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偽装結婚を偽装してみた

小海音かなた

Chapter.67

 年越しそばと、煮込み終わった豚の角煮を食べながら、年末恒例の歌番組やバラエティ番組を転々として無事年を越した。
「「あけましておめでとうございます」」
 年が明けたと同時に、二人で頭を下げる。
 朝は少し遅めに起きて、おせちとお雑煮をブランチにするつもりだ。大体の起床時間を示し合わせて、リビングで待ち合わせをする。
 来年の年越しは、一緒の部屋で寝起き出来るのかな? なんて、鬼が聞いたら大笑いしそうなことを思いながら、二人はそれぞれ自室に戻った。


 夜が明けて、リビングでの待ち合わせより少し早く起きたひぃなは雑煮用の澄まし汁を作っている。攷斗が起きて来たらいくつ食べるかを聞いて、角餅を焼く予定だ。
 冷蔵庫で一晩寝かせたローストビーフを薄く切って、空けておいたお重の隙間に詰めた。
(おぉ、上出来)
 まるで元々入っていたかのようにしっくりきている。お重の蓋を戻し、キッチンへ移動する。
(あー、なんだろ。幸せ)
 出汁の香りがする湯気の温度を感じながら、ひぃなはそんなことを考える。
 ちょうど一ヶ月前に婚姻届を出して、最初はどうなることかと思ったが、攷斗とならいつまでも平和で、幸せに暮らせる気がしていた。
(棚井もそう思ってたらいいな)
 そんなことを思っていると、背後に人の気配がした。
「おはよ」
 少し寝癖のついた髪と寝ぼけ眼の攷斗が首をかしげながらひぃなに挨拶をした。
「おはよ。まだ眠い?」
「んー、ちょっとね」
「なにか飲む?」
「お茶のむ。あ、自分でやるよ」
「ありがとう。もうご飯食べられそう?」
「うん、食べたいな」
「お雑煮、おもち何個入れる?」
「んー、にこ」
「別途焼いたお餅も食べます?」
「えー、迷う。どうしようかな」
 ひぃなの隣で空いているスペースを使い、コップに移したお茶を飲みながら攷斗が悩む。
「いまじゃなくても、食べたくなったら対応いたしますよ?」
「ありがとう。あ、じゃあ、いま焼いてもらうの、一個お雑煮で、一個磯辺焼きがいい」
「あ、それいいね。私も真似しよ」
「大丈夫? 食べきれる?」
「一個を半分に切って対応いたします」
 個包装された袋から取り出した餅を半分に切って、攷斗の分と一緒にオーブンへ入れる。
「頭いいね」
「お褒めいただきありがとうございます」
「なに、さっきから改まっちゃって」
「ん? 新年だし、元日くらいはしっかりしようかなって」
「いいのに別に」
 攷斗が笑いながらひぃなの手元を覗き込む。
「やっぱ同じところ出身でも、中身違うんだね」
 お雑煮用の澄まし汁の具材を見て、面白そうに言った。
「あ、やっぱ違った?」
「うん。でも美味そう」
 攷斗はいつものようにニコニコと笑う。
「なんか手伝う?」
「あ、じゃあ、そこのトレイを持って行ってください」
「はーい」
 攷斗がトレイを持ってリビングに行くと、テーブルの中央にはすでにお重が置かれていた。運んだトレイの上には、祝袋に入った丸箸と取り皿が二人分。それに醤油の卓上用ボトルが載っている。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         
 箸と取り皿を二人の定位置の前に置いて、醤油は真ん中あたりに配置。トレイを戻しにキッチンへ行く。ついでに、さっき使ったままで置き去りにしていたコップとお茶のポット、そしてもう一つ新しいコップを持ってソファへ座った。
 キッチンから焼き上がりの音が聞こえる。
「お待たせ~」
 大きなトレイに雑煮の椀と磯辺焼きの皿、温め返した豚の角煮と筑前煮の皿も載せて、ひぃながリビングへやってきた。配膳してお重の蓋を開け、
「食べますか」
 攷斗に微笑みかける。
「うん」
「「いただきまーす」」
 普段同様二人で号令して、新年最初の食事をとる。
「あー、うまーい、幸せー」
 雑煮や煮物類をパクつき、攷斗が食料と一緒に幸せを噛み締めた。
「お口に合ったようでなによりです」
「それもそうだし、ひなと一緒に過ごせるのが幸せ」
「……ありがとう」
 なんと言っていいかわからず、礼を述べる。
「おせち、おいしいね」
「ね。ここ何年かは笹本亭の買ってるんだけど、いいよね。また店も行こうよ」
「行きたーい。あれ、もしかして年越しそばもあそこで食べてたりした?」
「いや、すんごい混むから予約しないとなんだけど、予約しても行けるかどうかわかんないから家でカップ麺食ってた」
「そうなんだ」
 誰か一緒に年を越す人がいたのかと思っていたが、そうでもないらしい。
「ひなは?」
「私も大人になってからは、一人で乾麺茹でて近くのスーパーでお惣菜買ってって感じだったな~」
「あれ? 社長と過ごしてたんじゃないの?」
「サエコはほら、そのあたりの時期、ここ何年かは旦那さんいたから」
「あぁ……え、じゃあ結構な間、年越し一人でしてた?」
「そう……だね……」
 行間で過去のことを思い出しながらひぃなが答える。
「なんだ、じゃあ誘えば良かった。遠慮してたわ」
「ん? そうなの?」
「うん。だって行きたいじゃん。一緒に年越しそばとか初詣とかさ」
 元・後輩、現・旦那はたまにとても可愛らしいことを言う。
「できるよ、今年は」
「そう。だから嬉しくてさ」
「初詣、たのしみだなー」
「いつも行くとき、車停めらんないから歩いて行ってるんだけど、どうかな?」
「いいよ? どのくらい?」
「片道、一人で普通に歩いて3~40分くらい」
二人でゆっくり歩くと一時間弱程度か。
「腹ごなしにはいいかも。歩きで大丈夫です」
「うん。じゃあ、14時過ぎに出よ」
「はーい」
 ブランチを食べてお茶をして、正月特番に飽きた頃家を出る。
 いつもとは違うラフな格好のひぃなと一緒に並んで歩く攷斗は、それだけで嬉しそうだ。

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