気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!

味噌村 幸太郎

41 プリクラは男子禁制


 アンナが痴漢? された罪滅ぼしとして、俺はプリクラを一緒に撮ることにした。
 思えば、プリクラなんざ、人生で一度も撮ったことなかったな。

 スクリーンからまた長い長いエスカレーターに乗る。
「ところでアンナ、あのおっさん、アンナをずっと見ていたのか?」
 彼女はうつむきながら答える。
「うん……チケット売り場の時からずっと見てたみたい……」
「すまない、俺がもっと早くに気がつけば」
 拳を強く握るが、アンナの柔らかい手によってほぐされる。
「タクトくんは悪くないよ……私も早くにタクトくんに伝えておけば、私の身体も触られなかったのに」
 どうやら、あの変態親父に触れた場所は、左の太ももらしい。
 アンナが悔やんだ顔でももに触れている。

「上映中、ずっと触られていたのか?」
 俺、すごく怒ってるわ。
「ううん、途中から……何回も手をどかしたのに、何度もしつこかった」
 クソッ! 俺が触りたかった!

「アンナ、もう二度とお前をそんな目にあわせないと誓うぞ」
「ありがとう!」
 アンナの顔に笑みが戻る。

 エスカレーターから左手に入れば、すぐにゲームセンターとプリクラ専用のブースが見える。
 カナルシティは、学生やカップル、外国の方々も御用達の場所なので、プリクラがよく儲かるらしい。
 しかも、コスプレが無料で貸し出し可能だ。

「しかし、俺はこういうのは全然わからん」
「タクトくんって、プリクラ撮ったことないの?」
 上目遣いでのぞくアンナ。
 やめてぇ、そんな顔で見られると、撮れなくなっちゃよぉ~
 股間が『がんばれ元気』になっちゃうよぉ~

「ないけど?」
 アンナが、エメラルドグリーンの目をまるくする。
 その瞳は妖精のようだ。
「ホントに!?」
「そうだが」
「やったぁ! アンナが、タクトと生まれて、はじめてのプリクラを撮るんだね☆」
 だね☆ じゃねぇ!
 なんか、俺がかわいそうなぼっち人間ってのが、まるわかりじゃねーか!

「ま、まあ、そうなるよな」
 苦笑いが辛い。
「ふふ☆ うれしいなぁ」
 今日は笑いながら、床を見つめるんですね。
 なんか人の不幸を、めっさ喜んでいるように感じるんですが?

「プリクラの機械は、全身が取れたほうがいいよね?」
「全身? なぜだ?」
 俺の問いに頬を膨らますアンナ。
「だって、二人のはじめてのプリクラだよ? アンナだって、タクトくんの全部撮りたいもん!」
 それプリクラ必要か? スマホで俺を撮っちまえばいいんじゃね?
「了解した。ならば、俺はこの界隈は詳しくない……ので、アンナに任せていいか?」
「うん☆」
 アンナは優しく微笑むと、20台近くはあるプリクラ機を、念入りに一台一台チェックしていった。

 これは盛りすぎ、あれは全身が映らない、それはフレームが少ない……だのと文句ばかり垂れて、一向に決まることがない。

 エンドレス!
 そういえば、妹のかなでも、男の娘か女体化の同人誌を買う時はいつも迷っていたな……。
 俺からすれば、どちらも同じなのだが、女という生き物は、選択肢を用意されると迷う生き物なのだろう。
 っておい! アンナはミハイル。ミハイルはアンナ!
 男じゃい!

「あ、あれが一番いいかも☆」
 アンナが選んだのは、いわゆる『盛り』要素が少ないナチュラルな写真が撮れて、全身も撮影できる一機だ。
 尚且つ、スタンプやフレームも豊富。
 なぜ、こやつはこんなものに詳しいのだ?

 だが、プリクラ機の前にはカップルで長蛇の列。
「こんなに人気なのか? プリクラってのは!」
「そうだよ~ カップルさんだけじゃなくて、女子高生とか男の子同士でも撮るからね☆」
「男同士でも!?」
「うん☆ 部活帰りの子たちがよく撮っているよ」
 それって……なんの部活? 相撲部? 空手部? 柔道部? 
 裸体で『あぁぁぁ!』とか、事後のプリクラじゃない?

「そうか……そんなに楽しいものなのか、プリクラってのは」
「一人で撮るのは楽しくないけど、お友達とか家族と撮ると楽しいよ☆」
 おい! 俺はお友達もいなかったし、家族なんてプリクラなんざ興味ねーから!

 ふと、プリクラのブースを見渡すと『こちらは男性のみの撮影は禁止させて頂いております』とある。
 ん? 俺とアンナは男同士じゃね?

「なあ、アンナ。男同士でも撮るっていったよな?」
「ん? いったよ」
「なのに、あの『制限』はなんだ?」
 注意書きを指さすと、アンナが汗を吹き出す。
 
「あ、えっとねぇ……あれはね、痴漢とか盗撮を防止するためだよ☆」
 歯切れが悪い。
「そうか。ならば、男同士で撮るのは限られる……ということか?」
「ん~ アンナは詳しくないな~」
 話をそらすな! 絶対に確信犯だろ!

「つ、次、アンナたちの番だよ!」
 腕をつかまれ、強引にプリクラのなかに入った。
 中は思ったよりも、広々としている。
 後部には長いすがあり、座ったシーンも撮れる仕様らしい。

「じゃあ、最初はバストアップ撮ろ☆」
 バストってひびきがエロい、と感じたのは俺だけでしょうか?
「ああ」
 アンナはカメラに映し出された自分の顔を、鏡がわりに前髪を整える。
 なんかまんま女の子の仕草だよな。ミハイルのときは気にしてないのに。
 
『じゃあ、一枚目! いっくよぉ~』

 某豪華声優が可愛らしいボイスで採用されていて、声豚な俺からしたらツボだった。

「タクトくん、もっと寄ってよ」
 アンナが俺の左腕に抱きつく。
 肘が彼女の胸にあたる。
 な、なんだ! 絶壁なのに微かだがふくらみを感じる。
 これが俗にいう『ひじパイ』なるものか!?
 
「そ、そんなに引っ張るなよ……」
「もう照れないで! はい笑って」
 アンナはニッコリ、俺は引きつった笑顔。

「タクトくんの下手くそ!」
「仕方ないだろ、生まれてはじめてなんだから」
「そうだった……ごめん」
 謝らないでぇ! 俺がどんどん可哀そうなやつになってるから!

「じゃ、じゃあ次は全身ね☆」
「仕切り直しだな」
 俺とアンナは少しうしろに下がると、笑顔をつくる。
 アンナは俺の肩に顔をのせた。
 なにこの子? ビッチなの? 

「はいチーズ!」
「ち、チーズ……」
 今回もやはり俺の顔は引きつってしまった。
 アンナは案の定プンスカ怒っていたが、原因は彼女の積極的行動だと思うが。

「じゃあラストはこのイスに座って撮ろう☆」
「座ればいいんだな」
 なんか介護されているみたい。俺もいうほどバカじゃないのよ?

 二人して長いすに尻と尻を、くっつけて座る。

「タクトくん……映画館のとき、おじさんに触られて辛かったよ」
「わ、悪い」
「アンナよごれちゃった?」
「お前は汚れてなんかない。もし汚れたのならば、洗えばいい。例えばこうやって……」
 どさくさに紛れて、俺は彼女の太ももに優しく手をのせた。
 とても柔らかい……そういえば、こいつの太もも触るのって、2回目じゃん。
 ミハイルの時に自宅の風呂場で。

「嬉しい……タクトくんの手で、キレイになっていくよ☆」
 うっとりと俺を見つめるアンナ。
 俺もついつい彼女に見とれてしまった。
 互いに見つめあった状態で、『はいチーズ!』とフラッシュがまぶしく光る。
 それがなかったら、俺たちはそのままキスしていたかもしれない……。

 慌てて、互いに顔をそらす。

「じゃ、じゃあ、次はプリクラをデコろうよ☆」
「そ、そうだな」
 まるでラブホから出てくる事後のカップルのように、俺たちはそそくさとプリクラ機から出て行った。

 あとは、ほぼアンナが撮影した写真を決めて、スタンプやら日付をつけていく。
 俺は「なるほどな」と感心しながら、その姿を見つめていた。
 アンナに「タクトくんもする?」と聞かれたので、「タケちゃんスタンプはあるか」と問うと苦笑いされた。

 あっという間に、撮影と印刷が完了。
 仕上がったプリクラを、二つにわけると片方を俺がもらった。
 アンナはそれを見て嬉しそうに微笑む。

 これってどこに貼ればいいの? テーブル?

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