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偽装結婚を偽装してみた

小海音かなた

Chapter.12

 従業者名簿のファイルに住民票を戻し未使用のクリアファイルを持って戻ると、攷斗は子供のような純真な顔で、婚姻届を嬉しそうに眺めていた。
 何故だか少しだけ、ひぃなの涙腺が刺激される。
「あ、おかえり」
 言ったそのすぐあとには、いつもの表情に戻っていた。
「うん。ただいま。書類、これに入れる?」
 クリアファイルをそっと差し出すと、
「うん、さすが。ありがとう」
 攷斗はパッと笑顔になり、婚姻届と住民票を一緒に入れた。さらに折れないようにと結婚情報誌に挟んで、バッグに入れ、
「はい、これあげる」
 ティッシュでインクを拭いた判子二本をひぃなの前に置いた。
「えっ」
 まさか【棚井】姓のほうまで渡されると思っていなくて、驚きの声を出してしまう。
「俺、自分のやつ家にあるし。この先手続きで色々使うでしょ?」
「そっか。そうだね……ありがとう」
 考えてもいなかった未来のことを言われ、ひぃながやっと気付く。同時に、【棚井】姓の判子の印材をグレードアップさせた意味がわかって、少し照れくさくなる。
「あ。それは誕生日のプレゼントってわけじゃないからね?」
「うん」
 ひぃなが笑いながら、ボールペンと【時森】【棚井】の判子をポーチにしまっていると、
「おっ、書けたみたいねー」
 四人分のカップを持って、堀河と湖池が戻ってきた。
「はい、おかげさまで」
 礼を言って四人でお茶をする。
「そういえば、ひなの有給ってまだあるんですか?」
「あるわよー、今年度で消えるやつが、たんまり十日間」
「じゃあそれ使わせてもらっていいすか」
「どーぞぉ」
「ちょっと」
 当の本人を余所に進む話に、本人であるひぃなが口を挟むが聞き入れてはもらえない。
「新婚旅行っすか」
「「ちがうよ」」
 湖池の質問に攷斗とひぃなの回答が被る。
「引っ越し」
「えっ?」攷斗の回答にひぃなが疑問符を投げると、
「「「えっ?」」」他の三人が疑問符を投げ返した。
「だってもうすぐ更新なら早いほうがいいでしょ」
「いやそうだけど、急じゃない? まだあと三ヶ月は余裕あるんだし」
「えー、急なの? 同棲とかしてないんだ」無邪気に問いかけた湖池を
「あんたはちょっと黙ってなさい」堀河がたしなめた。
「はいっ!」
 湖池は背筋を伸ばして敬礼し、そのまま押し黙る。

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