偽装結婚を偽装してみた

小海音かなた

Chapter.51

 社外での仕事を終えて、予定通り井周の店へ向かう、
 いつものコインパーキングに車を停めて、少し早足に目的地へ赴いた。
 ここのところ打ち合わせで良く来ている井周の店が、なんだかいつもより光って見える。
(漫画とかで良く見るアレって、現実にもあるんだな)
 などと思うが
(…あ、ライトアップされてんのか……)
 店外に設置されたいくつかの照明器具が、実際に店を照らしていた。
 普段の来訪は昼間が多いのですぐには気付かず、少し恥ずかしい思いをする。
 扉を開け、中に客がいないのを確認してから「どうも」カウンターにいる井周に声をかける。
「お、いらっしゃい」
 井周がニヤリと笑い、カウンターの引き出しを開けた。
「今からでも微調整は可能だから、確認してみて」
「ありがとう」
 カウンターに置かれた二つのジュエリーケースのうち、一つを開けてみる。
「うわー、すごい。イメージ通り」
 攷斗の顔にパァッと笑みが広がる。
「なら良かった」
 開けたのは自分用だったので、もう片方のひぃな用も開けて確認すると、やはり期待以上の出来栄えだった。
 これなら、いま計画しているジュエリーのラインも成功するに違いない。
「もしサイズ合わなかったらお直しするんで教えてください」
「うん、了解です。じゃあ、支払いはこれで」
 財布からクレジットカードを出して、井周に渡した。
「金額は昨日言ってたこれでいい?」
 井周が計算機を使って提示した額を「はい、それで」と攷斗が承認する。
 レジに打たれた額も同じかを確認して、クレカの暗証番号を打ち込んだ。
「ラッピングしますね」
「俺のほうは袋に入れてくれれば大丈夫なので、嫁のほうだけお願いします」
「はい、かしこまりました~」と、井周がラッピングをしながら口を開く。「奥さん、キレイな人だね」
「そーなんだよ。キレイだし可愛いし仕事できるし気が利くしでさ~」
「あ、ノロケは間に合ってます」
 ラッピングの手を止めず、井周が攷斗の話をバッサリ切った。
「いいじゃん、聞いてよ。まだ言える人少ないんだよ」
「今度どっかで呑んだときにね」
 はい、どうぞ。と二つの小さな袋を攷斗の前に置いた。
 それを受け取り、愛用のバッグに入れて
「じゃあ今度、これの感想も添えてじっくり聞いてもらうわ」
 井周を呑みに誘う。
「それはありがたい」
「また連絡するね」
「はーい、お待ちしてます」
 井周が手を振って攷斗を見送った。

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