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偽装結婚を偽装してみた

小海音かなた

Chapter.52

 来た道と同じように速足でコインパーキングに戻り、家路に着く。マンションの地下でいつものように車を停め、自室のある階までエレベーターでのぼって自宅ドアを開ける。
「ただいまー」
 玄関を開けて、室内にいるであろうひぃなに呼び掛けるが、自分が室内でこんな風に声をかけられたことがないので、聞こえるかはわからない。
「おかえりー」
 少し間があって、ひぃなが廊下の奥から小走りに出て来た。
 朝と同じように、エプロン姿だ。
「お疲れ様。ご飯、もうすぐできるよ。お風呂先でもいいけど」
 ドアの開放とともにキッチンから鼻をくすぐる香りが流れてくる。いつもより遅い夕飯だから、言葉の代わりにおなかの音が返事をした。
「先にご飯食べたい」
「はーい、すぐ用意するね」
「手伝えることある?」
「ううん、大丈夫。ありがと」
「なんかあったら言ってね」
「はーい」
 さりげなく鞄をソファ脇に置いて、中身をすぐに取り出せるようにする。
「ちょっと、着替えてくるね」
「うん」
 攷斗が着替えに行っている間に、ひぃなが盛り付けを進める。
 大きな皿にメインの煮込みハンバーグをドカンと乗せる。付け合わせには茹でたブロッコリーと、バターソテーしたいんげん豆。大きめのカフェオレボウルには野菜たっぷりのコンソメスープを注ぐ。別のお皿に白いご飯をよそって終了だ。
(うーん、上出来)
 それぞれの工程は単純だが、我ながら満足のいく出来栄えだ。
「うわー! めっちゃうまそう!」
 着替えを終えた攷斗がリビングへ戻ると、テーブルの上に二人分の夕食が配膳されていた。
「簡単で恐縮ですが……」
「いやいや、めっちゃ豪勢だよ」
 攷斗は弾けそうな笑顔で手を合わせ、
「いただきます」
 ハンバーグを口に運ぶ。
「んー! んまい!」
 攷斗の満面の笑みにつられて、ひぃなも笑顔になる。
「良かった」
 味見はしたが、好みは人それぞれなので反応が心配だった。安心したところで、ひぃなもハンバーグを口に運ぶ。
「うん、おいひぃ」
 うなずきながら咀嚼していると、傍らで微笑む攷斗と目が合う。
「ん?」
 何か言いたげな瞳をしていたので短く問うと
「いや、幸せだなーと思って」
 攷斗が目を細めた。
 ひぃなは少し驚いて、少しあとに「うん」と短く同意して、はにかんだ。
 こうやって少しずつ、信頼を積み重ねていけたら、いつか素直に気持ちが伝えられるかもしれない。
 そんな期待を胸に、夕餉ゆうげを終えた。

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