偽装結婚を偽装してみた

小海音かなた

Chapter.18

 そして翌日。
 実感が伴わないまま、ひぃながいつも通り出勤する。
 いつも通り全従業者揃っての朝礼が、堀河の主導で行われる。
 トピックスや連絡・引継ぎ事項の申し送りをして、堀河の号令で終わる。はずだった。
「あっ、そうそう。時森さーん」
「はい」
 思いがけず呼ばれて、きょとんとした顔で返事する。
 堀河は手招きをしながら
「前に出て、結婚のご挨拶してー」
 半日前に“内緒”と誓った事案を、全社員の前でこともなげに開示した。
 一瞬静まり返ったオフィス内が突如どよめく中、内心の怒りを気取られぬよう平静を装ったひぃなが堀河の隣へ移動した。
「……ワタクシゴトでお時間取ってすみません。先日入籍いたしました。名字は変わらず【時森】として業務に励みますので、今まで通りのご指導、ご鞭撻のほどお願いいたします」
 おじぎして、挨拶を終わらせる。
「はい、ありがとうー。ではみなさん。本日もよろしくお願いします」
 少しのざわつきを残しながら、従業者は三々五々持ち場へ移動する。
 それには続かず堀河の隣にとどまるひぃなを、少し離れたところから湖池が心配そうに見つめている。
 それまで貼り付けていた微笑をはがし、
(許さん……!)
 目で語りかけるひぃなの鬼の形相に気付き、堀河が笑顔を凍り付かせてフリーズした。
 立ち去るひぃなの後頭部、そのてっぺんからギュルリと螺旋を描くツノが見えた気がする。
「社長」
 その一部始終を見ていた湖池が堀河にそっと歩み寄る。
「昨日の話誰かにしたら、オレ、殺されますかね」
「あんたもだし私もよ……特に相手が誰なのか、絶対言うんじゃないわよ……」
「りょうかいっす……」
「大丈夫になった段階で教える」
「お願いします」
 それじゃ、と挙手で合図をして、堀河と湖池もそれぞれの持ち場に着いた。

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