偽装結婚を偽装してみた
Chapter.96
「ただいまー」
いつものように、誰もいない部屋に声をかけた。はずだった。
「おかえりー」
リビングへ続く廊下から、攷斗が歩いてくる。
「あれ? ただいま。今日早かったんだね」
「うん。しばらくはこっちで作業しようかなと思って」
「そうなの? なにかあった?」
「ん? 気分転換」
「そう。何か手伝えることあったら教えてね」
「うん、ありがとう。あ、ごめん。さっき帰ってきたばっかだから、夕飯のこととか何もしてないわ」
「大丈夫だよ。お仕事優先してください」
「ごめん。ありがとう」
「うん。この先もおうちでお仕事のときも気にしないで大丈夫だからね?」
「うん。でも、手伝えることあったら教えてね」
と攷斗が言い終わらないうちに、ひぃながくすくす笑い出した。
「ん? なんか変なこと言った?」
「ううん? 二人で同じこと言ってるなって思って」
「確かに」
攷斗もつられて笑い出す。
この笑顔を守りたい。
日々増していくその想いは、堀河からの報告でより強くなっていた。
* * *
攷斗のスマホには、私設SPからの定期連絡が入る。
すぐに対応出来るように自宅で仕事をしているが、正直気が気ではない。車で送迎したいくらいだが、ひぃながそれをよしとするとは思えない。
それに、ひぃなにも黒岩にも、危険を察知した人間がいることを知られたくなかった。
あるとき、画像フォルダに溜まってしまった黒岩の写真を見て気付いたのだ。スーツは数着を着まわしているのに、ネクタイは常に同じ柄のものをしていることに。
関連付けの如く、社内行事の誕生日プレゼントのことを思い出す。以前ひぃなが、最終的に購入するのは堀河だと言っていたので、購入履歴に画像が残っていないかを確認したところ、中途採用で入社した黒岩用に、個別で一本だけ購入した履歴が残っていた。
その画像と写真の中で黒岩が身に着けているネクタイは全く同じものだった。
「これ、ひなが選んだって知ってるんですか」
『担当がひぃなだってのは社内の人ほとんどが知ってるわよ。ただ、この時は新規採用時期じゃなかったし一人分だったしで、私が適当に値段だけ見て買ったやつだけど……』
「それってあっちは知ってるんですか?」
『知らないんじゃない? わざわざそんなこと言わないもの』
「独り相撲ですね」
『ひぃなが巻き込まれた時点で独りじゃなくなってるけどね……』
もしそれを“特別扱い”と捉え、勘違いを真実だとしてすがっているのなら。
裏切られたと思った瞬間、何をするかわからない。
私設SPに依頼してすぐ、堀河に協力をあおいだ。有事の際はすぐ社内に入れるよう、社員用の入構証を発行し、護衛達に渡す。社内での動向も可能な限り報告をしてほしいと要請した。
社内にはビルにもともと設置されていた監視カメラが各所にあり、ビルの出入口に設けられた守衛室で管理されている。暴漢などが押し入ったときには常駐している守衛が対処に入るし、ひぃなも一人で行動しないようにしているらしいのでそこまで心配ではない。むしろ、一人になる時間の多い通勤中のが気がかりだ。護衛が付いているので、いざというときにはそれに頼るしかない。
今日も無事終業時間を迎え、後輩たちと駅に向かった旨がメールで届く。
「ただいまー」
「おかえりー」
パタパタと足音を立てて攷斗がひぃなを出迎える。そんな攷斗を、ひぃなはなんだかじっと見つめてしまう。
「……どしたの?」
「なんか、いいなーって思って」
ひぃなが靴を脱ぎながら言う。
「そう?」
「うん。帰ってきて、出迎えてもらえるのっていいね」
「そうだね。これからも帰ってきたらちゃんと言ってね。大きい声で、奥まで聞こえるように」
ふふっとひぃなが笑って、
「はーい」
攷斗のあとに続きながらリビングへ向かった。
いつものように、誰もいない部屋に声をかけた。はずだった。
「おかえりー」
リビングへ続く廊下から、攷斗が歩いてくる。
「あれ? ただいま。今日早かったんだね」
「うん。しばらくはこっちで作業しようかなと思って」
「そうなの? なにかあった?」
「ん? 気分転換」
「そう。何か手伝えることあったら教えてね」
「うん、ありがとう。あ、ごめん。さっき帰ってきたばっかだから、夕飯のこととか何もしてないわ」
「大丈夫だよ。お仕事優先してください」
「ごめん。ありがとう」
「うん。この先もおうちでお仕事のときも気にしないで大丈夫だからね?」
「うん。でも、手伝えることあったら教えてね」
と攷斗が言い終わらないうちに、ひぃながくすくす笑い出した。
「ん? なんか変なこと言った?」
「ううん? 二人で同じこと言ってるなって思って」
「確かに」
攷斗もつられて笑い出す。
この笑顔を守りたい。
日々増していくその想いは、堀河からの報告でより強くなっていた。
* * *
攷斗のスマホには、私設SPからの定期連絡が入る。
すぐに対応出来るように自宅で仕事をしているが、正直気が気ではない。車で送迎したいくらいだが、ひぃながそれをよしとするとは思えない。
それに、ひぃなにも黒岩にも、危険を察知した人間がいることを知られたくなかった。
あるとき、画像フォルダに溜まってしまった黒岩の写真を見て気付いたのだ。スーツは数着を着まわしているのに、ネクタイは常に同じ柄のものをしていることに。
関連付けの如く、社内行事の誕生日プレゼントのことを思い出す。以前ひぃなが、最終的に購入するのは堀河だと言っていたので、購入履歴に画像が残っていないかを確認したところ、中途採用で入社した黒岩用に、個別で一本だけ購入した履歴が残っていた。
その画像と写真の中で黒岩が身に着けているネクタイは全く同じものだった。
「これ、ひなが選んだって知ってるんですか」
『担当がひぃなだってのは社内の人ほとんどが知ってるわよ。ただ、この時は新規採用時期じゃなかったし一人分だったしで、私が適当に値段だけ見て買ったやつだけど……』
「それってあっちは知ってるんですか?」
『知らないんじゃない? わざわざそんなこと言わないもの』
「独り相撲ですね」
『ひぃなが巻き込まれた時点で独りじゃなくなってるけどね……』
もしそれを“特別扱い”と捉え、勘違いを真実だとしてすがっているのなら。
裏切られたと思った瞬間、何をするかわからない。
私設SPに依頼してすぐ、堀河に協力をあおいだ。有事の際はすぐ社内に入れるよう、社員用の入構証を発行し、護衛達に渡す。社内での動向も可能な限り報告をしてほしいと要請した。
社内にはビルにもともと設置されていた監視カメラが各所にあり、ビルの出入口に設けられた守衛室で管理されている。暴漢などが押し入ったときには常駐している守衛が対処に入るし、ひぃなも一人で行動しないようにしているらしいのでそこまで心配ではない。むしろ、一人になる時間の多い通勤中のが気がかりだ。護衛が付いているので、いざというときにはそれに頼るしかない。
今日も無事終業時間を迎え、後輩たちと駅に向かった旨がメールで届く。
「ただいまー」
「おかえりー」
パタパタと足音を立てて攷斗がひぃなを出迎える。そんな攷斗を、ひぃなはなんだかじっと見つめてしまう。
「……どしたの?」
「なんか、いいなーって思って」
ひぃなが靴を脱ぎながら言う。
「そう?」
「うん。帰ってきて、出迎えてもらえるのっていいね」
「そうだね。これからも帰ってきたらちゃんと言ってね。大きい声で、奥まで聞こえるように」
ふふっとひぃなが笑って、
「はーい」
攷斗のあとに続きながらリビングへ向かった。
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