気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!

味噌村 幸太郎

『第三十五章 10年越しの恋』 298 初恋


 10年前。
 俺が小学生の頃。
 3年生ぐらいだったか。
 俺はクラスで浮いていた。
 曲がったことが大嫌いな俺は、間違ったことを正論のように語る奴を見ると、すぐケンカを売っていた。
「お前は間違っている!」と。
 もちろん、ケンカと言っても、理詰めの口ゲンカばかり。
 だから嫌われていた。
「新宮は弱いくせに、うるさい」て。
 
 次第に仲の良かった友達も俺から離れて行き、いつも一人ぼっちだった。
 だから、学校なんてつまらないところ。早いうちに見切りをつけてやると、不登校を自ら選んだ。
 家には新しい妹とか言う、クソキモい生命体を親父が連れて来たっけな。
 幼女のくせして、乳がデカくて、キモいったらありゃしない。

 やたらと俺になついてくるから、ウザく感じた俺は、よく映画館に足を運んでいた。
 色んな映画を見た。
 上映中の作品は全て見尽くすほど。
 洋画が好きだったのだが、観る映画がもう無くなってしまった頃。
 俺はシネコンてやつは苦手だったが、唯一観賞してない作品を上映中のカナルシティ博多に向かった。

 そこで、初めて出会ったのが、タケちゃんの映画だった。
 今でも覚えている。
 確か、作品名は『打ち上げ花火』
 当時名誉ある海外の最優秀賞を取り、話題になっていた。
 俺はタケちゃんと言えば、芸人というイメージが強く、別に好きでも嫌いでもなかった。
 お茶の間の人気者。
 どうせ、映画監督なんて趣味レベルでやっているのだろうと、少しバカにしながらチケットを購入し、劇場に向かう。

 だが、上映開始のベルが鳴るや否や、その先入観は全て消え失せる。
 圧倒的な映像美。独特なセリフ回し。目を覆いたくなるような暴力描写。
「すごい!」
 素直にそう思えた。
 たった1時間30分だったが、俺には30年分ぐらいの半生を見せられているように感じた。

 映画が終わっても、まだ胸がドキドキしていた。
「カーッ! 超すげぇ! 決めたぞ、俺はタケちゃんファンになるぞ!」
 なんて拳を作って、席から立ち上がる。
 よし、パンフレットを買って帰ろうとしたその時だった。

 隣りの席に座っている一人の少女が邪魔で、スクリーンから出られない。
「おい、女。映画終わったぞ」
「……」
 ひじ掛けに肘をつき、手のひらに小さな顎をのせている。
 長い金色の髪で顔が隠れていて、どんな奴かはわからないが、どブスのヤンキーだろう。
「聞こえてないのか? 早くどいてくれ!」
 人がさっさとパンフレットを買いたいというのに。
「……すぅすぅ」
「こ、こいつ」
 寝てやがる。
 俺は無性に腹が立った。
 早くパンフレットを買いたいという気持ちもあるが、なによりも先ほどまで上映していた崇高な作品『打ち上げ花火』をちゃんと観賞せず、眠っていることにだ。
 普段なら、無視するところだが、今日から俺はタケちゃんの推し!
 アンチ許すまじ。
「女。起きろ!」
 小さな彼女の肩を激しく揺さぶる。
「な、なによ……うるさいわね」
「女! お前、この映画を見ていなかっただろ! 眠っていたな!」
 ビシッと指差してやる。
「ああ……やっと終わったのね。この退屈な映画」
「なんだと!? 貴様、もう一辺言ってみろ!」
 彼女は深いため息をつくと、長い金色の髪をかき上げて、視線を俺に合わせる。
 その瞳を見て、一瞬で俺は言葉を失った。
 宝石のようにキラキラと輝く青い瞳。
 こいつ。外人か?

「退屈な映画だから、眠ってしまったことが何が悪いの?」

 それがマリアと初めて出会った日の出来事だ。

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