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偽装結婚を偽装してみた

小海音かなた

Chapter.98

 週明けの朝、ひぃなと一緒に朝食を作る。後片付けは攷斗が買って出て、仕事へ向かうひぃなをエレベーター前まで見送る。
 本当は――
 ひぃなが階下へ移動したのを確認すると、それまで浮かべていた笑顔が消えた。
 ジーンズの後ろポケットに入れていたスマホを取り出して、いつものようにメールで報告を入れる。
 ひぃながマンションを出たら、攷斗に出来ることはないからだ。
 マンションの出入り口付近では、護衛がひぃなの安全を確保するため待機している。しかしひぃなはそのことを知らないので、彼女からしたら別の誰かに見はられている感覚があるかもしれない。
 一方、堀河から転送されてくる黒岩の写真の顔は日に日に影を帯びている。
 早くどうにかしたくても、行動に移されないから何も出来ない。
 ただ見つめているだけ。
 そう言われたら引き下がるしかない“証拠”だけがどんどん増えていく。じりじりと焦燥感が押し寄せてくる。
 何も言ってくれないひぃなに、寂しさも覚える。
(きっと、また迷惑かけたくないとか思ってるんだろうな……)
 予想はつくが、湧き出る気持ちを抑えることは出来ない。
 攷斗は一人自室に戻り、仕事を開始する。
 社内への連絡はメールや電話、商談はビデオ通話で事足りる。海外の企業とやりとりをする際はそれらの通信が主なので、特に不便もない。
 デザイン画も、タブレットで作成をして社内クラウドにパスワード付きでアップロードすれば良い。繁忙期でもない限り、出社しなくても仕事は出来る。
 しかしそれにも限界がある。
 ひぃなを最優先したいのはやまやまだが、数十名の社員を抱える身としては、いつまでも在宅勤務をしているわけにもいかない。
 新作発表会の予定も決まっているので、その頃には自宅待機が出来なくなる。むしろ、一度出社したら帰宅出来るかどうかさえ怪しい。
(あと一ヶ月半……)
 スケジュールを計算して出したその期間。そんな長い間、ひぃなを危険にさらすわけにいはいかない。
(もう、限界か……?)
 仕事とひぃなのことが脳内に渦巻いて、業務を進めながら攷斗が頭を悩ませた。
 事態は膠着状態のまま、一ヶ月が経とうとしている。

* * *

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