦に小さくうなずいた。
「……一緒に…寝る……?」
恐る恐る聞いてみる。
「……………」
ひぃなはしばらく考えて、うん。と、消え入りそうな声で答えた。
「……俺の部屋でいい?」
問いかけると、ひぃなはもう一度うなずいて、意思表示をした。
「うん。じゃあ、行こう。歩ける?」
「うん……」
ひぃなの手を取って誘導する。指先はまだ氷のような冷たさだ。ベッドに座らせてクロゼットをあさり、自分の部屋着を取り出した。
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