話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

偽装結婚を偽装してみた

小海音かなた

Chapter.60

 連休が明けて、早いもので一週間 (正確には五日)が経ってしまった。
 折しも世間はクリスマスシーズン。当日まであと一週間と数日ともなると、街中のディスプレイやショーウィンドウ、街路樹までもがクリスマス装飾で飾られている。
 街が色付き始めると、今年もそろそろ終わるなぁ、と実感する。雰囲気は明るくなるし、街ゆく人たちの表情もどこか楽し気で少しだけ心も弾む。とはいえ、アパレル業界は季節を先取りしているので、毎年一般的な大きい行事があるたび体内の時系列がおかしくなる。十年も経験すれば、さすがに克服出来ているが。
(個人的には特にこれといって別にって感じだったけど……)
 幼少期はそんなイベントとは関係のない暮らしをしていたし、同棲をしていた頃もお互いあまりイベント毎に関心がなかったので特に何もしていなかった。
 堀河家で暮らしているときは毎年ファミリーパーティーに参加していたが、そこを出てからというもの、クリスマスはただ過ぎていくだけのイベントだった。
 仕事柄必要なので、知識を蓄え、年間行事として押さえているだけ、という印象。
 でも今年は違う。
 仕事が速い攷斗のおかげで、クリスマスケーキの予約が出来た。明日にはディナー用の食材を買い出しに行く予定だ。
 仮装をするつもりなど毛頭ないが、部屋の飾り付けくらいは何かやってもいい気分になってくる。
 ふと、暗い道の途中で暖かな灯りに照らされた一件の雑貨店に目が留まる。
 会社帰りに通る道で、いつも気になってはいたが入店することはなかったその店は、今年の初め頃にオープンした新しい店だ。
 北欧系の家具や雑貨を取り扱う素朴で可愛らしい店頭に、大きなツリーが飾られていた。LEDの小さな電球が規則的に明滅を繰り返し、その存在をアピールしている。
(さすが本場……)
 ついつい足がそちらに向いてしまう。
(可愛いなー)
 そろりと店内に入る。
 間口から想像していた以上に店中は広く、しかし所狭しと雑貨が並べられている。
(かわいい~!)
 ひぃな好みのテイストで埋め尽くされた店内を回って見るうちに、自然とテンションが上がっていく。
 一角に特設コーナーが設けられており、クリスマスグッズが目に眩しいほどにディスプレイされていた。
(やっぱりなにかしようかなぁ)
 ひぃなの膝丈くらいの棚に、小さなツリーのセットが置かれているのに気付く。
 蓋が外された箱がOPP袋で包装され、セットの中身が見えるようになっている。
 紙の緩衝材が敷き詰められた箱の中央に60cm程度の白いツリー。その周りに、カラー分けされ、瓶詰めされた小さなオーナメントが収まっていた。
 すぐ脇には見本として、中身を使って飾り付けられたツリーが立っている。
(えっ! 可愛い!)
 しゃがんで、目線の高さをツリーに合わせる。
(えぇー、どうしよう。キッチンのカウンターに置くのに丁度よさそうな大きさだけど~……邪魔になるかなぁ~)
 値段を見ると、一番価値の高いお札が一枚とちょっと。
(オーナメント凝ってるもんね~)
 うーん、と悩んで、しかしやはり心惹かれた事実には逆らえなくて、未開封の箱を手にレジへ向かった。
(もし邪魔だったら自分の部屋に飾ればいいや)
 大きな紙袋を持って駅へ向かう。うっかり時間を使ってしまったため、いつもより帰宅が遅れそうだ。
 冷蔵庫の中身を思い返し夕食の献立を考えながら少し速足で歩いていると、バッグの中でスマホが着信音を奏で始めた。
「ん?」
 歩く速度を落として画面を確認すると、攷斗からの着信案内が表示されている。

「偽装結婚を偽装してみた」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く