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偽装結婚を偽装してみた

小海音かなた

Chapter.44

(待ってる間、けっこう拷問なんだよなー)
 攷斗がソファの上で膝を抱えながらテレビを見ている。画面に映る番組を視聴しているのではなく、ただ、眺めている。何故なら、浴室が気になって内容が頭に入ってこないから。
 まぁどちらが先に入っても、結局ひなが出てくるまでリビングで待っていただろうから順番はあまり関係なかったかもしれない。
 変に想像しないようテレビに集中しようとするが、どうにも間が持たない。
 タバコは吸わないし酒を飲んだら理性を抑えられなくなりそうだしで、時間をつぶす手段がなく手持無沙汰がはなはだしい。
 仕事のアイデア出しをしようかとも思うが、なんだか悶々としたデザインが出来そうだ。それはそれでいいと思うが、見る人が見たらその時の感情がわかってしまうので、人に見せるとき自分が恥ずかしいよなと思う。
 番組が終盤にさしかかったところで、リビングのドアが開いた。
「……お待たせ、しました」
 上下共布のボア生地で出来た有名ブランドの部屋着に身を包んだひぃなが姿を現した。初めて見るノーメイクの顔は、部屋着と同じ桜色に染まっている。
「……うん」
(えっ。かわいい。やばい。これ毎日見せらてなにもできないのキツイ)
 思わず凝視してしまい、ひぃなに不審がられる。
「なんか、どこか、おかしい?」
 実は攷斗と同居をするにあたり購入して、今日初めて着るので似合っているかどうかが不安だ。身を半分よじりながら自分の体を確認する。
 やっぱり若者向けだったか、と反省しようとしたところで
「おかしくない。ごめん。かわいくて、見ちゃってた」
 否定と謝罪と賛辞が一度にやってきた。
「う、あ、はい。ありがとう」
 突然のことに対応しきれないひぃながあたふたするのにつられて、攷斗も慌てたようにソファから立ち上がった。
「俺も、入ってくるね」
「うん」
「気にしないで寝ちゃってていいから」
「うん」
「色々、ご自由に、どうぞ」
「…うん…」
 我ながら言わなくていいなと思うことを残して自室へ戻る。
(いやマジやばい。毎日こんなに我慢しなきゃダメなの?)
 クロゼットから着替えを漁り、洗面所へ向かう。
(あれ、もしかして脱いだ服とかかごに入りっぱなし……?)
 見たいわけじゃなく、見たらまずいという理由で気に掛ける。
(やっぱり順番関係あったわ!)
 なんとなくソッと洗面所のドアを開ける。普段と変わったところは特に見受けられない。
 洗濯機のすぐそばに置いてある洗濯かごに脱いだ自分の服を入れようとして、すでに洗濯ネットが入っていることに気付く。絵柄付きで中身が見えにくいタイプの小さいネットと、中身がわかる普通の白いネット。シャツなどが入った白いほうが上に置かれているので、小さいほうは、まぁ、それだろう。
(あっ、ねっ。そうだよね、うん)
 ホッとしたようながっかりしたような気持ちが綯い交ぜになってなんとも言い難い表情が浮かぶが、洗面台に置かれている攷斗の歯ブラシセットの隣に、ひぃなのそれが並んでいるのを見つけた途端、すぐににへらと緩んだ。
 浴室へ入ると、蒸気の温もりを肌に感じる。さきほどまでひぃなが使っていた痕跡は、攷斗の理性をこれでもかとゆさぶる。
(あー、やっぱりこれからは先に入らせてもらおうかなー)
 ひぃなが持参した、攷斗の物とは違うのシャンプーやボディソープの甘い香りが鼻と煩悩をくすぐる。意識と関係なく反応しそうになるのをなんとかこらえて、シャワーのカランをひねった。
(そういえば換気扇のスイッチの場所教え忘れた)
 いまからでも遅くはないが、なんとなく、そのままシャワーを浴び始める。
(冬だし、寒いし、シャワーだと)
 自分に言い訳しながら頭と身体を洗い終えた。洗面所で身体を拭きドライヤーをかけ、部屋着を身に着けてリビングに戻る。

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