偽装結婚を偽装してみた
Chapter.58
何事もなく帰宅して、オートロックの共用玄関ドアを開ける。
(あ、郵便受け)
エントランスを入ったところに全戸分の郵便受けと宅配ボックススペースがある。個人情報流出防止のためか、名前を掲げている部屋も少ない。
自室の部屋番号を確認して中を除く。数点の郵便物が入っていたので開けようとして
(……番号、聞いてない)
気付く。
宅配ボックスもカードキー式なので、それを持っていないひぃなには開けられない。
(棚井が帰ってきたら聞かなくちゃ)
様々な登録の住所変更登録は終えているので、自分宛の郵便物や荷物もここに届くはずだ。それらを全部を攷斗に取り出させるのは申し訳ない。
今日のところは仕方がないので、そのままにして部屋へ帰る。
部屋着に着替えてエプロンを着け、夕飯の準備に取り掛かった。休暇中とは違って、攷斗が帰宅するまでにあまり時間がない。
朝食を作るとき一緒に仕込んでいた炊き込みご飯に合うおかずとして、下ごしらえしていた食材と作り置きの常備菜を活用する。
(毎週土曜は下準備の日にしよう)
この先のことを考えつつ料理を作っていく。
(買い出しのために毎回車出してもらうの悪いなー)
と、通販の利用も検討してみる。
そうこうしている内に、
「ただいまー」
攷斗が帰宅してきたので、
「おかえりー」
キッチンから返事をする。ちょうど炒め物をしていたので、手が離せず声だけの出迎えになってしまった。
「ひなのクレカ届いてたよ」
「ありがとう~。あとで確認する」
「うん、お願い。郵便受け、勝手に開けちゃってよかったのに」
「あ、そうだ。帰ってきたら番号聞こうと思ってたんだった」
「あれ、教えてなかったっけ」
「うん。あと、宅配ボックスのカードキーも持ってない」
「そっか、ごめん。実家出て以来誰かと一緒に暮らしたことなかったから、多分色々教えそびれてるわ」
(そうなんだ)
と内心安心して、少し後ろめたくも感じる。きっとその感情は、ひぃなにとって攷斗が“初めての相手”じゃないから。
自然と湧いたそれはただの欺瞞かもしれない。けれど、自力で消す術もわからない。
それに気付くことはなく、ソファの隅に郵便物の束を置き攷斗がキッチンへ移動した。
「他にも、俺が家にいないときで困ったことあったらメッセちょうだい。仕事でも使うから、割とすぐ返せると思う」
「うん。ありがとう」
「っていうか、ひなは……」
気軽に聞こうとして、何かを思い出したように口をつぐんだ。
家庭環境か元婚約者とのことか……内容を察したひぃなが攷斗を窺いつつ口を開く。
「……聞きたいなら、話すけど……」
「……いや、大丈夫」
「……うん」
それ以上の言葉を紡げない。
「ごめん、着替えてくるわ」
気まずそうに言って、攷斗がその場を離れた。
「はい」
正直どちらを聞かれても答えづらかったので助かった。家庭環境はともかく、元婚約者の話はもうほとんど忘れていて、話そうにも簡単な事実を伝えるしかない。
(あ、郵便受け)
エントランスを入ったところに全戸分の郵便受けと宅配ボックススペースがある。個人情報流出防止のためか、名前を掲げている部屋も少ない。
自室の部屋番号を確認して中を除く。数点の郵便物が入っていたので開けようとして
(……番号、聞いてない)
気付く。
宅配ボックスもカードキー式なので、それを持っていないひぃなには開けられない。
(棚井が帰ってきたら聞かなくちゃ)
様々な登録の住所変更登録は終えているので、自分宛の郵便物や荷物もここに届くはずだ。それらを全部を攷斗に取り出させるのは申し訳ない。
今日のところは仕方がないので、そのままにして部屋へ帰る。
部屋着に着替えてエプロンを着け、夕飯の準備に取り掛かった。休暇中とは違って、攷斗が帰宅するまでにあまり時間がない。
朝食を作るとき一緒に仕込んでいた炊き込みご飯に合うおかずとして、下ごしらえしていた食材と作り置きの常備菜を活用する。
(毎週土曜は下準備の日にしよう)
この先のことを考えつつ料理を作っていく。
(買い出しのために毎回車出してもらうの悪いなー)
と、通販の利用も検討してみる。
そうこうしている内に、
「ただいまー」
攷斗が帰宅してきたので、
「おかえりー」
キッチンから返事をする。ちょうど炒め物をしていたので、手が離せず声だけの出迎えになってしまった。
「ひなのクレカ届いてたよ」
「ありがとう~。あとで確認する」
「うん、お願い。郵便受け、勝手に開けちゃってよかったのに」
「あ、そうだ。帰ってきたら番号聞こうと思ってたんだった」
「あれ、教えてなかったっけ」
「うん。あと、宅配ボックスのカードキーも持ってない」
「そっか、ごめん。実家出て以来誰かと一緒に暮らしたことなかったから、多分色々教えそびれてるわ」
(そうなんだ)
と内心安心して、少し後ろめたくも感じる。きっとその感情は、ひぃなにとって攷斗が“初めての相手”じゃないから。
自然と湧いたそれはただの欺瞞かもしれない。けれど、自力で消す術もわからない。
それに気付くことはなく、ソファの隅に郵便物の束を置き攷斗がキッチンへ移動した。
「他にも、俺が家にいないときで困ったことあったらメッセちょうだい。仕事でも使うから、割とすぐ返せると思う」
「うん。ありがとう」
「っていうか、ひなは……」
気軽に聞こうとして、何かを思い出したように口をつぐんだ。
家庭環境か元婚約者とのことか……内容を察したひぃなが攷斗を窺いつつ口を開く。
「……聞きたいなら、話すけど……」
「……いや、大丈夫」
「……うん」
それ以上の言葉を紡げない。
「ごめん、着替えてくるわ」
気まずそうに言って、攷斗がその場を離れた。
「はい」
正直どちらを聞かれても答えづらかったので助かった。家庭環境はともかく、元婚約者の話はもうほとんど忘れていて、話そうにも簡単な事実を伝えるしかない。
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